第37話 新たなライバル


「真悠ちゃん、はじめまして。妃芽とは昔からの仲でね」

遥は丁寧に挨拶したけど、私にはその「ちゃん」の響きが少しだけ距離を感じさせた。

話し方もどこか上品で、気遣いのある言葉を選んでいるのがわかる。

でも、どこか心の奥までは踏み込んでこない、そんな感じ。

妃芽と遥は子どもの頃からの深い絆があるのだろう。

私とは違う、別の世界を共有しているように思えた。

「真悠ちゃん、妃芽のことは大切にしてあげてね」

そう言いながら、彼女は優しく微笑んだ。

その笑顔の奥に見え隠れする冷たさに、胸がぎゅっと締め付けられる。

まるで壁のように、私と妃芽の間に立ちはだかる存在――。

「私も、ここにいるのに……」

そう思いながら、私はその言葉を噛みしめるしかなかった。「妃芽のこと、私はずっと見てきた。」

そう心の中でつぶやく。

幼い頃から一緒だった遥には、妃芽の笑顔の裏も、涙も、全部知っている。

元彼たちのことも。

倉地貴秀の強引さ、松藤依与吏の重さ、そして光助の優しさと裏の顔。

妃芽がどんなに傷ついてきたかも。

だから、私は真悠に言いたい。

「妃芽は簡単に心を開かない子。

彼女のこと、本当に守れるのは一体誰なのか」

でも、そんなことを直接言ったら、真悠を傷つけるかもしれない。

だから距離を置きつつ、影から見守るだけ。

それでも心の中には、ある感情が渦巻いていた。

――真悠ちゃんが、妃芽にとってどんな存在なのか、まだ分かっていないんじゃないか。

――そして、私が知る“妃芽の本当”に触れた時、どうなるのか。

放課後の教室。妃芽がトイレに行っている隙に、齋田遥が静かに近づいてきた。

彼女の声は落ち着いていて、どこか冷静だった。

「真悠ちゃん、少し話さない?」

私は緊張しながら頷いた。

いつもと違う、何かが違う気配を感じていたから。

遥はゆっくり言葉を選びながら話し始める。

「妃芽のこと、私たちは昔からずっと知っている。

彼女の笑顔の裏側も、元彼たちとのこともね。」

その言葉に、私は胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。

「私は妃芽のことを守りたい。

でも、真悠ちゃんにはそれができるのか、不安になることもある。」

私は目を伏せてしまった。

言い返せない、でも悔しい。

「……遥さんは、私を信用してないの?」

その問いに、遥は少しだけ黙ってから、静かに答えた。

「信用は、まだ。

でも、真悠ちゃんのこと、嫌いじゃない。

だからこそ、ちゃんと見ていたいんだ。」

私は胸の奥がざわついた。

表面的な優しさと距離感の間で揺れる彼女の言葉が、なぜか痛かった。

「私、妃芽の一番近くにいたいんだよ。誰よりも。」

そう強く思った瞬間、遥の目が鋭く光った気がした。

遥の目には、真悠がまだ知らない“交錯する想い”が映っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る