ありがとう
空間を捻じ曲げて惑星近辺から現れたアルカナが尋ねる。
「何故人類を守った?君なら、解ってくれるだろうと思っていたのに」
「あの政治家たちは確かに間違っていた。だが、罪のない一般の地球人、俺の友人や誰かの大切な人を失いたくはなかった」
「…そうか、そうだな。私も君たちがこれで手を引いてくれればこれ以上は攻撃しない…っ‼」
これで和解が成立した、誰もがそう思ったその時、アルカナかアラタか一般人類からの復讐か何かへの恐怖に駆られかつては有り余るほど持っていたはずの正義感、責任感、良識その他をかなぐり捨てたと思しき政治家が船に備え付けられた大口径量子レーザー砲を軍人の制止を無視して発射した。ろくに狙いもつけられずに放たれたそれは、戦いを終え安心しきったアルカナへと幸運にも命中した。
もちろんアルカナはその程度では全く傷つくことはなかった。体から強い炎を放った彼は、虚言者へと再びの光線を放った。ただしそれは単純な破壊光線ではなく特定の存在、この場合では発砲した人間だけを消し去るものだった。しかし、その事を知る由のないアラタは、咄嗟に光線を再び至近距離で受けることを困難だと判断しアルカナに体当たりして光線の軌道をそらそうとした。
「ま、待て、来るな‼私は今、攻撃準備状態に入って周囲へ邪気を放出している…」
何万トンもの巨体同士が衝突する。アルカナの光線はそらされたが、アラタはつい数日前までただの老人だった存在には大きすぎる物理的な衝撃と強力な邪気により巨大なダメージを受けていた。彼の身体から、光が、失われようとしていた。
アルカナには他者を治癒する能力は存在しない。彼はただ、アラタが死へと向かうのを見ていることしかできなかった。
「サコミズ・アラタ…私は君のことを決して忘れない。私のせいで、君のことを死なせてしまって、本当にすまない」
「いや、これはすべて人類が悪かったことなんだ、あなたのおかげで多くの命が救われた。…それより、あなたのあの瞬間移動能力、あれで人類を新天地へと連れて行ってもらう事は出来るか?」
「…ああ。エネルギーを激しく消耗するが、君たちの船団を宇宙の裏側にある私の知っている君たちの住める星へ送り届ける事は出来る」
「俺の最期の願いを聞いてくれないか?」
「…ああ」
「ありがとう。…爺ちゃん、やっと会えるな…」
アラタはこと切れるとともに、アルカナの腕の中で本来の姿へと戻った。アラタは船の中へと戻され、新天地へと旅立っていった。ヒロヨシがアラタの手を握りしめた。人々が見上げた空には、未知の星座が浮かんでいた。
「サコミズさん、人類はあの後すぐに新天地へと辿り着きました。天国も新地球に引っ越しているんですか?もし見えていたら、親父に俺は元気でやっている、って伝えておいてください」
墓石の前に跪いていたイノトシ・ヒカリが立ち上がる。透き通るような青い空が広がり緑の草原が見渡す限り続いている、そんなところにアラタの墓はあった。澄んだ空気を胸いっぱい吸い込むと、彼はどこか遠くへと歩いて行った。
【完結済ですぐ読める】光の星から『正義』のために 来田千斗 @sento_raida
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