06 初任務は突然に

 ⋯⋯いやいや、やっぱり見間違えだよね。そもそも屋上の扉とか鍵かかってるだろうし。きっと工事の関係者とかでしょ!

 とりあえず、大雨の中進むことにした。時々すれ違う人の視線から「傘も差さずに歩くなんて」っていう心の声を感じる。

 でも結局、髪にも服にもランドセルにも雨粒一つさえつくことはなかった。



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



「さきほど、後藤さんが病院に運ばれました。雷による事故で」


 朝の会、早速聞かされた言葉はそれだった。クラス全体は、驚きの言葉も出ずに固まった。しばらくして、数人の女子から鼻をすする音がした。


「直撃ではありません。だから命は無事みたいだけど意識はないみたいで……」


 その後の言葉はあまり入ってこなかった。

 いつのまにか、わたしも目が潤んでいたから。


 後藤さんで……後藤さんなんかでどうして……!

 あんなに嫌ってたのに、あんなにイジワルしてきたのに。

 なんでこんなに、悲しくなってるんだろ……


「とりあえず、後藤さんの無事を祈るばかりだけど……ってあれ?」


 急に先生の声が裏返って、思わず顔を上げる。

 先生の視線の方には、誰もいない席。あの席は……


 ……待って! あの席はたしか!


「誰か、井下くんどこにいるか知ってる?」



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



「はぁ、はぁ⋯⋯たちいり、きんし⋯⋯そりゃそうだよね」


 2時間目が終わった、中休み。わたしは人目を盗んでここまでダッシュした。

 目の前には、両引きタイプの扉。「立入禁止」って書かれた紙が貼っているだけじゃなく、持ち手には錆びついたくさりが頑丈に巻かれている。


 やっぱり、ここからじゃ……でも、これ以外の方法じゃあ……


「屋上には、行けない」


 先生たちは朝からずっと、ヒナタくんの捜索活動を続けている。

 「学校に向かった」と親からの電話もあったらしく、それはもう死に物狂いで。


 ただ「屋上にいたかも」とは誰も言わなかった。

 おそらくあの時の突然の雨で、わたし以外気づく余裕はなかったから。

 でも、そのわたしもみんなの前でそう証言することはできなかった。「屋上に」なんておかしな話だし、それに……見間違いだと思うし。

 とりあえず、鍵とかがかかってるのか確かめに、ここまで来たんだけど……



「やっぱり朝のは、みまちが」

「ここね! ちょっとそこどいて!」


 突然、真後ろから名前を呼ばれて、ドキッとする。

 ヤバい、先生!? すぐに振り返ったら、まさかのあの子だった。


「ル、ルッテ!!?? なんでここに?」

「うおぉぉぉぉぉぉーーー!!!」


 わたしの質問に答える前に、全力で階段を上ってくる。

 彼の右手には……木でできた剣(?)を持っていた!


「え、ちょ……なんでこっちくんの!?」

「質問せずに……はやくどいてーーー!!!」


 するとわたしの前にて、思いっきり両手で剣(?)を振り上げた!

 あぁ、もうっ!

 目をつぶって右に3歩ほど避けた途端、


「せいりゃーーー!!!」


―――ガッキーーーン!!! カランカラン……


 ルッテの掛け声とともに、すっごい衝撃音と、何かが落ちる音。

 ゆっくり目を開けると、鎖がバラバラに散らばってたんだ。


「よし、これで入れるよ、屋上に!」

「いやいや、入れるけども! 何してんの、学校のもの壊してんじゃん!」

「じゃあこれ以外で、屋上に行ける方法ある?」

「それは……ってか、なんでわたしがここにいるって知ってるの?」


 それに学校にいるのに私服? ならどうやって学校入ったの? あとなんでわたしが屋上に行きたいってのを……?


 聞きたいことが山ほどあった。

 ただ、ルッテの真剣な顔、焦ってる感じからすぐに口から出なかった。

 と、彼がわたしの両肩をガッと掴んでこう言ったんだ。

 

「ここね、さっそくだけど『ことリテ』のお役目だ」

「は!? 今、ヒナタくんを見つけないといけないから……」

「その、ヒナタだ!」

「……え?」



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



―――キキッー、キーーー……


 ヘンな音を立てながらも、引き戸はなんとか開けることができた。

 少し進むと辺り一面、快晴の空だけでとっても気持ちがいい。……ん? 快晴?


「ここが、屋上……」

「お、きたきた。やっと」


 つい出してしまった声に、かなり遠くにいた男の子が振り向く。

 間違いない、ヒナタくんの姿だ。でも、


 “ヒナタはゼンマーの操り能力、「マインドコントロール」を受けている”

 扉を開く前、ルッテはそう伝えてくれた。

 本当だった。

 直感でそう思ったのは、瞳の色が、見たくないくらい変色してたから。


「ヒナタくん、どうして……」


 たしか操られるのは、スマホを「正しく使えなかった時」だったよね。

 ヒナタくんが……? 考えられないよっ!


「さぁ、またはじめようよ、ここね。俺の力で次は誰を倒したい?」


 変な色の目が、より強く光るその笑顔に、わたしはコワくて立ち尽くすことしかできなかった。

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