【短編】幼馴染を金持ちの先輩にNTRれた主人公が隠れハイスペックだったので秒速で復讐した話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】幼馴染を金持ちの先輩にNTRれた主人公が隠れハイスペックだったので秒速で復讐した話





◆  PM 9:07  ◆





「あー、お兄サンお兄サン」

「……何?」

「うちのバー、1時間3000円ポッキリでやらしてもらってるんデスけど」

「何のバー?」

「そりゃもうこれに決まってるじゃない(小指を立てる)ッスカ」

「おー、そっかそっか。暇だったし丁度良かったよ! よし、うん、案内して」

「一名様ご入店デース!」






◆   21時間前   ◆










『ウェーイ! オタク君、見てる~~?? キミの彼女、今俺のベッドで寝てまーす!!!』

「なん、だよ……これ」







 差出人不明のUSBに保存されていたその動画に、俺―――花井はない周次郎しゅうじろうは呆然とするしかなかった。




 





『ごめんね、シュー君……でも安部センパイ、すっごくいいんだ……♡』

『だってさァ!!! ギャハハハハハハハハハ!!!!』

「これ、ミヒロ、だよな……???」






 PC越しに見る認めたくない現実に、俺はただただ震えることしかできなかった。

 あまりにも突然のことに、思考が混乱している。

 だが、間違いなく言えること。



 それは、幼稚園以来兄妹のように仲良しで中学に入ってからは彼女にもなってくれた俺の幼馴染―――北海きたうみミヒロが。



 俺の知らぬ間に、別の男―――悪い噂しか聞かない高校の先輩・安部あべみのるの女になっていたということだった。









 幼馴染と過ごした10年が、ほぼ見ず知らずの先輩にいともあっさりと打ち砕かれた事実。 

 動画が始ってまだ10秒ちょっとにもかかわらず、早くもどす黒い絶望が、俺の脳を支配していた。















 やがて、動画の再生時間も終了した。











「………………………………………………………………………………………………………………………………………………う……」










 それから十秒ほどの沈黙。










「……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」










 そう絶叫してから数十分のことは、よく覚えていない。

 気がついたら目の前にあったのは、無惨に破壊されたPCだった。

 それだけ、俺の情緒も、理性も、行き場のない衝撃によって吹き飛ばされていた、ということだ。






「……ふ……」






 口の中が歯ぎしりでガタガタと震える音が聞こえた。

 まだ怒りは、1%も収まっていなかった。






「復讐してやるッッッ……!!」






 彼女との関係を思い出ごと打ち砕いたその男と、十年来の関係を自分から捨て去った女に、俺は復讐を誓うのだった―――









◆  PM 10:04  ◆





「いやー、なかなか楽しかったよ!! 女の子もかわいい娘にキレイなお姉さんによりどりみどりだったしよォ。特にかえでさん、アンタマジいい女だな!!」

「あら、ありがとうございますゥ。ミノルさんイイ男だしお話面白いし、私ミノルさんだったら同伴もオッケーですわァ」

「アハハッ、サンキューな!! まったく世の中の高校生はバカだな!! 自分たちが未成年だからってこんないい店に行かないだなんてよォ!! まぁとりあえず、今日はここまでにしてまた来るよ!!」

「あれー、じゃあ今日はもうお時間ですかァ?」

「ああ、俺らこの後後輩女子と待ち合わせてんだ。仲間で集まってパーティーやろうってな」

「そうですかー、残念ですゥ。じゃ、伝票お持ちしますねー」



 安部実がこの店に入店して、そろそろ1時間になる。

 その美貌とトーク力でこのお店のナンバーワンの名をほしいままにするホステス、楓さんのサービスに、彼もすっかり気を良くしているようだ。



「はいっ、こちらお会計になりまーす」



 脱いでいたジャンパーを着こんで、ポケットから財布を出す安部。

 帰る準備はとっくに済ませているし、既に頭の中はこの後後輩女子と行うパーティーとやらに移っているのだろう。





 しかし残念ながら、彼がこのまま無事でそのパーティに行くことはない。





「ありがとー、楓さ……」




 楓さんが手渡した、何の変哲もない黒いボードに固定された伝票。

 それを見た彼の憎たらしい顔つきから、笑みの感情が消えた。










「は……はァ!!??」








 代わりに焦りと、戸惑いと、そして怒りとがその顔から浮かび上がってきた。




「なんだこの会計票!!?? 飲み放題3000円ポッキリだったはずなのに703,000円って払えるわけねーじゃねーか!!!」

「え、でも一応正規のお値段ですんで……」

「内訳教えろ内訳!!!」

「内訳ですかァ? えーと、飲み放題は確かに1時間3000円なんですけど、氷が1個100,000円でして……」

「どっ……どこの店が氷にそんな値段つけんだよ!!」

「あと私のドリンク代も1本200,000円ですし……」

「もうめちゃくちゃじゃねーかこの店!!! 3000円で済ませろよ!!!」

「えーご不満ですか? ミノルさんさっきまで超楽しそうだったのに……」

「……もういい、アンタじゃ話にならねぇ! 上の奴呼んで来い!!」

「あー、かしこまりましたー、今お連れいたしまーす」



 上の奴―――要するに、責任者を呼べ、という怒りの声に、物おじ一つせずに応じる楓さん。




わかー、ワーカー?」

「……はーい?」


 


 一部始終を控室の監視カメラで確認していたは、責任者を呼ぶ楓さんの声を聞いてドアを開け、彼らの前に顔を見せることになった。




「アンタちょっ……え!?」

「私が責任者ですが、どうかなさいましたかお客様?」

「お、お前……」



 

 相対した俺の前に、驚きの視線を返す安部。

 リアクションが、見ず知らずの人間へのそれではなかった。




「ミヒロの元彼のオタク!!!」

「あれっ、そういうお客様はせんぱいじゃないっすかー!! ご来店ありがとーございます!!」

「ご来店って……ガキがきていい場所じゃねーだろ!!」

「店長がお店に来てることがおかしいっすか?」

「は? てん……!?」

「あー、申し遅れました。俺ここのバーで店長をやってます、花井周次郎です」


 


 学校にいる時のように、黒縁メガネも付けてないし髪形もボサボサじゃないし猫背で自信なげに立ってもいないので、学校の先輩程度の関係者ではぱっと見で同一人物とはわからないとは思っていたが、安部は勘がよかったらしい。




「お前……高校では猫かぶってやがったのか!!!」

「陰キャのオタク君を気取れば、パリピのセンパイには顔すら覚えてもらえないからな。バレると何かと都合の悪い裏の顔を隠すためにオーラを消すなんて、この業界じゃ初歩の初歩だよ」

「で、でもお前の彼女そんなそぶり見せなかったぞ!? 幼馴染の彼氏に闇の顔があったら知らせるだろうし...」

「大切な人に闇の顔をバラしたいってバカがどこにいんだよ!!!」




 つい感情的になってしまった。

 こいつにあの女のことでツッコまれたことに腹が立った。

 なお、(いるだろそれなりに……)みたいな顔をされた。




「だ……だからって、店長!? このぼったくりバーの!? 未成年だろお前

……労働基準法ガン無視じゃねーか!!」

「未成年でこんな店で楽しんだアンタに言われたくねーけど、まあ、そこに驚くのも無理ないっすね……昔【子ども店長】ってのが流行ったのって知ってます? あとたまに【カリスマJKギャル社長】みたいなのがユーチューブチャンネル持っててバズったりするでしょ」

「……お前、まさか……!?」

「お察しの通りっすよ。確かに俺はまだ17のガキっすけどね、闇社会向けの販促戦略として親父から【カリスマDKぼったくりバー店長】を任されてんですよ。親父が特殊詐欺グループの重役だから、今のうちから社会経験積んでおけって言われて、こうやってぼったくりバーの店長やってるわけ」

「……いや自分でぼったくりバーって宣伝したらダメだろ!!」

「ぼったくりバーっていうのはアンタらみたいなカモとは別にクライアントってうのがいるんだよ。大損させたい奴、恨んでる奴に大金をぼったくってほしい、そういう方たちから儲けの数割を手数料に、その恨んでる奴を偶然を装わせてバーに連れ込んでぼったくるってビジネスもやらしてもらってんの。まあ、たまに店長がぼったくったりすることもあるけどな」

「個人的に、って、まさか……え、でも俺、自分の意志でこの店に……」

「そうですね。ここに来られたのは紛れもなく先輩自身の意思ですね。ただまあ、偶然っていうのが重なることもあるんだよな。なァ楓さん」

「そうですねェ、うちの客引きはよくどこのどんな方がこの辺を歩かれる方が多いかっていうのを他店舗と情報共有してよく調べてるんですけれども、 例えば、今日お店に来てほしいなーって方が何曜日のいつ頃にうちの店の前を通るかっていうのもしようと思えば逆算できるんですよねェ。それでたまたまターゲットの方がここを出歩くのが今日だった、ってこともあるかもしれませんねェ。例えば、ですけど」




 俺と楓さんの言葉を聞いた安部は呆然としていた。

 完全に、【ハメられた】というような表情をしていた。

 別にハメただなんて俺たちの口から一言も言っていないし、本当に偶然が重なった可能性だってあるのに。




「というわけで、払ってもらいますよ。あ、新人の純子ちゃん、ドア閉めて」

「あっちょっ……」

「……なんですか? まさか逃げようだなんて卑怯者みたいなこと考えてませんよね? 人の彼女を寝取る間男じゃあるまいし」

「おかしいだろ……おかしいだろ色々と!!!」

「料金の件ならアンタが自分で飲み食いしたでしょーが、払えよホラ」

「そこじゃねぇ!!! いやそこもだけど……そこじゃねーよ!!!」




 そこじゃねえって、じゃあどこっすか?と、俺は首の動きと目線だけで聞いた。




「お前みたいな闇なバックグラウンド持ってる奴が、なんで幼馴染の彼女には年相応に一途だったんだよ!! もっと、こう……囲って侍らせる感じで性欲満たせよ!! 寝取られたぐらいでショック受けるようなこぢんまりした恋愛すんなよ!!!」

「……親父の方針でさぁ」




 俺と先輩の二人ともが、顔をしかめた。

 話すと長くなりそうだったから。




「年相応の青春を共に過ごす女の子を一人選んで、その娘と添い遂げられなかったら純愛は諦めろって中学の頃に言わてたんだ。で、丁度同時期に幼稚園からの仲だったミヒロが結構美人になってたから、彼女に告ったらオッケーもらった。なんとか高校生までは関係続けられたんだけどな―、残念だったなー、どっかの誰かが出しゃばっちまってさ」

「……そんなバックボーン持ってるならさっさとヤったらいーじゃねーか!!」

「いざヤろうってなったらキョドっちゃって……」

「もっと自信持てよ!! DKぼったくりバー店長だろお前!!」




 なぜか寝取った当人に勇気づけられた。

 大きなお世話だ。





「つーか、だったら今のその風格のある感じは何なんだよ!? 童貞オタクのオーラじゃねーだろ!? 装ったって童貞オーラは隠せるもんじゃねーし……」

「俺がもう童貞でもなんでもねーからだよ……ここの控室でアンタが送ってくれたあの動画を見て絶望してた直後な、アンタらのやったことを仕事上がりの彼女に話したらな、自分はホステス、兼、親父に雇われたいざって時の教育係なんですって打ちあけてくれて、そのままなし崩し的にくれたんだ。昨夜ゆうべは色々ありがとね、楓さん」

「あら、若も昨夜ゆうべは一生懸命頑張っててステキでしたよ」

「ありがと、楓さん♪」

「いえいえ、でも、控室でPC破壊はメッ、ですよ」

「昨夜ベッドの上で謝ったじゃん、個人用だったし許してよ」

「フフッ、若ってお茶目なんだから♡」




       (一瞬の静寂)

            (楓さんの引き締まってるけど           出るところはしっかり出てるボディ)

               (見つめ合ってくすっと笑い合う俺達)






「…………そっちの方が羨ましい経験じゃねーかよ!!!!!」

 思ったままの叫び、という感じの発言が安部の口から飛んできた。





「いざって時にそういう羨ましすぎる初体験できる環境なら幼馴染寝取られたくらいで絶望することねーじゃん!! 何だったら俺お前の豊か過ぎる初体験の原因造った恩人じゃん!!! 恩人だからむしろ安くしろよ!!!! 1000円くらいに負けろよ!!」

「言っとくけど、俺も直前までそういう風に捨てるとは夢にも思わなかったから……昨夜の楓さんとの夜も、ほんのなりゆきでしかなかったわけ。俺としては本来な、ミヒロと初々しい感じで……あ、こんなこと言ってごめんね楓さん、初体験をしたかったんだよ。だから恩人じゃなくてやっぱり仇なんだよ、あんたは」

「でも若、昨日までは本当に客寄せのための看板店長な男の子って感じでしたけど、なんだか今日は、本当に会長さんの面影がちらついて見えますね。本当に一皮むけたって感じ」

「当たり前だろ? 俺の身体は俺一人のものじゃない、ゆうべそう教えてくれたの楓さんじゃんか」

「そんなこと言いましたっけ?」

「忘れっぽいんだね、楓さんは」




 俺はゆうべの楓さん、ちゃんと覚えてるけど。

 てか一生忘れないけど。




「こ、このオタク余裕たっぷりに振る舞いやがって……!! つーか今のそのスペックとオーラだったら寝取り返せるんじゃ、まさかそのつもりで俺をここに……!?」

「アホか、寝取り返したくもねーよあんなくだらねー女。それよりほら、ケジメつけたいなら代金でつけてもらわんと」

「かっ……金が目当てなら今そこまで持ち合わせてねーんだよ、70万だと今の俺のカードでも無理だ」

「わかったわかった。素性が知れた以上口止め料も必要だもんな。1万円マケてやるよ」

「いやもっとまけろ……じゃなくてそもそもぼったくりじゃねーかよ!!」

「だから、アンタが自分で飲み食いしたんでしょーが」




 物わかりの悪い兄ちゃんだな。

 このまま頼み込まないと、本当に払わずに逃げていきそうだ。

 人の女を平気で盗んだ男だし、無銭飲食もやりかねない。




「もういい……警察呼んでやる!! 弁護士呼んで訴えてやる!! 市議の親父の立場使って二度と仕事できねーようにしてやっから覚悟しとけ!!」

「警察に市議に弁護士に……おー怖い怖い。つくづく怖い一族だ。なァ? 楓さん」

「そうですねェ、加えてさっきお兄さんが仰ってくれた、市議会議員をしておられるお父様の業務上横領、不倫、暴力団との癒着。いえいえ、もちろん誰にもばらしたりはしませんよ? サービス業たるものお客様のプライバシーは全力でお守りしますとも……ってあれ? こんなところにが」



 死角となっているソファの隅の部分から、小さくて丸い機器を取り出す楓さん。

 それまでの文脈と、唐突に楓さんがそれを取り出したことに、ただでさえ生気の引いていた安部の顔がさらに青ざめた。

 別にこの丸い機器がどんな機能かまでは言ってないのに。



「参ったわァ……よからぬお客様が内緒で仕込んでたのかしら……これじゃあ外部に情報が漏れかねませんね、若ァ」

「だよなァ、これ今すぐ捨てたって、この辺りにゃいつどこで記者やらユーチューバーやらがネタ探してるかわかんねーもんなァ」

「そうなると、色々ひっくり返っちゃうかもしれませんねェ。警察に助けてもらう方が、警察に追われる側になったり」

「かっ……返せ!! ……じゃなくてよこせ!!!」

「若ぁ」


 

 飛び掛かる安部を一瞬の俊敏な動きでひょいと避けて、俺に語り掛ける楓さん。

 若い頃はスポーツとか色々やってたらしい。



「どうでしょう? このお客さんここを離れたくないみたいですし、ちょっと、このお方をへお連れして楽しんでもらう、っていうのは」

「うーん、あの部屋はVIP専用みたいなもんだし、できれば何人も入れたくないんだけど……」



 ガチャ。

 ギィィィ……



「あ、カルロス」



 店の奥にあるややさび付いた銀色の扉が、軋んだ音とともに開いた。



「お、お前、さっきの客引き……!?」

「今出てきちゃダメだよ、カルロス。早いって」

 出てきたのは、ラテン系のハーフの男。

 うちの店の客引き兼、のカルロスだった。

 俺の倍くらいの年齢のおじさんだけど、本人が良いって言っているのでタメ口で話している。



「……ひっ……!?」



 安部の目は、やがてカルロスの濃い顔よりも、彼の両腕に注目した。

 赤い液体で汚れている、ゴム手袋をはめた彼の両腕。

 彼の右手に握られたペンチと、それに挟まった

 



「えっとね、若、うちが700万請求したおっさんがまだ払ってくれないんスけどどうしまショウ?」

「あー、昨日閉じ込めた、パワハラ自慢してたおっさんか。そうだな、あと二、三本剥がして様子を見てくれ」

「ダメダメダメダメダメダメ!!! 無理無理無理無理!!! 勘弁してくれ、爪だけは勘弁してくれ!!! お願いします、花井店長!!」




 涙目でへたり込んで俺に縋る安部。

 ミヒロを寝取ったあの余裕な陽キャの姿は、もはや影も形もなかった。

 自分で追い込んで何だが、流石にかわいそうになってきた。




「あー、そっか。うん。じゃあ、いいよ、ミノルくん」




 肩をポンポン、と叩き、俺は安部の頼みに応じた。




「あっ……いいのか? うん、じゃあ、帰るわ、うん、ありがと、花井君」

「たださァ」




 その4文字だけで、出口へ向かう足を止める安部。

 彼のメンタルは、既に完全に俺たちの掌の上だ。




「アンタじゃなくて、アンタのツレの方の金を何とかしてもらいたいな」

「は?」

「は? って何だよ。アンタツレ沢山いんだろーが、人から奪ったツレもさ」




 わけがわからない、そんな顔をしている安部に思わず俺がキレそうになったところに。




 ガチャ。

「失礼しまーす……」

 見るからに着慣れていないドレスを着た、若い女性が店に入ってきた。




「きょ、今日が初出勤になりまーす、セイラでーす……って、あれ?」

「みっ……ミヒロ!? なんでここに……」

「せっ……センパイ!? それにシュー君!? なんで二人がこんなところに……」




 俺の幼馴染だった裏切り女、北海ミヒロ―――いや、セイラがそこにいた。




「ちょうどいい、アンタにも紹介するよ、先輩。今日からこのバーで働くことになった、セイラちゃんだ」

「え、な……何かの間違いだよね? シュー君」

「何が?」

「てめっ……自分の女を働かせんのか!!」

「ちげェよ!! こんなアバズレ、俺と個人的関係は何もねぇ!!!」

「うっ……!!」




 安部とミヒロの寝取り寝取られコンビは、この期に及んでわけがわからないという顔をしていた。

 ドスを効かせて脅迫しそうになったが一旦深呼吸して、一から説明した。




「彼女、今日の午後8時にうちの系列ホストクラブで楽しんでくれたんだけど、そのまま何やかんやあってすっかり仲良しになっちゃってな? で、うちで働いてもらうことになったわけ、ちょうど1時間前にな」

「ち……違うでしょ!? あのホストクラブが高額請求してきて、払えないからって無理矢理……」

「セイラちゃーん? 私ここのホステスの楓って者なんだけど、そのお金、あなたは払わないで良くなったの。丁度親切な方が払ってくれるようになったから♡」

「えっ……そうなんですか!? ありがとうございま」

「で・もォ……代わりにあなたのさんのお金をなんとかしてほしいのよねー、ホラ」

「な、700,000円って……私がさっき請求されたのと同じ額……!?」




 全てを察したかのように、青ざめる二人。




「「ま、まさか......」」

「性欲バカでもそこまで言われれば流石に察したかァ。丁度ホストクラブのキャストに空きができてなぁ、センパイ顔だけは整ってるし、丁度いいなとは思ってたんだよォ。まぁもちろん借金持ちだし、百万単位で貢がれるようなご立派な出世なんてできないだろーがなァ。ちなみにアンタら個人の代金は既にチャラにしてるから、もう解決事項だし警察や弁護士に相談しても意味ねーぞ」





 絶句する二人に、謎の高揚感を覚えていた。

 おそらく、この二人が俺を裏切ったから、という復讐心から、だけではない。

 特殊詐欺グループの重役兼ぼったくりバーの店長として、何よりとしての立場が、俺をそうさせていたのかもしれない。

 名ばかり店長になったばかりの頃は躊躇したこともあったが、昨夜いろいろなことを教えてくれた楓さんに感謝だな。




「彼女さんは彼氏さんの借金を返すためにうちで働く、彼氏さんは彼女さんの借金を返すためにうちで働く、ってな図式が出来上がったわけだ……お互いになんとも献身的な恋愛関係だなァ。互いに内緒でこんな街で遊んでたとはいえ……ちなみにもうとっくに同業者の皆様にもアンタらの情報はいきわたらせてるから、ウチで働く以外にたまーにこともあるかもしれねーけど取り合ってくれるよなァ? アンタさっき、未成年だからってこんないい店来ない高校生はバカだって言ってくれたもんな」

「てめェ……ふざけるのも大概にしろ!!」

「ひどいよ、シュー君!! 幼馴染じゃない!!」

「なんとでも叫べ。人の彼女をひったくるクズ男も、彼氏を裏切るクズ女も、ぼったくって仕返しするしかねーんだよ」

「そんな……」

「殺生な……」








 逃げ場を塞がれたとばかりに、途方に暮れる安部とミヒロ。

















「「トホホ……もうぼったくりなんて、コリゴリだよ~~!!」」

(安部とミヒロを囲ってアイリスアウト)












                            チャンチャン♪

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