ティーラテ・フロート

茶村 鈴香

ティーラテ・フロート

彼のオーダーはシンプル

「ホットコーヒーお願いします、ラージで」

「三種類ブレンドございますが」

「苦めのやつで」


私はギリまで迷う

フローズンモカか

カフェフロートか

「ティーラテをフロートにしてください」

結局いちばん

カロリー高そうなメニュー


「どこ座ろうか」

「外が見えるとこにしない?」


会話が途切れた時

気まずくないでしょ

たとえ途切れても

笑ってくれる人だけど


ティーラテ・フロートのグラスに

雫がまとわりついて

持ち上げるとワンピースの

膝にこぼれて濡れるのも


ティーラテ・フロートの

アイスクリームが半端に溶けて

スプーンですくえないのも

ストローで吸えないのも


やらかしちゃったって恥ずかしくて

わからないようにジタバタする


自然に振る舞えない

ふたりで会うの何回めだっけ

会うたび緊張してるってことは

もう好きなんだよね


「映画、面白かった?」

「うん、楽しかった」

彼の提案は

ボリウッドシネマのリバイバル


ぽっちゃりのヒロインが

嫌いじゃないみたい ちょっと安心


「さて、ご飯行こうか」

なに食べたいとか彼は聞かない

いつのまにか飲み干してる

ラージサイズのコーヒー


「うん、激辛だけダメなんだ」

他に好き嫌いなくてよかった

今のところ彼のペースに

巻き込まれて様子をみる


夕方から夜にかけての薄闇

ぼんやり灯る街路樹

点滅する青信号

どちらからともなく手を繋ぐ


今のところ彼のペースに

巻き込まれて様子をみる

「この辺詳しいの?」


グラスの雫みたいに 何かが

ぽつんと滴って

みぞおち辺りをきゅっとさせる


よく食べるねとか言われたらどうしよ

今になってスレンダーがタイプなんて

言わないよね?


明日は日曜日

この先は 夜景だけが知ってる


まさか朝まで

一緒にいることはないけど




























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ティーラテ・フロート 茶村 鈴香 @perumi

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