05 雨ニハヌレズ、彼ヲミツケル

「え⋯⋯いや、え? なんで?」


 右に左に下に首を回して、振り返って後ろもちゃんと見る。けど、ルッテはどこにもいなかった。(下みる必要はなかったね⋯⋯床だもん)


「ここね、大丈夫? なんか嫌なことでもあったの?」

「あー大丈夫、大丈夫! なんか7ヶ月前のこと、ちょっとでも思い出せるかなーなんて思ってて。ねっ!」


 うわー誤魔化すの下手すぎーわたし。ママ、多分信じてくれてないって。

 ⋯⋯こうなったら話題、話題変えないと!


「えーと、そんなことよりさ! 早苗さなえちゃんに会えるの、次はいつ頃?」

「うん、実はちょうどそれを言うために上がってきたの」

「え、ほんとに! いつ、いつに会いに行くの?」


 思わずママに飛びついてしまう。よかった、ママも笑顔に戻ってくれた。

 早苗ちゃんの話題になると、わたしの目はいっつもキラキラしているらしい。


「まぁ落ち着いて。明後日の午前10時! にここね一人で会いに行ってみて」

「うん! ⋯⋯うん? 今、なんて?」

「だから、ここね一人で行ってみて! ほら、お金は渡しておくから、頑張ってね」

「⋯⋯えええぇぇぇ!!!???」



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



「聞いてない、わたし聞いてないよーひとりなんて」


 ママが一階に戻ってから数分間、わたし体育座りでずっとそう呟いてた。

 いや、早苗ちゃんに会えるのは、ほんとにほんとに嬉しいんだよ。でも、一人で電車、からのバス、からのよく分からない受付。できる気がしない。


「まーこれも、ママからの試練ということかなー」

「そーいうことだよ、きっと」


 ビクッ!

 振り返ってつい「あぁ!」と声が出てしまった。

 開けっ放しになった窓のその先―隣の家の屋根にいたんだから!


「ルッテ、いつのまに!」

「逃げるのはよゆーなの。それよりさ、ここねなら早苗に会いに行くの無理じゃないでしょ、『ことリテ』なんだし」

「ことリテ、ことリテって、わたしがそれなのは分かったけど、何なの『ことリテ』って?」

「さぁ? それはここね自身が見つけないと」


 ムーッ!!! 一番モヤモヤする回答!

 すると、スッと何かをフリスビーみたいに投げてきた。⋯⋯まんまるの赤スマホ! キャッチしたものの、視線がいかないようにすぐにその辺に置いた。

 

「ま、とりあえず『ことリテ』のお役目を行う日は近いはず。それは一応持ってて」

「でも、これでどう戦うとか、詳しく聞いてないんだけど」

「まぁそれは本番一発勝負ってことで! その時はおれも駆けつけるし⋯⋯今日はこの辺でね!」

「あぁ、ちょっと! 命がけなんでしょーお役目って!」


 そういった時には、ルッテは忍者みたいにピョンピョン屋根を渡っていってた。

 わたしはその場で呆然とそれを見つめるしかできなかった。


「はぁー……ほんとに不思議な子」


 今日の体力、半分以上ルッテとの会話に使った。完全に彼が見えなくなって、そう強く感じた。



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



 翌日、空は快晴なのに登校してる時からどっと疲れた気分だった。

 ⋯⋯ルッテに言われたことが気になって、あんまり眠れなかったから。


 ゼンマーっていう奴らが、人を操る。

 対抗できるのは、スマホの力だけ。そして、わたし・ここねにしかできないお役目⋯⋯


 考えれば考えるほど、ウソっぽい。第一わたし、記憶ないこと以外ごくフツーの小学生だし。

 よし、もう今日はそんなこと気にしない! 心に強く決めて顔を上げたとき、つい立ち止まっちゃったの。



「……あれ、いつのまに?」


 ちょっと俯いて歩いていただけで、空は快晴から曇りになっていたんだ。

 ……天気って、こんなすぐ変わるっけ?

 そう思ってるうちに、ピカッと目の前が光った。


―――ザーーーゴロゴロ、ゴロ……ザーーー


「やっばー雨じゃん! 雷も一緒だし!」

「ちょ、うち傘持ってないんだけどー」

「私も! ねぇはやく行こー」


 前後にいた子たちが騒ぎながらダッシュで学校に走っていく。

 急ぎだした理由はもちろん、天気がまた変化したから。それもひどい雨と雷に。


 でも、わたしは全く走ろうなんて思わななかった。

 ありえない2つの現象が、わたしの脳内を?で埋め尽くしてたから。


 1つ目、ずっとザーーーって音が聞こえ、水の線が上から降ってきてる光景が広がっている。けど、わたしは雨に濡れなかった、少し歩いても絶対に。



 そして2つ目、数百メートル先の学校の屋上。立ち入り禁止なのに、そこに人影が見えたんだ。それも、子どもの姿が。


「……何してるんだろ?」


 最初は人影の正体が、さすがに違うって思った。でも、昨日「一緒に帰ろ」って言ってくれた笑顔にそっくりで。

 間違いない、つい彼の名前を呟いたんだ。


「ヒナタくん……」

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