第4話 揺れる気持ちと波紋


ある日、真悠は部活の帰り道、椎畑が一人でベンチに座っているのを見つけた。

彼の表情はいつもよりどこか寂しげで、遠くを見つめていた。

「椎畑くん、どうしたの?」

勇気を出して声をかけると、彼は少し驚いたように振り返った。

「……別に、何でもない」

短い返事。でも、その声はどこかかすれていた。

真悠は彼の孤独を感じ取り、無理に話を引き出そうとはしなかった。

ただそっと隣に座り、静かな時間を共有した。

そんなふたりの距離を、妃芽は遠くから気づき始めていた。

真悠と椎畑の様子に、どこか複雑な感情を抱き、心がざわつくのを感じていた。

「真悠、最近変わったね」

ある日、妃芽がぽつりと言った。

それは嫉妬か、それとも心配か。妃芽自身もわからなかった。

一方で、真悠は心の中で葛藤していた。

椎畑への想いと同時に、妃芽への揺れる気持ちもまだ消えていなかったからだ。

「私は一体、誰のことを本当に好きなんだろう……」

真悠は悩みながらも、前に進もうとしていた。

数日後。

放課後の渡り廊下。

ガラス越しに見えたのは、妃芽と椎畑くんが話している姿だった。

妃芽が笑って、椎畑くんが照れくさそうに視線を逸らして。

——その瞬間、すべて分かってしまった。

椎畑くんは、私ではなく妃芽を見ていた。

(また、だ)

私は、また“恋の通過点”だった。

だけど今回は、いつもより苦しかった。

だって、私が最初に話しかけた。私が先に好きになったのに。

帰り道、妃芽が何食わぬ顔で「うまくいくといいね」と言ってきたとき、

私は初めて、あの子に対して心の中で怒りを感じた。

(なんで…何もかも、君がさらっていくの?)

それが、妃芽との間に小さなヒビが入った瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る