第36話 正直に答えれば楽なのに
「…ねえ、妃芽は、私のことどう思ってる?」
こう真悠に聞かれてドキッとした。大事な人、とだけしか答えれなかった。
でも——私が本当に笑ってるのは、彼の前じゃなかった。
たぶん、真悠の前だった。
ふざけて笑ったり、楽器の練習をしたり。
何でもない時間の中で、私が自然体でいられるのは、いつも真悠の隣だった。
だけど私は、あの子の気持ちに気づいていながら、知らないふりをしてきた。
私のせいで、真悠の好きな人たちが、みんな私の方を見るようになってしまったことも。
何度も目をそらした。見てしまったら、責任を取らなきゃいけない気がして。
だから——「貴秀と別れる」って言ったとき、真悠の顔が少しだけゆがんだのを見て、本当はすごく怖かった。
(真悠は、私を責めるかな)
そんなふうに思った。
でも真悠は、来てくれた。ファミレスまで。
横に座って、ずっと黙っていたけど、それだけで十分だった。
彼女は優しい。私よりずっと、強くて優しい。
だからこそ、私は、たぶん——
そういうところが、少しずつ、真悠に惹かれていた。
異性とか同性とか、そんなことは考えたことなかった。
でも、真悠が私をじっと見つめるときの目。
名前を呼ぶときの声。
どれも、私の胸の奥をふるわせた。
「真悠は、大事な人だよ」
この私の言葉は、半分は本音で、半分は逃げだった。
本当は、「好きかも」って、口に出せたらよかった。
でも私は、いつも誰かの“主役”にはなれても、真悠の中では“ヒロイン”になれない気がして。
それがこわかった。
——ねえ、真悠。
もし、真悠が私を見てくれるなら。
私はこの想いに、もう少しだけ素直になってもいいのかな。
その日、妃芽のもう一人の幼なじみ、齋田遥が現れた。
彼女は柔らかな笑顔で、でもどこか冷静で落ち着いた雰囲気をまとっていた。
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