第十九話

 するとノリシさんは一瞬いっしゅんおどろいた表情になった。でも次の瞬間しゅんかんよろこんだ表情になった。

「そっかー。そんなことを許すとは、さすがトミヒ様だ。うんうん、それじゃあまた良い肉を用意してるから、またきてよ」

「はい、もちろんです!」


 そして私は次に、魚屋に行った。イタケさんは魔法で右手から出した氷を、冷やしていたまないように魚におおっていた。私はまず、挨拶あいさつをした。

「おはようございます、イタケさん」


 するとイタケさんは、作業していた手を止めて私を見つめた。

「おはよう、ナヒコちゃん! あれ、今日って食堂、休みじゃなかったっけ? あ、それじゃあ、あれだ! 休みの日の僕に会いにきたってことは、僕と海を見に行く気になったんだ!」


 うーん。イタケさんは、相変あいかわらずだなあ……。なので私は、説明した。

「あのイタケさん、違うんです。今日は私がトミヒ様のきさきになることを、報告ほうこくしにきたんです」


 するとイタケさんは、ものすごく残念そうな表情になった。

「そっかー。ナヒコちゃんは、トミヒ様の妃になっちゃうのかー。いつか誰かのおよめさんになるとは思ってたけど、そっかー、トミヒ様かー。こりゃあ、文句のつけようがないなー」


 そして私は、頭をげた。

「はい。でも私はトミヒ様の妃になっても食堂を続けることになったので、これからもよろしくお願いします」


 それを聞いたイタケさんは、ものすごくよろこんだ表情になった。

「え? そうなの? そうか、なら良かったよ。あ、それじゃあさあ、この店をトミヒ様の妃がくる店だって宣伝せんでんしても良い?」


 私は、少し考えてから答えた。

「あ、えーと……。あ、多分、大丈夫だと思います。とにかくこれからも、よろしくお願いします」


 そして私は、ウキコおばあちゃんの畑に向かった。そこでウキコおばあちゃんはやっぱり、畑を背にして木製の小さなイスに座って板の上にならべられている野菜をながめていた。取りあえず私は、挨拶をした。

「おはようございます、ウキコおばあちゃん。今日は報告したいことがあって、きました」


 でもやっぱりウキコおばあちゃんは、野菜を眺めていた。なので私は、続けた。

「私はこのたび、トミヒ様の妃になることになりました。でも、食堂は続けます。私はトミヒ様と国民を元気にするために、料理を作り続けます。なのでこれからも、よろしくお願いします」


 するとウキコおばあちゃんは、ポツリとつぶやいた。

「どうでもええ……」

「え?」

「トミヒ様も国民も、どうでもええ……」


 え? どういうことだろう? ウキコおばあちゃんは私がトミヒ様の妃になることに、反対なのかな? それともやっぱりトミヒ様の妃になったら、食堂をめてトミヒ様だけにくした方が良いのかな? そんなことを考えていると、ウキコおばあちゃんは再び呟いた。


「トミヒ様の妃になるということは、アンタは城に行って王族おうぞく一員いちいんになるということじゃろ。この国の王族の、悪いウワサは聞かん。でも庶民しょみんのアンタが王族になったら、色々と苦労くろうするはずじゃ。


 だから、トミヒ様も国民もどうでもええ。自分のことだけを、考えなさい。自分がしあわせになることだけを、考えなさい。それが結局、トミヒ様と国民の幸せになるからな」


 な、なるほど、そうか……。納得なっとくした私は、頭を下げた。

「分かりました、ウキコおばあちゃん。私はまず、自分が幸せになることを考えます。そしてそれから、トミヒ様と国民を幸せにします」


 そうして私はかえり、食堂にもどろうとした。するとウキコおばあちゃんから、声をかけられた。

「ちょっと、待っとれ」

「え?」


 ウキコおばあちゃんは右手を上げると、手のひらを空にかざした。

「ウェザー!」


 すると畑の上空をおおっていたあつい雲に隙間すきまができて、一筋ひとすじの光が畑に差し込んだ。私が空を見上げると雲の隙間は段々だんだん、大きくなってウキコおばあちゃんの畑中に光がそそいだ。


 そうしてついに上空の雲はなくなり、あた一帯いったいは優しい光でたされた。もちろん私も、光の祝福しゅくふくを受けた。


 それを確認したウキコおばあちゃんは、ニッコリと微笑ほほえんだ。

「アンタがトミヒ様の妃になるという、良い報告を聞いたのに天気がくもりというのはつまらん。だからここら一帯を、晴れにしてやった」


 それを聞いた私は、思わずウキコおばあちゃんにきついた。

「ありがとう、ウキコおばあちゃん!」


 するとウキコおばあちゃんは、私の頭を優しくなでてくれた。

「よしよし。幸せになるんじゃぞ……」


   ●


 そして、次の日。私が七日後にトミヒ様の妃になることが、国中に大々的だいだいてきに発表された。すると多くの国民が、これでトミヒ様の血を受けぐ子供が産まれて我がヨミフ国はこれから安泰あんたいだと、おいわいムード一色いっしょくになった。


 でも私はいつも通り、朝早く起きると食材を買ってきていた。そして野菜の皮をむいたり切ったりして、料理の準備をしていた。


 すると、食堂のドアが開いた。今日もまた、体の調子が悪いお客さんがやってきた。待っててください。私の料理で、元気にしてあげるので。できれば、すべての国民を。


 なのでもう私は、人見知ひとみしりをしている場合では無い。そう決心すると、自然とやる気と元気がわいてきた。なので私は、お客さんに元気に挨拶した。

「いらっしゃいませー!」


                            完結





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【完結済】食堂で魔法『スキャン』を使ってお客さんの体の悪い部分を見つけて、それを良くするための料理を作っていたら第一王子に妃になってほしいと告白されました 久坂裕介 @cbrate

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