母のぬくもりで暖を取る

その熱はとても温かく。

夜の心を焼いていく。


──────────


 むかしむかし、ある森のなか、とても幸せそうなオオカミのお母さんと、ちいさなヒトの女の子がいました。


 オオカミのお母さんは、動物を狩り、ちいさな女の子は野山の恵みを集めて暮らしていました。


 ある日、オオカミのお母さんはちいさな女の子に言いました。

「これからわたしは、まちに毛皮を売りに行くわ。あなたはいい子で待っているのよ」

 ちいさな女の子はその言葉をしんじて、オオカミのお母さんを待ち続けます。


 待って、1日が経ちました。

 待って、2日が経ちました。

 待って、1周間が経ち、とうとう家にあった食糧はなくなってしまいました。


 ちいさな女の子はしかたがなく、まちへオオカミのお母さんを探しに行きました。

 まちに着いたころには、日は傾き、静かに夜の寒さが、ちいさな女の子を突き刺さしていきました。


 ちいさな女の子はオオカミのお母さんを探して、まちを歩き回ります。

「お母さん、お母さん、どこにいるの?」

 探しても探しても見つかりません、疲れてしまったちいさな女の子は、まちの中心にあった、黒く燃えこげた灰の温もりに、身を寄せました。

 その温もりは、女の子をとても大切そうに包み込み、朝へと導いていった。



 ある森のなか、とても幸せそうなヒトのお母さんと、ちいさなオオカミの女の子がいました。


 幸せそうな。お母さんは、動物を狩り、ちいさなオオカミ女の子は野山の恵みを集めて暮らしていました。


 だけどそのお母さんは最後まで、森を降りることはありませんでした。懐に入れた小さな袋からは、冬の夜でも寒くない、とても優しい温もりがあったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る