第20話 逮捕

老人と別れを済ませ順兵のことについて誰に聞こうか思案していると男が2人きた。

「偉大なる順兵様のご尊顔を折り曲げたのは貴様か?」

「え?なんの話ですか?」

「とぼけるな。順札は肖像画を折り曲げてはいけないんだよ」

玲奈から渡された金のうち順治の財布は折りたたみ式だったため順に折れ線がついていた。

「そんな!この世界に折りたたみの財布はないんですか?」

「いや、あるが。お前かわいそうだな。誰かの恨みでも買ったんだろ?」

刑事はニヤニヤしながら答える。どうもこの国では気に入らない人間を微罪で告発する相互監視体制が根付いているらしい。

「さっさと来い!」

「山崎さん!」

玲奈が叫ぶも順治は静かにのポーズを取った。

「ここで騒げば玲奈さんも公務執行妨害とか言われて捕まると思う。だからここは僕にまかせて」

順治は警察に抵抗の意思を見せずパトカーに乗せられた。


順治は薄暗い取り調べ室に連れて行かれた

「順兵様のご尊顔を折り曲げたのは事実か?」

「はい、知らなかったとはいえ申し訳ないです」

「なあ、ここだけの話だがあの天神のお嬢さんそっくりな姉ちゃんいるだろ?あいつが俺たちと遊んでくれたら今回は見逃してやるよ」

刑事は下衆な笑みを浮かべ耳打ちする。順治は怒りに任せこう切り返した

「けど!こんな微罪で女性の尊厳を踏みにじれなんて命ずるのは間違ってない?あとその前に順兵の愚策がたくさんの民を殺してるんだよね。こうやって人が追い込まれていくのを実感したよ。やっぱり順兵は…『布酢怒』は人殺しだよ」

「喜べ。不敬罪だけでなく国家機密漏洩罪も追加だ」

「え?じゃあ順兵は本当に布酢怒…?それともたくさんの人を殺してるのとこ?」


「き、貴様ー!」

刑事が順治の顔面に拳を叩き込んだ

「う、うぐっ」

鼻血が吹き出し頬は大きく腫れていく、このままでは顔も曲がりそうだ

「順兵様みたいなブサ…イケメンにしてやるよハハハ」

「こんなことしても…僕は意見を変えませんよ」

口に溜まった血を床に吐き捨ててから順治は刑事に向き合った


「いいねえ〜その反抗的な目。いつ泣きついてくるか楽しみだぜ〜?」

刑事は嗜虐の歓びに震えながら机の引き出しを開けた。中にはペンチやハンマー、ナイフなどこれから順治の体を傷つけるであろう凶器が多数揃えられていた

これまでか…今までの迷惑の分は善行で返せると信じていたが死を持って償うのも悪くないな、そう考え覚悟を決めようとしたとき


ジリリリリ!

突然電話が鳴った

「チッ…いいとこだってのに…もしもし、こちら埼玉帝都警察反体制分子対策課…って偉大なる臣民の父順兵様!?」

順兵…?まさか布酢怒が直接きたのか?

突然強い酸性の臭いが鼻を突いた、雑巾に酢を染み込ませたような不快な臭い、間違いない布酢怒だ。

「喜べ。順兵様が直々に貴様のマヌケ面を見てから処分を所望してるようだ」


目隠しをされ歩かされる。いったいどこに向かっているのか。途中エレベーターのようなものに乗せられたからどこかの建物の上層階か。

「順兵様、ご入場!」

目隠しを外され僕はいよいよ順兵、布酢怒との最終決戦に挑むことになった。

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