ステイ•ラヴァー

鈴木藍(Suzuki Ran)

白い部屋で見た天秤

私は白い部屋にいた。

椅子が部屋の真ん中に一脚だけあり、壁に外を覗ける出窓が一つ付いている。

そこから、陽射しが少しだけ部屋に入ってきた。 

部屋の角には、鳥籠があり、青い鳥が一匹、鳴き声を鳴らして枝木に止まっている。

写鏡になったその世界では、時が止まっているかのように感じて、しかし、時計の針はしっかりと動いていた。

今は朝の十時。

干支でいうところの、巳の刻である。

この世界の上に立った足で感じる感覚は、雪で敷き詰められた浜を裸足で歩いているかのようであった。

それは、きっと風が部屋に入ってきて、通り過ぎた際に体感した自然の精の悪戯だった。

夜の東京、首都高速道路にて走る車の中で、多くの光の線にやられて、まったりと後部座席で眠る感覚と体感が似ていた。


隔たりがない世界の境界線上には、理想も現実も、それこそ妄想すらも存在しなかった。

そこに在ったのは、ただ幻想だけだった。

私は幻想世界に導かれてから、だいぶ経験としての時を過ごしたが、この地球が誕生してからの長い歴史においては、ほんの一部しか時を過ごしていないことになる。

仮に輪廻転生を経て今に至ったとしても、おそらく、前世と今世との間にだいぶブランクが存在している筈である。

私は、自身にそっと問いかけた。

「あなたは誰?」

鏡に映る私を私が見て、あなたにはいつの日か会ったことがあるかもしれない、と思った。


昨日世界が変わった気がした。

急に空の色ががらっと変わったのを感じた。


部屋から出て、家から出てから、外にある道を散歩していた。歩いている途中で、小石が近くに飛んできた。

唐突すぎる出来事だったので、因果関係まで紐解けなかった。けれども、何処から来た石なのかは不明だが、何かしらの方法で拾って欲しいという意思だけは私には伝わってきた。そう。その石の存在を知っているのはただ私だけなのだから。

そして、私はその石を拾った。

その石は後にコレクションとして、机の上に置いておくことにした。


家を出て、何も目的がないまま三十分ほど歩いた。

私は突如、行く宛を探し始めた。

家の周辺に目的地を設定した。

色々考えた挙句、河原に向かうことにした。

河原は今いるところから十分弱で到着する距離に位置している。

河原までの間には昔ながらの商店街がある。

その商店街で、毎年八月になると祭りが開催される。去年は祭りの日に、祭り終了後、私は夜中前にその商店街を一人で歩いていた。

今年は隣に誰かを連れて祭りの中を歩いてみたいと、願望めいたことを想いながら、私は商店街を通り抜けた。信号を三つ過ぎた後に目的地の河原に着いた。橋を渡ってから土手を歩いた。土手から見える川は綺麗だった。河川敷ができていて、今は冬なので、白鳥が川によく遊びに来ている。私も白鳥と同様、よく川に遊びに出かける。


流れる川を見つめた。

なぜか不思議な想いを抱いた。


急に心が浄化された感じがしたので川から離れ、すぐに帰宅しようと自宅に向かい歩き始めた。


家に戻り、白い部屋に戻った。

部屋にある鏡を見ると私は透明人間になっていた。

帰宅すると、部屋にはカウンターテーブルがあって、真ん中に透明なキャンドルが置いてあった。


カウンターテーブルの真上に、天井から吊る下げられたランプが灯りを灯している。天井からランプまで細い一本の蜘蛛の糸が垂れ下がっていた。


私はその蜘蛛の糸をそっとティッシュペーパーで拭き取った。綺麗な空間の部屋に蜘蛛の糸があったことは驚きだったが、私はそのことを頭の隅へと置いたまま、窓辺に向かうため、席を立った。


空は快晴に近かった。

窓から見える今日の飛行機雲は、むかし私が幼い頃に見た飛行機雲より綺麗な雲には見えなかった。

そして、今日は時間が過ぎるのが早い。

雲も風に乗り、流されて、早く流れていく。

頭の中にある記憶に、昨日の出来事がずっぼりと抜けた状態で、一昨日の記憶と今日の記憶が繋がっていた。


昨日は、地鳴りでもしているように思えるくらいの、土砂降りだった。

何故か分からないが、昨日の記憶が薄い。

無いに等しいくらいの記憶でしか、私の中で昨日が存在していなかった。


キャンプファイアーの炎が美しかったと、遠い記憶に残っている。

記憶を辿り、思い出した瞬間に。

4096Hz。

キーンと私の頭の中で、周波数が鳴り響いた。


そう、二人は白い部屋で出会った。

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