シュレディンガーの私。

@sasaki223410

第1話 シュレディンガーの私。



人には私が見えないらしい。それがどういう意味なのか。私は私と認識していにいないのか否か。いや、違う。私は桜川綾乃。高校二年生。な、はずである。いや、間違いない。友達だっている。仲がとてもいい友達一人や二人。クラスの男の子とも仲が良かったし、気になる子もいた。なのに、

「ねぇ、見えないの?私だよ?綾乃だよ?」

どれだけ話しかけても見えないこれは、まるでお化けにでもなったみたいだ。もしかして、なんでまさか。そんな事があるわけがない。パラレルワールド?そんな異世界的なのもあるわけがない。なぜなら、非現実的すぎるからだ。あり得るとするのならばそれは。私が元々存在していないか。


シュレディンガーの私。


私がいたと仮定する。すなわち私。例えば私の部屋。はある。お気に入りのクマのぬいぐるみや、私の唇を可愛く彩るリップ。彼氏から貰った大切にしているポーチ、愛用しているメイク道具だってある。椅子も、机かも。母と父もいる。何一つ、不自由のない生活。それが、私だけ。私だけが、存在しない。認識されない。聞こえていない。私がなぜこんなにも冷静でいるのかというと、理由は簡単だ。軽く1週間は経っているからだ。1週間。軽く彼氏のところへ足を運んだり、母の耳元で自分の名前を叫んだり。友達の家に上がり込んだりもした。いろいろ試した結果、半分諦め状態である。私、そんなにみんなにとって大切じゃなかったのかなぁ、ちょっと悲しい。とほほ。なんて、そんなふりはどうでもよくて。人に見えなくなってから分かったことがある。

1.私の声や身体はきこえないし、見えない。

2.私がペンを取って紙に書いたりすると、そのあとは残る。置き手紙等はできる。

3.見た人は、なんだこれ?と誰だこの人と反応する。つまり実証済み。だ。

要は透明人間になった。それだけだった。それだけ。誰にも見つからずにもこのまま2週間目も過ごすのか。ある意味楽かもな。学校に勉強しに行かなくてもいいし。朝起きるのも本当は怠い。クラスの子達の空気を乱さないように、誰も損しないように空気を回すのも疲れる。まるで空気清浄機みたい。彼氏の機嫌を伺ったり、彼氏に言いたい放題言われて、ヘラヘラしてる自分も疲れる。まるでAIみたい。AIでもマシな反応するか。なんて。ここまで整理して立てた私の仮説はこうだ。

1.私は空気となった。

2.空気が読めない。すなわち、読まれない。私という人物は、この世界に、この街に、この家に。読み込みができない。認識されない。

じゃあ他の街へ、出かけよう。そう思った。けど、ある日のことだった。


今日の作戦はこうだ。他の街で、定期を道端に落とす。歩きながら、そっと、手から落っこちたみたいに。定期だけが落ちていくのが見えて、誰かが拾って、分からないようであれば、私はこの街でも見えていない。誰かが拾ってくれたら、私は見えている。簡単なことだ。というわけで、歩いて、適当に落とし、気づかないふりをする。

「あの、落としましたよ」

「え、あぁ、ありがとうございます」

見えた。私が。私が見えたらしい。

「あああの!」

「?はい、」

男性は、私と同じくらいか、一個上か、制服を着ていて、家へ帰る途中だろうか、それとも塾か、どこか。現在時刻は17時を回るところである。

「私のこと、」

「見えますか?」


どうやらシュレディンガーの猫が、観測されたらしい。


「‥は?」

「私!自分の家や学校や住んでいる街だと自分の姿が見えないんです。本当なんです。今は、周りの人も見えていますか⁈」

定期を拾った男子高校生は私を冷めた目で見る。私は、すかさず、周りの人たちを見る。

「誰かー!聞こえますかー?」

「‥まじか」

誰も振り向かない。向こうともしない。怪訝な顔もしない。それが定期を拾った男子高校生にも分かったらしい。

「‥こういうことなんです」

「……」

何かのライトノベルかよ。と一瞬頭によぎりながらも、この後どうしよう。それだけが、私の脳内を埋め尽くした。


その男子高校生は、身長は私が155センチだから、少し高い。170?2.3?くらいで、黒いスポーツブランドのリュックを背負っている。これでサッカー部でもしたら間違いなく陽キャの分類だ。

「あの、良かったら、話だけでも聞いてくれませんか?」

「…はい」

男子高校生君は私の手を掴まず、ついてきてと言って、駅の改札口を出た。手を掴まない。それは私の中で少しホッとした。思わせぶりもせず、優しい人でもない。それだけで、私の中で、男子高校生君のポイントはちょっと上がった。私も出ることができた。定期は男子高校生君にもってもらうことにした。あれよあれよと連れてこられたのは、駅から出て、人はいるけど、あまり目につかない、木陰がある場所だった。

「私、桜川綾乃って言うの。隣の区に住んでいて、2週間くらい前からかな。誰にも見えなくなっちゃったの」

「…家族からもか」

「うん、家族からも、彼氏からも友達からも」

「…辛いな」

「そうでもないよ。むしろ楽。クラスの空気は読まなくてもいいし、彼氏の顔色も機嫌も伺わなくていい」

「そんな彼氏となんで付き合ったんだよ」

男子高校生くんは呆れ顔をする。

「うーん、告白されたからかなぁ、顔もいいし、スタイルもいいし!性格はちょっと難があるけど!」

男子高校生君は水筒を取りだして、水を飲んだ。前髪をテーパードに分けていて、眉毛も整えられている。目は切れ長の一重さん。こりゃあ、彼女さんもいるだろうなと思いながら、私はどうしようかと悩んだ。

「君はなんて言うの?」

「月島 紗月」

「月島君か!よろしくね」

彼はちらっとこっちを見て、ん、とだけ返事をした。

「桜川は、お腹減らないのか」

「減らないんだよねー、これが、でも、甘いものは食べたくなっちゃう」

「わりい、持ってねぇわ」

「いいよいいよ!気にしないで!」

「本当に誰にも見えないんだな」

道行く人が、皆紗月君の方を見て、怪訝そうな顔をうかべて歩いている。

「あ、でも置き手紙とかは形に残るよ!のにも触れる。多分、皆には、私が掴んでいるものが、宙に浮いたりしているんじゃないかな?」

「透明人間ってことか」

「そういうこと!」

「なら、悪さし放題って訳でもないな」

「逆に何するのよ笑」

「夜遊ぶとか」

「月島君は真面目さんなんだねー」

「別に」

月島君にだけ私が見える。その他大勢には見えない。何も気にしなくていい。月島君も、私の事なんて他人事みたいだし、変に優しくもしない。それが、それが。妙に心地が良かった。誰の顔色も伺わなくていい。誰の気も遣わなくていい。それが、ちょっとだけ。ちょっとだけ、心の荷物を月島君が見ないフリをしてくれたおかげで、降ろすことができた。

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