第12話 善の布酢怒

「きっと罰が当たったんだな。そう思って俺は目の前の死神に身を委ねたんだ」

原口は続ける。気がつけば順治たちは食い入るようにその弁を聞いていた。

「そうしたらさっきのいいにおいがもっと強くなって…きがついたら俺は知らない場所にいた」

「知らない場所?」

順治が訪ねる。

「ああ、俺がいったことない場所だな。ただそうだな、おじいちゃんおばあちゃんに感謝されて子供たちも俺に懐いてた。こんな風な世界もあったんだなと思うととにかく後悔したよ。そう思ってたら変な声がしたんだ、順治みたいな」

「え?暗に僕の声変って言った?」

軽く傷つく順治を無視し原口は続けた

「『ほならね?自分がこうなってみろって話でしょ私はそういいたい』こう聞こえた気がしたんだ。どこか間の抜けたトーンでムカついたね。やってやる、だから俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねえ!そう決意した時、俺は地元民の方の家にいた。救助されてたけど意識を失ってたんだと。それからだよ、おふざけ半分で首を突っ込んだボランティアに本気になって、政治も志したのは」

一行は原口の話を聞き入り刹那何のためにここにきたのか忘れてしまっていた。


「あら?でも布酢怒の臭いは『雑巾に酢を吸わせたような悪臭』と書いてますわよ」

天神が持ってきた資料を原口に渡す。

原口はそれを流し読みしながら「じゃあ俺が聞いたものは極限状態での幻覚だったんかなあ…」とぽつりつぶやく。


「あのさ、布酢怒には悪いやつ以外にいいやつもいるんじゃないかな」

順治が推理を始めた

「どういうことだ?」

「布酢怒はターゲットを『悪い世界の自分』にしてしまう。『悪い世界』があるなら『いい世界』もあるはずだよきっと」

「パラレルワールドってやつだな。例えば今も凸者がきてびくびく隠れてたルートもあるじゃろうな」

「お父さんもう許してよ…(汗)」

父の助力により空気が緩んだのを期に順治は続ける

「いい布酢怒が来てくれるように僕たちが努力したら、悪い布酢怒は元の世界に尻尾を巻いていなくなる。だからryuも今悪いことしてないんじゃないかな?」


順治の推理は稚拙でありつつもこれにすがるしかなかった。

だが一つ問題がある

「じゃあなんで順治の布酢怒が出たんだよ?お前ちゃんと作業所いってるしまともになったと思うんだけどな」

「きっとそれだけじゃ足りないってことなんだろうね、僕にはそれが何か分からないけど」

順治は頭を抱えた。


ピロン♪

メッセージアプリ、LIMEの通知音だ。

「山ちゃん、話は聞いてると思うけど俺は今持病の発作で入院してる。統合失調症の人への対応はどうするべきか覚えてる?」

「妄想を肯定も否定もせず傾聴する」

「正解だ。だからこれから俺の『妄想』を傾聴してくれ」

田中は病室でのメモ書きをLIMEに転写しはじめた。

本来ならば田中の言う通り話は聞き流すべきなのだろう。しかし順治は彼が綴るディストピアを見てある結論に至るしかなかった。


「天神さんもryuも、布酢怒に狙われてる?」

このまま手をこまねいていてはいけない、焦燥感が全身を駆け巡った。

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