のじゃロリ神様による雑すぎる異世界転生

どか森⭐︎パナ夫

のじゃロリ神様による雑すぎる異世界転生

「儂の手違いでお主を殺す!」


 ぐさー!


「…へぇ??」


 しんしんと雪が降る中、それは起きた。 突然、後ろから響いたキンキンした幼女ボイスに振り返ろうと思えば、ぼくの背中からお腹までを突き抜ける衝撃が…。

 見れば僕の臍あたりから三又の槍が生えていた。え?みつまたのやり?うわ、なんか熱い、痛みが酷く…


「…ぐっ、ぐぎゃあああああ!!!!」


 痛い痛い痛い痛い!うんちぶりぶりおしっこじょぼじょぼ!!!とんでもない醜態を見せながら降り積もった雪の上に転がるぼく。うわ、どんどん白い雪が真っ赤に…。

 ぐわんぐわんする思考の中でぼくを見下ろす影が一つ。急速に湧き上がる痛みと熱にうなされながら、なんとか顔を持ち上げる。ぐ…。一体誰がこんなこと…。


「…は?」


 顔を上げたぼくの頭の中は真っ白になった。まぁ、びっくりしすぎて痛いのも忘れちゃったからある意味ラッキー!(精一杯のポジティブ)

 で、なぜそんな反応をしたかと言うと、ぼくの目の前に立つのは幼稚園児くらいの小さな女の子だったからだ。

 少女どころか幼女の彼女は、血みどろの槍を片手に何やらやりきった感を出しながら額の汗を拭う。


「ふぃー!異世界転生業務も大変なのじゃ!神様も人手不足で儂自ら殺殺ころころせにゃならんからのぅ」

「…う。待って待って待って。ぼく死ぬの?」

「え?…当たり前じゃあ!!!!!!」


 ドン!!


 何がドン!!だ!ぼくは最期の力を振り絞って、膝で立つと幼女にくってかかった。


「イヤイヤイヤ!おかしいでしょ!ドン!!じゃないから!勢いで押し切んな!てか超痛い!し、死ぬう!」

「うるせぇ!逝こう!!!」


 ドン!!!!!


 こ、こいつ…勢いで押し切ろうとしてくる!

 力が入らなくなったぼくはぱたりとそのまま、雪の降り積もったアスファルトの上に倒れ込んだ。冷たいよぉ。しくしく。

 そんなぼくに一片の慈悲すらなくガッシガッシ死体蹴り決めるのじゃロリ。何これ?のじゃロリ系同人誌の読みすぎ?

 ぼく、リョナは好きじゃないんだけど!あまりMっ気もないし!…いや、それは嘘!ソフトなMだけど!

 あぁ、駄目だ。意識が段々薄れてきた…くうっ。スマホのエロ画像コレクションくらい消したかった…な…。


……

………


「はっ!!…あれ?ぼ、ぼく死んだはずじゃ!」


 目覚めるとそこは真っ白な空間だった。あ、異世界転生でよく見るやつ!えぇ…ぼく異世界に転生するの?嫌だなぁ…。というより、ここまで真っ白だと怖いなぁ。遠近感とか狂いそう。

 ……しばらく、じっと座っていたけど神様的な奴が後光背負ってどーん!みたいな事も起きない。…え?ぼく一生このままだったりする?いや流石にそれはないよね?ね?


……

………


「…ひゅー!びよんびよんびよんびよん!!ぺぺぺぺぺぺぺぺ!!!!」


 あー頭おかしくなりそう。あれから30分近く経ったのかな?ぼくは今、踊り狂っている。

 何でこんな事してるかって?何かしてないと気が狂いそうだからだよ!!あーやばいやばい!冷静になるなぼく!!はやくキチゲを発散しないと!


「ぴゃおおおおおお!!っふぉぉぉぉぉぉ!!!!!ペチペチペチペチ(全裸で全力で尻を叩く音)」

「え、こわ。きしょ」


 え?声の方を振り向くとドン引きの表情を浮かべるロリがいた。ぼくはというと全裸でケツドラムの真っ最中だ。…どうしよう。こんな恥ずかしい姿見られたらもうお婿に行けないよぉ。


「はぁ…はぁ…現世と神界の行き来キッツ…!しかも戻って早々えらいもん見せられるし…」


 見て見ぬフリを決め込んだ、汗だくののじゃロリがごろりと息を荒げて転がった。ぼくもぼくでいそいそと学生服を着込む。

 だが、その女の子をチラチラ眺めていて、ぼくははっと気がついた。こっ、こいつ!ぼくに槍ぶっ刺したやつじゃん!頭に血が昇ったぼくは彼女を勢いよく指差すと、怒りのままに告げる。


「お、お前さっきはよくも!ぼ、ぼくは独学でボクシングを極めてるんだぞ!やるか!」


 しゅっしゅっ!ぼくは毎日欠かさず行ってるシャドーボクシングを息荒く倒れ伏すのじゃロリに披露する。どうだこのジャブ!速すぎて反応できないだろ!あ…なんか疲れてきた…はぁ…はぁ…。すると、幼女はそんなぼくを目にして馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ふっ…」


 顔がカァ〜っと赤くなるのを感じる。やばい泣きそう。こんなちっちゃな子に鼻で笑われるとかトラウマになっちゃうよぉ…。

 かと思えば、幼女はしゅばばと立ち上がり実に偉そうにうっすいうっすい胸を張る。ぼくにロリコンの気はない。なんか目がいっちゃっただけ。ロリコンではない。断じて。


「まあ落ち着け少年!何もただぬっ殺しただけじゃないのじゃ!な、な、なんと!異世界転生の特典つきじゃあ!」

「いらないよ!家に帰して!」

「ほにゃにゃ?」


 ノータイムで言い返す。何がほにゃにゃ?だ!ぼくは現世に未練たらたらなんだい!読みたい漫画もあるし、やりたいゲームもたくさんある!それに何よりエロ画像とか消してないし!家族に泣かれちゃうよ!別の意味で!

 怒り心頭のぼくを無視して、おかしいのぉ?などと宣いながら首を傾げるのじゃロリ。何がおかしいんだ!家に帰りたいなんて普通のことだろ!ふざけるな!

 ぼくが非難の目を向けると幼女は途端にしおらしくなった。…ちょっと言いすぎたかな?見た目は幼女だけど多分この子神様だよね?ぼくの何倍も生きてるんだよね?なんか幼女相手だとこっちが悪いことしてる気分になるなぁ…。などと思っていると、彼女は突然逆ギレを始める。地団駄を踏みながら顔を真っ赤にした幼女は、半泣きでわーぎゃー騒ぎ始めた。


「儂だってなぁ!大変なんじゃぞ!毎日がワンオペ!1日に25時間の労働という矛盾!給料手取り12万!ボーナスはどんぐり!

 お主みたいな社会の歯車にもなれないきっしょい陰キャを探し出して、ぬっ殺す事のなんと忙しないことか…!」

「う、それはお気の毒さま…って誰がきっしょい陰キャだ!失礼だなお前!」

「はにゃにゃ?」


 きゅん


 ときめくなぼく!か、かわい子ぶっても無駄なんだよ!流石にリアルの幼女趣味はないぞ!


「と、とにかく生き返してよ!」

「それは儂の力を超えておる!」


 理不尽だなぁ!まじで拒否権なしじゃん!まだ、新作ペケモンの厳選とか全然出来てないんだぞ!

 ぼくは悲しくて三角座りでシクシクする。まだ、録画してたアニメの最終話も見れてないのに…。そ、そうだ。せめて、現代に転生出来たら少しは希望が見出せるかも…。ぼくは埋めてた顔を上げて、理不尽な幼女に尋ねる。


「…じゃ、じゃあ現代に生まれ変わる事とかは?」

「じゃからワシは異世界転生業務担当っつっとるじゃろ!ぶっ殺すぞ!」


 もう殺されたんだよ!ほんと理不尽だなこいつ!逆ギレしかしてこないじゃん!

 く、くそぅ。ここはぼくが妥協しなきゃ駄目なのか…。ぼくは渋々目の前の怒り心頭の幼女に対して、おずおず提案することにした。


「…じゃ、じゃあせめて異世界で苦労しないようなチートを頂戴…?あ、めっちゃ強いとかやめてね?ぼく、戦ったりとかしたくないし。出来たらのんびり過ごしたい…」

「我儘な陰キャなのじゃ!しかもスローライフを望む系!どうせスローなライフなんぞ送らんのにな。…じゃが!優しいワシはそんなお主にぴったりのチート?スキルをプレゼント!素敵なその中身は異世界に着いてからのお楽しみじゃぁ!」


 何が優しいワシだ!しかもスキル内容をその場で教えてくれないの??もしかして…


「ゴミみたいなスキルじゃないよね??」

「疑り深い陰キャなのじゃ!じゃから友達もおらんのじゃ」

「と、友だちくらいいるやい!ほんと失礼だな!」


 クラスのグループNINEに招待されてなかったり、体育の授業で2人1組作る時に先生と組んだりするけど友だちくらいいるやい!

 ぼくが涙目でぷんすこするも涼しい顔をした彼女は、ポチっと何処からか取り出したボタンを押した。


「それじゃいってらっしゃいなのじゃ〜」


 ブワッ…!!!


 瞬間、ぼくの真下の地面が真っ黒な円形に色を変える。ま、まさかこのまま落ちる感じ!?


「へ?う、うわーーーーー!!!!!…ってあれ?」


 いや、落ちないんかい!色変わっただけかよ!ちょっとチビったじゃんか!

 そこの幼女!笑うな!写真を撮るな!


「おひょひょひょひょ!!!う、うわーて!神ッターに上げるのじゃ!万バズ確定なのじゃ!」

「最低だよホント!もういいから!出口はどこ!」

「…よ、予算の都合上、演出のみなのじゃ。ホントのお出口はあちらじゃ」


 彼女が指差した先には、錆だらけのボロいドアが。いつの間に…。ってえぇ…?これ潜るの?やだなぁ…。

 幼女を振り向くと、彼女は呑気に手を振っている。


「またのご利用お待ちしてますのじゃ」

「二度と来るかー!」


 中指を立てつつ、ぼくはいそいそと扉から出て行った。

 これがぼく、芝居しばい 太郎たろうの異世界への第一歩なのだった。

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