第21話 人質田中

自分以外にも玲奈、原口、父も連れてこられている。何か物理的ではない拘束具で腕が動かないようだ

「ようこそ、私の新世界へ、わーお!」


回転するイスでこちらに振り向いたのは順治そっくりの小柄な男だった。しかし顔は大きく曲がり肌も大荒れ、地層のような模様のシャツを着ており到底国を裏から操る権力者には見えなかった。

「順治、オラは別世界のオバエだで。この世界でオラは王になったんや!それなのに何を不満げにしてるだでか?オバエもオラの右腕にしてやるだでよアッアッアッ」

「ふざけるな!お父さんに聞いたぞ。この国の人を永遠に苦しめ、奴隷としてお互い見張らせ貧しい人はずっと貧しいまま。こんな世界で自分だけ酒池肉林、こんな世界僕は望んでない!」


順兵は顔を茹でダコのように真っ赤にしながら怒り始めた

「フシーッ!ほならね?自分のほうが幸せだって証明してみろって話でしょ私はそういいたい」

順治はまっすぐ自分そっくりの妖怪『布酢怒』をみつめて答えた

「僕はCTubeチャンネルを再開した。お父さんの許しも得ている」

「ぐっ…オラだってCTubeチャンネルくらい持ってるだで!登録者数は?オラは銀盾持ってるだで?オバエは障害者に混じって作業所通いながらせいぜい3000くらい、はいオバエの負けーw」

「僕は知的障害者だから作業所にいくことは別に不自然には思わない。それは君も同じだろう?アンチコメを打ったら家に秘密警察が来るようなチャンネルで10万人に見られてうれしいか?つくづく哀れなやつだ。僕は今まで迷惑かけた人に謝ってるんだよ」

「自分は、知的障害者ではありません。謝る!?謝る、オバエ負け!バーカプシィ!」

布酢怒は子供のように腹を抱えて笑い出した、ガタガタの歯がむき出しになっている。

「ふふ、昔の僕みたいだね。」

「な、なにがおかしいだで?」

「僕はもう一人じゃない、きちんと罪を償って仲間を得たんだよ」


縛られていた3人も意識を取り戻してきた

「黙って聞いていれば…順治さんの心の中にはこんなお馬鹿なモンスターがいたんですの?」

「順治!お前のせいでめっちゃ迷惑かけられたからな!帰ったら俺の事務所の証紙貼り手伝えよ!」

「わしが飯食ってうんこして寝るだけって言わなきゃこうなってたとはな。荒療治してよかったじゃろ?」

「ふふ、みんなごめん。終わったらまた謝罪企画だね」


目の前に強大な敵がいるのにいつも通りの平和な会話をする、意図せず布酢怒にはダメージとなっていたようだ

「フスー!ドンドンドンドン!オラを見ろ!玲奈、原口!オバエらオラの世界だといい思いできるんだでよ?だからそいつをなんとかしやがれ!」


布酢怒は何かのスイッチを押すとモニターにこちらの世界の玲奈と原口が映っていた。田中の証言通り玲奈は国家権力すらねじ曲げて美男を侍らせ、原口は白人捕虜を虐待しイキり散らしている。

「どうだ、羨ましいだで?早くこっちに来るだでよ?」

布酢怒は口を嘴のようにするどくまくしたてたが、その提案に乗るものはいなかった。布酢怒は思わずモニターのリモコンを投げ捨てカランカランと大きな音が響いた


しばしの静寂のあと玲奈は真剣な眼差しで答えた

「立場の弱い人からも学ぶことがたくさんあるのよ?」

原口はニカッと白い歯を見せて笑った

「外国人とも仲良く暮らせるんだぜ!」

ブチッ

すると全員の拘束具がちぎれ、体の自由が取り戻された

「なんで!あかんの!?」

「「そして何より…」」

『私は順様のガチ恋リスナーよ』

『順様の元で働けるなんて俺はなんと幸せなんだ』

「「私(俺)はお前なんかの支配には入らない!こんな情けない姿ごめんよ(だ)!」」


「イヤッ!イヤッ!」

順治は目の前の人間に擬態し膝から崩れ落ちた妖怪に突きつけた

「チェックメイトだ。負けを認めて早く僕たちを元の世界に返すんだ」


「…フシー、コラッ何いってんだよ!誰が立ちションじゃこら!イヤッお父さん怒らないで!ガチ恋?スカートにかけたい」

声を出すたびぷうぷうとマヌケな音が響く。布酢怒の鳴き声はもはや意味をなしてなかった。


「…終わったね。さあ帰ろうか」

踵を返し4人は立ち去ろうとしたが

「まだよまだ、まだ勝負は終わってないんだよ!」

布酢怒は壁のレバーを倒し隠し扉を開けた

「田中さん!?」

そこには田中と思しきものが横たわっていた。

思しきとつくのは半透明で何も喋らないからだ。

「オラがその気になれば『そっち』の田中も一生目を覚まさないことになるだでぇ?」

そう語る不快感を煽られる笑みは順札に描かれていたものと同一であった。




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