きのじいのぶらり星散歩
んなひ
第1話
澄み渡る空、点々とちぎれて浮かぶ雲、今日は開けた丘の上、色とりどりの花たちの中をきのっこきのっこ足音ならしてきのじいはのんびりと歩いている。
「ここにくるまでの蔦の橋は恐ろしかったが、この景色に生き生きとした花たちの顔、頑張ってきた甲斐があったのう」
嬉しそうにあたりにピンク色の胞子をぽやぽや漂わせながら語る彼の言葉に答えるものはいない、聞こえてくるのは風の音と波の音だけ。
そのまま一人楽しげな様子できのっこきのっこ歩みを進め花のない広場までやってきた。
「よし、ここらで良いじゃろう、出迎えの準備でもしてやろうかの」
きのじいはそう言うと、どこからともなく杖を取り出した。それは純白で、カサが逆さについたエノキダケのような形をしていた。
きのじいはそれをグッと足元に突き立てるとグリグリと地面をほじくり始めた。
「わしは木の子大樹の子
手足をはやして旅するきのこ
自慢の足であちこち放浪
行く先々で出会う同胞
ともに語るは夢希望
生命輝く未来のために
古き友を出迎えよう
正しき世界へ戻そうぞ」
きのじいの口が歌を紡ぎ、カサからは金色に煌めく胞子が飛び出し五線譜を描くように光の軌跡を残しながら辺りを飛び回る。
そしてその煌めく胞子たちはきのじいがグリグリと削る足元の地面に吸い込まれていく。
「へいへいへいのほうほうほうじゃのう」
削れた土が粒状に固まり、コロコロと丸まり出した。その粒はきのじいが混ぜれば混ぜるほどくっつき、大きくなり一塊になっていく。
一通りまとまったボソボソした塊ををきのじいは杖を一旦脇に置いて素手でコネ始めた。
ぎゅむっぎゅむっと手際よく滑らかな塊に仕上げていく様はさながら熟練のそば職人だ。
きのことはいえ伊達に長く生きているわけではないということだろう。
そうしてあっという間に艶のある塊に仕上がったソレをすっかり窪んでしまったきのじいの足元の中心に置くと再び手に取った杖の先端から胞子をふんわりとふりかけた。
「よし、とりあえずこんなもんかのう」
そう言ってきのじいが空を見上げた時、そこに明るく輝く星が一つあった。きのじいの真上には干物にせんとジリジリ照らす太陽が機嫌良くこちらを向いている。一番星にはまだ早いだろう。
「お、時間通りじゃのう」
きのじいは短い両手をパンッと合わせるとぐぐっと腰を落とし、ムムムと眉間にシワを寄せた。
「何かを大きく育てる時は、こうすると相場が決まっとる、それ!!」
きのじいは合わせた両手をそのまま身体ごと空へ向かって突き出した。
すると驚くことに先ほど丸めた塊が発酵したパン生地のようにモコモコと勢いよく膨らみ始めた。きのじいが急いで後ろに下がると塊はどんどんと膨らみ続ける、きのじいはその様子を嬉しそうにながめている。塊は木ほどの高さまで膨らんだ。その形はまるで巨大なホコリタケだ。
その時、そこに太陽が現れたような閃光が走り、きのじいの小さな目を焼いた。
「ぬおおおお、目が焼けておる、刺激的じゃのう」
目が焼けているのにも関わらず若干余裕そうなきのじい、今度は少し遅れて空間ごと引き裂くような轟音と衝撃が身体ごと引き裂かんと全身を揺さぶる。
瞬間的に菌糸を地面に這わせ、吹き飛ばされずに耐えたきのじいだったが、ビッタンビッタンとカサを前後に打ち付けている。
「あばばばばば、わしのっ自慢のっカサがっ」
一言喋るごとに前に後ろに打ち付けられ悶えることしばらくチカチカフラフラしながらもきのじいがホコリタケのてっぺんを見上げてみるとオリーブの実のような形のなにかが突き刺さっている。
シュワシュワと音を立てて煙を上げながら周囲の空気をを歪ませる謎の物体、きのじいは満足そうに微笑んだ。
きのじいのぶらり星散歩 んなひ @aggain
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