第12話 瞼の裏で出会った


「ただいま」


「あら、お帰り。早かったんじゃないの?」


「まあ、映画観に行っただけだったし」


結局俺と彗はどこに行くか話し合った挙句、今日は解散することにした。律儀にも彗は予定をもっと立てておくべきだったと別れる直前に謝ってきた。


「次はこういうことないようにするから、ごめんね」


「謝ることじゃないよ、彗だってもともとは映画だけの予定だったんでしょ?」


「まあそうなんだけど、なんかあっけないじゃん?」


「そうかな」


「そうだよ!」


「なら、次は俺も何か考えとくよ」


「おっ、いいね!」


「じゃあ今日はここで解散だね」


「うん、ではまた!」


「また」


自然とまたどこかに行く約束をして解散した形になった。

正直、今日の彗との映画館は不快でも嫌でも無かった。

いきなり映画を観に行くと言われた時には少し驚いたけど、誰かと映画を観に行く事が最近なかったから久しぶりに行けてかなり楽しかった。

それに映画の内容についても彗は伊井野とも紫川とも違う見方をしていたからあの演技について彗と話していて面白かった。


「どんな映画観てきたの?」


昼ご飯の準備をしながら母が聞いてきた。


「不適合家族の華話って言う映画」


「またマニアックそうなの観てきたのね」


「俺が選んだわけじゃないよ、一緒に行った人が選んだんだ。」


「ふーん、一緒に行った人って?」


「いつもの二人だよ」


「そうなの、てっきり彼女と行って来たのかと思った」


もし彼女がいたとして一緒に映画を観る事があるならあんな映画を観るよりもっと明るい映画を選ぶだろう。


「彼女なんてできたこともいたこともないんだから変な考え持たないでよ」


「そう?ごめんなさいね」


頬を少し上げながら謝る母はたぶん謝る気など一片もないのだろう。


「でも、きっと苓ならいい人に出会えるわよ」


根拠もない言葉なのに母は確信があるかのように言ってきた。

作り終えたのかキッチンから出てきた母はテーブルに出来上がった料理を並べた。帰るときに母に連絡していたのもあって、俺の分も作っておいてくれたようだった。

だから俺も配膳の手伝いをして椅子に座った。


「お昼のパスタってなんかオシャレって思わない?」


「別に思わないけど、なんで?」


「ほら、大人な感じがするでしょ?」


「母さんは大人でしょ」


「苓は子供」


「でも、もう高三だよ」


「なったばっかでしょ」


「うるさい」


母と昼を食べた後は何も予定がなかったから自分の部屋に行く。そのままベッドに寝っ転がって目を瞑る。

瞑ると水の中に沈むかのように体が重くなった。

映画を観に行くだけなのに自分が思っていたよりも体が疲れていた。映画を観に行くだけっていうのは少し違うかもしれない。

待ち合わせ場所で三択の話をして彗がちょっとだけおかしな返答をしたり、映画の感想を言い合う時にもちょっと変な話をしたりと割といろんなことがあった。

そういえば次また遊ぶときは俺も何か考えとくって言っちゃったな。今思えばなんであんなめんどくさいこと言ったんだろう。

こんな大都市ってわけじゃないところで遊ぶと言ったら何があるだろうか。


「どうしようかな」


考えているうちに昼ご飯を食べたからか頭がボーっとしてきて俺はそのまま考えるのをやめた。




「心っていろんな色があるんだ、ほら苓が持っている風船とあの子の持っている風船の色が違うみたいに」


「じゃあぼくのは何色なの?」


「それは分からないよ、だって僕は苓じゃないからね」


「ぼくも分からないよ、自分の色なんて」


「大丈夫だよ、いつかきっとわかる時が来る、その時にきっと苓は自分の風船の色がわかるさ」


「ぼく、青がいいなっ」


「どうして?」


「空の色だから」


「それに、」


「家族皆青が好きだから!」


「ははっ!そりゃいい」


男は満足そうに笑って俺の頭を撫でた。

優しい消えてしまいそうな声、なんだか聞き覚えがあるような気がした。

でも男の顔は夢の中の俺が泣いているせいでぼやけててよく見ることができなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君と出会ったその日から、 ぽてえび @PoteEbi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ