12年12日間X生目の愛の花

気まぐれに恋をして。

気まぐれに夢をみて。

気まぐれに消えていく。

だって私は黒猫だから。


──────────


❖猫に九生有り

猫はしぶとく、9回生まれ変わることができるという迷信。



 私が君への愛を伝えてから、宇宙は何度輝いただろうか。

 今年の[マツリ]には、君は私の元へ会いに来てくれるのだろうか。

 自分の手のシワを数えてみる。

 自分の顔のシミを見てみる。

 自分の記憶にきいてみる。

 返事はまだ来ない。

 君からの返事は、まだ来ない。


 1年目、草木ばかりの静かなこの土地が、狂ったように騒がしくなる[マツリ]と呼ばれる夜の日に、私は君を初めて見つけた。君はとても楽しそうに、美しい黒髪に花の飾りを挿して、ひとり優雅に歩いていた。

 私はどうにか話しかけたいと思ったが、楽しそうな君の道を邪魔したくはなかったから、私は静かに立ち去った。


 2年目、私は去年と同じ日に君を見つけた。以前と変わらず、君は楽しそうに歩いていた。だけど君のその瞳には、静かな寂寞じゃくばくを感じるのは何故だろう。

 ふと、ふらっと、ふしぎと私は君に向かって歩いていた。私は君の邪魔をしたくない、だけど君を悲しませたくはない。私は嫌われても構わないから、どうか笑顔を見せてほしい。だからいつか、私の好きをきいてほしい。


 3年目、君は私を見つけてくれた。君は私を見て、とても面白そうに笑っていたが、私が酔っている姿はそんなにもおかしな見た目なのだろうか?

 君と歩く騒がしい[マツリ]の夜は、ふしぎと私の心を穏やかにした。だけどどうして君の目はそんなにも悲しみに満ちていて、私を撫でるその手はそんなにも辛そうなのだろうか。

 私は君を理解はできないが、どうか悔いのないように生きてほしい。


 4年目、私は君を見つけることができなかった。君がいない騒がしい[マツリ]の夜は、こんなにも吐きそうなものなのであろうか。夜に相応しくないどんちゃん騒ぎも、月をつぶすギラギラとした灯りも、私ひとりでは受け止めきれるものではなかった。

 辛い気持ちを酔いに任せて、宵を歩いてみても、私の心はさめるばかりである。

 

 5年目、私はまだ君を見つけれなかった。騒がしい[マツリ]の夜以外にも探してみた。だけどそのたびに見つかるのは、君はもういないという事実だけだった。どうして私はこんなにも悲しいのか、自分の心に聞いてみても、瞳を潰すような痛い輝きが、私の気持ちを焼くばかりである。

 また来年、君を見つけることができないのなら、私は来世に期待しよう。


 6年目、君は私に会いに来た、涙を浮かべて帰ってきた。だけどその口にはちゃんと、楽しそうな笑みを浮かべていた。君は私に嬉しそうに話しかけるけれど、悲しいことに[ゴウカク]以外の言葉を聞き取ることはできなかった。

 もう少し落ち着いてから話してくれとも思ったけれど、君の体温を感じたら何も言えなかった。


 7年目、君はまた会いに来た。今日を目指して会いに来た。だけど君がここに来るのは、この騒がしい[マツリ]の夜のためか、私のためなのかは、聞こうとは思えなかった。

 きっと君は私の期待に答えてくれるけど、私はその期待に応えることができないから。


 8年目、私は待たなかった。君は必ず着てくれて、私を見つけてくれると思ったから。だけど君は思いのほか泣き虫で、私を見つけれずに泣いていた。私は慌てて君のもとに行き、大丈夫だと伝えたかった。

 騒がしい夜の心細さは、私が一番知っているつもりだったから。


 9年目、君は私に提案した。自分と一緒に来ないかと。その言葉は酷く美しく、そしてあまりに苦しかった。私は別にここに思い入れがあるわけではない。ここ以外が嫌いな訳では無い。

 だけどここから離れたら、来年の騒がしい夜は君とどう過ごしたらいいか分からなかった。


 10年目、君に一番に会いに行った。駅から出てきた君の目の前に立っていた。本当は夜じゃないと会いたくなかったけれど、せめてこの騒がしい夜は君に笑顔でいてほしいから。

 この年の騒がしい夜は最後まで一緒にいた。別れるときまでずっといた。だからであろうか、別れが一層寂しくなった。


 11年目、君は誰かと共に来た。どうやら家族では無さそうで、でもその顔はとても楽しそうで、嬉しそうで。まるで、私を忘れているようで。君を裏切るような行為になってしまったが、私は君を待つことができなかった。

 だけど遠くから聞こえた声に、悲しみの色は薄かった。それどころか、いや、そんなはずはないのだろう。


 12年目、私は君に言った。どうか、私の為に泣かないでくださいと。私は君よりも大人で、君よりも短い人生なのだから。だけど、身勝手に君を求めてもいいのなら、どうか好きだと、あなたに言わせてください。

 だって私は、黒猫だから。



  年目、私が君への愛を伝えてから、宇宙は何度輝いただろうか。

 自分の手のシワを数えてみる。

 自分の顔のシミを見てみる。

 自分の記憶にきいてみる。

 返事はまだ来ない。

 君からの返事は、まだ来ない。

 次の騒がしい夜まで、私が生きていたら、君は私に会いに来てくれるのだろうか。

 だけど私は黒猫だから、君を悲しませたくはないから。君の前から消えさせて下さい。

 そして私がもしも生まれ変われたのなら、どうか私の九生目を、君に捧げさせて下さい。九年目に取れなかった君の手は、その時はきっと、やっと取ることができると思うから。

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あじん童話集 石津 ゑなり @RakkoMikan

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