第12話 戻った日常とエピローグ

 ——そして、何事もなかったかのように日常は戻ってきた。


 ……という書き出しが許されるなら、もうそれで完結にしたい。だが現実はそんなに甘くない。


「少しは仕事が減ると思ってたんだけどな……」


 事件が片付いてからもう二週間ほど経つ。王女の洗脳も解け、転移者も処理され、王国内は表向き、ようやく平穏を取り戻した。

 それなのに、俺の目の前には書類の山。右にも山、左にも山、もはや机の天板は存在しない。

 そんな俺の背後から、能天気な声が飛んできた。


「安心してください、ロイドさん! まだまだ大量に残ってますよ〜!」


 レナが手にした書類の束が、ドサリと机に着地する。

 俺はずりずりと椅子から滑り落ちた。


「なんで俺だけこんなに働いてるんだろう。というか、前より仕事が増えた……?」

「頼りにされてるってことじゃないですか?」


 ……レナが前向きで能天気なのは元からだ。

 「異動させてくれ」と繰り返していたころとはまるで別人だが、『黒歴史モード』から復活できたのは喜ばしい。だが、もう少し上司である俺を慮ってくれてもいいんじゃないだろうか。

 そんなやりとりをしつつも、王宮では今日もいつも通りの業務が続いていた。俺たちの『その後』も、まぁ、そんな感じだ。


 たとえば――

 ソフィア王女は、すでに公務に完全復帰している。

 以前よりも少しだけ引き締まった表情で、書類に目を通し、凛とした声で職員に指示を出すその姿に、周囲は「やっぱ王女殿下はこうでなくちゃ」と、嬉しそうにしている。


 フェリシアはというと、訓練場で鋭い目つきのまま新人騎士たちに檄を飛ばしていた。

「気を抜くな! もう一度最初からやり直し!」

 ……おそらく彼らは、転移者よりもフェリシアの方が怖いと感じているだろう。実際そうだし。


 ミーナも王女付きの使用人として元通り働いている。廊下を駆け回り、書類を届け、花瓶の水を替え、来客にお茶を出し……と、忙しくも楽しそうだ。以前よりも笑顔が増えている気がする。


 王宮の他の職員たちも、多少の混乱はあったものの、それぞれの持ち場に戻っていった。

 一部の魔導師やメイドが、たまに日記などを燃やしたり、急に床でのたうち回ったりしているのが目撃されたりもするが、誰も何も言わない。黙ってスルーするのが大人の対応というやつだ。


 上司はといえば、執務室のソファに座って、「あ〜平和っていいね〜」と呟きながら、昼寝しかけている。……いや、寝てないでさっさと書類に押印してくれ。


 最近では、ソフィア、フェリシア、ミーナの三人が、お茶をしているところに何度か遭遇した。

 フェリシアは、ソフィアとミーナとはあまり接点がなかったはずだが、今では普通に会話している。身分の差とか格式とか、いろいろ面倒なことはあるだろうが……外部に知られなければ、まぁセーフって判断らしい。


 今日も俺が部下を探して中庭をうろついていると、紅茶のいい香りが鼻をくすぐる。


「あ、ロイドさん」


 こちらを振り返ったのは、王女ソフィアだ。同じテーブルにはフェリシアとミーナもいる。

 そう。俺自身についても少しだけ変化があった。

 ソフィアやフェリシア、ミーナと廊下ですれ違ったりすると、ほんの少しだけ会話するようになったのだ。


「王女殿下にご挨拶申し上げます」

「そういうの、いいって言ってるじゃない」


 王女様は苦笑い。だが挨拶くらいはしておかないと。誰に何を言われるかわかったもんじゃない。

 そんな俺をミーナが笑う。


「ロイドさんは小心者なんですよ」


 否定はしないが、黙っててほしい。


「そうなのね……ところでロイドさん、書庫の整理の件って、覚えてる?」


 覚えてるも何も、初耳だが?

 俺が頭に「?」を大量に浮かべていると、フェリシアがさらりと言った。


「ああ、それは私がロイドの名前で出したんだ。手間のかかる仕事は、君がやるかなと思って。なんとなく」

「なんとなく!? なんとなくで俺の仕事が増えたのか!?? 俺、今とんでもなく忙しいのに!!??」

「でもロイドさん、そういう作業、得意そうですよね!」


 ミーナが無邪気に笑う。


「……押し付けられているから仕方なくやっているだけで、別に得意なわけでは……」


 俺がうなだれると、ソフィアが少しだけ口元を緩めた。


「でも、あなたがいないとまわらないのよね、何かと」

「……それ、褒めてるんですか? 都合よく使ってるだけじゃないですか?」

「どうかしらね」


 ソフィアが笑い、フェリシアとミーナも笑った。なぜか俺だけが消耗している。

 でもまあ、こういうちょっとした変化も悪くはないのかもしれない。


 女子会三人組と別れて執務室に戻る。

 山積みの書類と格闘しているうちに、外は夕暮れ。仕事は……あともうちょっとで一区切り。

 ふぅ、と息を吐いて、書類にサインをしたところで声が飛んできた。


「おーい、ロイドくーん! ちょっと相談あるんだけどぉ〜!」


 上司だ。そしてあの昼寝体制のままだ。

 ……相談、という名の追加案件だな。知ってる。それでも、まぁ——


「はいはい、今行きますよー」


 多少の変化がありつつも、俺たちの日常は続いていく。


 ……ああ、忘れてた。そうそう、転移者のことは、いまやもう誰も口にしない。まるで最初から存在しなかったかのように。

 そういえば、あの転移者って、名前なんだったっけ。……まあいっか。どうせ、もう一生会うことはないんだから。


 

 そんな様子を、画面越しに眺めていた『何か』。

 相も変わらず真っ白な空間で、つまらなそうに頬杖をついた。


「うーん。なんか、いつも同じような感じになっちゃうなぁ。次はもうちょっといろいろ変えてみた方がいいのかもねー」


 テーブルに置かれたリモコンで、次々にチャンネルを切り替えていく。

 画面には、都心の大通り、森の奥にある家、魔法を放つ少年、剣をふるう青年……そんな映像、いや、世界が次々に映し出される。


「次はどんな世界にしようかな」


 しばらくすると、ぽちぽちと操作していた手が止まり、『何か』は静かに微笑んだ。



===お礼・お願い===


最終話までお読みいただき、本当にありがとうございました!


いいハッピーエンドだった!

ユウトって誰だっけ?


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出張から帰ったら職場がハーレムになってた。 @fuyu_wa_samui

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