White canvas

めいき~

ママにならないで

 拳を握りしめて、一人の絵描きが机を何度も叩いていた。自分がガワを販売した顧客が不祥事を起こして炎上。そのとばっちりが自分にも来たからだ。


 ガワを作る人とてそれを生業にする以上、人気が出た方を優先するし。金払いの良い方を優先する。それは、絵師次第とも言えるがもう一つ重要な事がある。



 配信で、絵師か配信者どちらかが不祥事を起こした場合。昨今SNSで彼又は彼女が使っているガワは誰それの絵だという事でやり玉にあげられてしまう。本人がどれだけ真面目にやってもそれは避けられない。



 これが、ガワを作る人。いわゆるママの宿命ではあるのだが。これはどの業種の取引先でも起こりうることではある。


 しかし、配信で人気が出るという事は見ている人や注目している人数が多いという事であり。その中に、悪意がある人がいない保証など何処にもない。むしろ、これ幸いにと燃やそうとする人や野次馬根性で何某画策するもの等が現れる。


 大体、考察系レビュー系動画などでも判る通り基本的に恥も外聞もない連中がある事無い事自分は見てこう思いますみたいなものをあげているのも自分は不愉快だった。


 だが、件の配信者は文字通り数字が出れば何でもやるタイプだったので結果この様である。それで、自分もとばっちりを受けては敵わない。お気持ち表明でもしたなら言葉じりを取られて有様……。


「なんなのよ……」思わずそんな声が口からでる。親友は、「ママにならないで」って言ってたけどあれは正解だった。今更遅いけど。


 絵と言うのはクオリティもそうだが、名前で価格が決まる事もある世界。有名配信者や有名本の絵を担当したとなれば一気に名も挙がって仕事も降ってくる。


 しかし、無名の漫画家や絵師に頼む様な奇特な人間は個人か同人位なもので。後は切羽詰まった編集者やゲームクリエイターが発注をかけてしまうようなケース位。ゲームクリエイターといっても、権限があればやりたい放題出来る反面。権限がなければ何一つできない。超ブラック労働である事は、かつての自分が社内でポップを描いていた経験もあり嫌でも判る。



 だから、親友はママになる事を止めたのか。あの親友も同じように配信者が不手際をして絵師としての生命ごと断たれ。今は、細々と一般の仕事をしている。夢を共に追いかけたあの頃が懐かしい。そんな気さえして、震える手で最後のメールをかきこむ。


 涙があふれ、自分もこれで終わりなんだと思ったら。今まで何度も腕を冷やしながら描いて来たのは何だったのかなと頭をよぎる。



 それで食べていきたかったけど、画風や癖はどうしても残る。矯正し修正するには、自分がその画風でやってきた時間が長すぎた。それでも、絵の世界で本当に一からやるならそれをすべきだというのは判っていた。



 眼に映るペンタブ、数か月前に買った羽ペン。引き出しには大量の潰れたペン先。後で未練が残らない様に、捨てなきゃと溜息をついた。



 世間では、絵師の方が問題を起こす事もあった。でも、自分の場合は客の方に問題があった。どっちが問題でも、そこは問題じゃない。運よくファンがフォローしてくれるような事もあるが、自分にそんなファンはいなかっただけだ。



 孤独に散った。そんな華々しい世界の裏側で、こうしてまた一人消えていく。なりたい人は数多居る、憧れる人も沢山いる。でもそんな世界の裏側には地雷を踏みぬいて転がっている死体が沢山ある事も忘れないで欲しい。




 それが、彼女の遺書の最後の言葉だった。



 二千四十五年七月七日、天の川のイラストで有名になった赤瀬ナグルは問題を起こした槐 神楽坂(えんじゅ かぐらざか)のとばっちりで過去のSNSまで掘り起こされ飛び火で炎上。同年八月三十日、遺書を残し自殺。


 最後に残した言葉は業界を去った親友と同様「ママにならないで」という意思のこもった遺書だった。



<おしまい>

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