第十八話

 そうしてお母さんは、料理を作ってくれた。私とトミヒ様も食べたが、もちろん美味おいしかった。そして料理を食べ終わると、トミヒ様は頭をげた。


「今日はナヒコさんが私のきさきになることを許していただき、また美味しい料理をいただきありがとうございました。申し訳ありませんが私はまだ城で仕事をしなければならないので、これで失礼させていただきます」


 するとお母さんも、頭を下げた。

「これからナヒコのことを、よろしくお願いいたします」


 それを見届みとどけたトミヒ様は、家の外で護衛ごえいしていた兵士へいしと共に馬車ばしゃで城に戻って行った。私とお母さんの二人だけになると、急にお母さんはヘナヘナとイスに座った。

「はあ~。まさかあなたが、あのトミヒ様の妃になるなんて。まだ、信じられないわ。でも、ホントなのよね?」


 なので私は、うなづいた。

「うん。本当よ、お母さん。私もこの話をトミヒ様から聞いた時は信じられなかったけど、本当なの」

「そうよねえ。何たって本物のトミヒ様が、この家にいらっしゃったものねえ……。あ、そうだ。このことを、お父さんに報告しなきゃ」


 と、お母さんは料理の残りをたなの上に置いてある、お父さんの形見かたみ聴診器ちょうしんきの横にそなえた。そして、両手を合わせた。おそらく心の中で、お父さんに報告しているのだろう。それが終わるとお母さんは、提案ていあんしてきた。


「それじゃあナヒコは、もうこの家にもどってこないかも知れないわねええ……。ねえ、今日がナヒコがこの家にいる最後の日かも知れないから、今日はお母さんと一緒に寝ない?」

「そうねえ、それもいいかもね」


 と私は今夜は、お母さんと一緒に寝ることにした。私とお母さんがベットに入ると、お母さんは聞いてきた。

「ナヒコがこのベットでねるのは随分ずいぶんひさしぶりなんだけどおぼえてる? もうあなたが子供の頃のことだから、忘れちゃった?」


 私は、少し考えてから答えた。

「そうねえ、あんまり憶えてない。やっぱり、子供の頃のことだから。ごめんね、お母さん」


 するとお母さんは、優しい声で答えた。

「いいのよ、ナヒコ。そうよねえ、あなたが子供の頃のことだもの。憶えてないのも無理は無いわ。それにしても私とお父さんの間で寝ていた、あの小さかったあなたが、まさかトミヒ様の妃になるなんて……」


 そして少しして、お母さんは続けた。

「トミヒ様はお城で王族おうぞくの一人になるあなたをまもってくれるとおっしゃったけど、私はやっぱり不安だわ。やっぱり王族は確実に、私たち庶民しょみんとは違うから。だからね、ナヒコ。王族がいやになったら、いつでもここに戻ってきても良いのよ?」


 だから私も、少し考えてから答えた。

「ありがとう、お母さん。もしそうなったら、私はこの家に戻ってくるわ。でもそうならないように、私はトミヒ様とがんばってみるわ」

「そうねえ、そうよねえ。ごめんね、変なこと言っちゃって」


「ううん。お母さんは私が、心配なだけよね。でも大丈夫、おやすみ」

「うんうん、そうだねえ。おやすみ、私の自慢じまんの娘……」


 そして、次の日の朝。私はお母さんが作ってくれた朝食を食べると、家を出た。いつもならここで二日、休んでから食堂に戻るのだが、どうしてもやりたいことを思いついたのだ。それは私がトミヒ様の妃になることを、ノリシさんとイタケさんとウキコおばあちゃんに報告することだ。


 なぜならこの三人は私にとってすでに、家族だからだ。肉屋のノリシさんは、お父さん。魚屋のイタケさんは、お兄ちゃん。そしてウキコおばあちゃんはやっぱり、おばあちゃんだ。


 出会ってまだ四カ月くらいしかっていないけどお父さん、お兄ちゃん、おばあちゃんは私にいないので、私は三人をそんな風に思っていた。


 あつい雲がおおくもり空の下、私はまず肉屋に行った。するといつものようにノリシさんは、いそがしそうに働いていた。私はまず、挨拶あいさつをした。

「おはようございます、ノリシさん。すみません、今ちょっとお時間いいですか?」


 するとノリシさんは、少し不思議そうな表情になった。

「おはよう、ナヒコちゃん。って、あれ? 今日は食堂は、休みじゃなかったっけ?」

「はい。そうなんですけど、ちょっとノリシさんにご報告ほうこくがありまして」


 ノリシさんは右手の先から出した、魔法の光のナイフで肉をさばきながら聞いてきた。

「ご報告? 何だい、一体いったい?」

「はい。私はこのたび、第一王子のトミヒ様の妃になることになりました」


 するとノリシさんの、右手の動きが止まった。そして、おどろいた。

「え? ええええ?! ナヒコちゃんが、トミヒ様の妃になるって?! い、一体いつ?!」

「はい。七日後の予定です」

「そっかー。ナヒコちゃんは可愛かわいいし良い仕事をしてるし、そりゃあトミヒ様の妃になっても不思議じゃないなあ」


 そうしてノリシさんは、しみじみとつぶやいた。

「それじゃあ食堂は、もう終わりになるんだね。ナヒコちゃんがここにくることは、もう無いんだね……」


 なので私は、答えた。

「いえ、そんなことはありません。私とトミヒ様とで相談して、私が妃になっても食堂は続けることになりました」

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