死神

長万部 三郎太

発明王選手権

死神たちが暮らすという冥府がある。


彼らは専ら人の命を奪うことが使命だが、オフの日は魂を刈り取る鎌の刃を研ぐくらいしかやることがない。


そんな味気のない生活に飽きた一人の死神が、仲間にこう持ち掛けた。


「あまりに退屈だから、発明王選手権でもやらないか」


「……それはなんだ?」


「人間たちが発明した、逸品を順番に挙げていくんだ。

  答えに詰まったヤツが負けだから、その時は集めた魂を5個貰うぞ」


その言葉に三人の死神が興味を見せた。

太った死神、背の高い死神、小さい死神、そして発案者の死神だ。


先陣を切ったのは言い出しっぺの発案者。


「俺からいこうか。

  人間の発明品は……火薬、羅針盤、活版印刷だ」


「言葉、車輪、鍛冶」


「ペニシリン、阿片、酒」


「蒸気機関、内燃機関、原子力機関」


「コンピューター、ネットワーク、AI」




「……」


死神たちが発明品を次々と挙げるなか、ネタに尽きたのか言葉に詰まる小さい死神。


「お、もう終わりか? 残念だ。魂を5個だな」


「違う、俺はもう答えている。答えはそう、沈黙だ」



「なるほど」

太った死神が膝を叩く。


「沈黙を持って答える。それが人間の“偉大な”発明、婚姻という概念だな」


「……グフフ、実に





(えるしっているかシリーズ『死神』おわり)

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死神 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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