黒と赤の二重奏―君に触れたら世界が泣いた

青山ユッキー

第1話 黒と赤のの6月下旬



第1章:黒と赤の6月下旬


1話:黒と赤のクロス



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キーンコーン、カーンコーン。

放課後のチャイムが、静かな午後に溶けていく。


廊下に響く足音。

教室に残る数人の気配と、誰かが笑う声。


その中で——

何かが始まる気がした。

始まってしまう、予感のようなものが。



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黒田洋は、いつものように誰とも関わらず、ひとりで教室の机に突っ伏していた。

誰とも目を合わせず、誰からも話しかけられることなく。


恋なんてくだらない。

誰かを好きになるなんて、苦しみを増やすだけだ。

そう思い込んでいた。

——あの日、あの言葉を浴びせられるまでは。


誰かを信じることも、信じられることも、やめたはずだった。



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そんな黒田洋の背中を、そっと見つめていたのは——

同じクラスの女子、赤川洋子だった。


彼女は、男子が少し苦手だった。

けれど、それ以上に「心を見透かしてしまう」自分の感覚に、疲れていた。

うわべだけの優しさや、下心の匂いに敏感すぎるほど敏感で、他人と深く関わることを避けてきた。


けれど——

黒田洋の目だけは、違っていた。


孤独。

傷。

それでも、どこかで誰かを信じたいと願う、透明な眼差し。


彼の瞳を見た瞬間、

胸が、ほんのすこしだけ、痛んだ。



---


まっすぐに交わることのなかった、黒と赤。

けれど、6月のこの放課後——

ふとした偶然で、ほんの少しだけ“交差”してしまったのだ。


それが、世界を少しだけ変えてしまうことになると、

このとき、まだ誰も知らなかった。





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