第6話 夢の真実が明かされる
真実その1 松浦、催眠治療に失敗する
保健室登校児“航”のカウンセリングを終えて、松浦は焦っていた。
入眠時心像――
眠りに落ちる直前にふっと浮かぶ映像。
そこに少しだけ手を加えて、落ち着ける風景に仕上げる。
それだけでも、息をつけるようになるやつもいる。
俺が航君にやっていたのも、その程度の“軽い誘導”だった。
けど最近の夢ノートが妙に具体的で、ちょっと気にはなっていた。
セーラー服の女の子。笑顔。しおりを開いてはしゃぐ修学旅行の場面。
「昨日の続きが始まるんです」って。
どこの連ドラだ。
まあ、俺もちょっとは盛ったりしたけど。
そして、今日だ。
航君が保健室に駆け込んできた。
あの新聞記事をもって。
「この子です。夢に出てくる女の子」
「この子に伝えたい」と言い出した。
「バスに乗らないでって、警告したい」って。
これは、もう、だめだ。
夢と現実がグチャグチャになってるじゃないか。
……やらかしたのか、俺? いや、いや、これ完全に詰んでるじゃん!
母親の頼みとはいえ、やるんじゃなかった。
一介のスクールカウンセラーが、催眠治療やってたってバレたらやばいだろ。
とりあえず、夢ノート、回収で証拠隠滅。
薄荷の香り、封印。
後は、航君の夢をなんとかして……
頼むから、それまで学校にはバレないでくれ。
真実その2 松浦、夢の真相を知る
学校の屋上、松浦は女生徒たちの会話に驚いた。
『最近、よく見る。夢。見られてる気がする』――だって?
……ちょっと待てや。
俺は思わず吸いかけた煙を飲み込みそうになって、咳をこらえた。
屋上で、隠れてタバコを吸ってる場合じゃなかった。
さっきのあの子たちの視線の話。
夢に出てくる“誰かに見られてる”ってやつ。
シチュエーションが、航君の夢ノートと妙に被ってる。
「遠くから、じっとこっちを見てる目線」とか──
おいおい、ピンポイントすぎるだろ。
いやいやいや。
ここでシンクロすな。
そんなとこで夢連動しなくていいんだ。
あの子は確か、ときどきサボりに来る保健室の常連だ。
もしかして、あの子が航君が前に言っていた“図書室でニアミスしてる子”なのか?
あいつが陰からこっそり彼女を見てるだけで、会話ゼロ。
相手は、まったく気づいていない。
けど、彼女の“視界の外”に映っていた航君の姿が夢に流れ込んでる可能性は……ある。
むしろ、それしかない気がしてきた。
となると、原因は──
接触+視覚刺激+薄荷誘導。……完璧に三点盛り。
……これも、俺のせいなのか?
真実その3 松浦、今までの苦労が徒労に終わる
松浦は、航を見舞った後、保健室に戻って一息ついた。
手術直後、麻酔の切れぎわにこっそり“誘導”しておいてよかったよ。
──亡くなった彼女の遺志を引き継いで生きていこう…とか適当に言ったけどうまくいったみたいだ。
そのせいか、精神的にも、落ち着いてきたし。
夢と現実のつじつま合わせをしておかないと、また暴走されたら、こっちが持たん。
もし、訴えられたら、全部、母親にやらされたってことにするつもりだったが、その心配もなさそうだ。
まあ、母親も、その辺の負い目もあるようだからな。
あとは──この記事をシュレッダー行きにさえすれば……
【修学旅行帰りのバス事故】
【高速道路上で追突事故、生徒ら犠牲に──阿原市の高校】
【藤山結花さん(当時17)は、バスの中でカラオケを歌っていた最中、
後方から迫るトラックに気づき、即座に『みんな伏せて!』と叫んだことで、
衝突による大きな負傷を回避。トラック運転手は居眠り状態だったという】
……えっ!!
まさか、あいつ、見出しだけしか見とらんのか!
生きとるやないか。
しかも、ヒーロー。
なんでそこ読まんの。
夢の中の“儚い少女”像に全部塗り替えて、勝手に涙流して。
頼むから……最後まで読めよ。
今までの、俺の苦労は何だったんだ。
真実その4 夢の少女、ストーカーを恐れる
昼下がりの保健室、少女の目に現実の航が映る。
……え、なんでこいつ、私の名前知ってんの?
ていうか、初対面だよね? 完全に。
いやいやいや。
もしかして──
ストーカーとか!? え、こわっ!!
まさか尾行されてた? それともクラスの誰か? でも、見たことない顔……
それに,さっき、あいつが慌てて隠してたあれ──
この前、図書室でサボってたときに読んでた、卒業アルバムの中に挟まってたやつだ。
修学旅行帰りのバス事故の記事──ねーちゃんの武勇伝。
そっか。
あのとき、アルバム出しっぱなしで、慌てて図書室戻ったのに、
あの記事だけ、無くなってたんだよね。
探したけど、全然見つからなかったやつ。
……まさか、こいつが……あれを……?
ていうか、そこまでねーちゃんのこと調べてるってことは──
えっ、ねーちゃんのストーカー!?
私が、ねーちゃんに似てるから間違えているのか?
どっちにしろ、こいつ、絶対、ろくなもんじゃない。
フラグが立ちすぎてて──フラグクラッシャー通り越して、災害。
関わっちゃいけない。
関わったら、私の学校生活終了決定だよ。
「あの、頭痛なおったっぽいんで……」
「さよなら―」
”彼女の記憶”に恋した僕が、現実の君と再会するまで 葉月やすな @yasnak
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