第3話 運動神経って結構大事だよね

「はぁ...碌な目に合わなかった」

 今は放課後、授業中もどこか奇異の目で見らており大地は落ち着くことができなかったが放課後なら落ち着けると考えていた時だった。

「如月さん...いい?」

 佐紀が大地に話しかけてきたので大地はまた面倒事になるなとおもいつつも断ることの方が面倒くさいと思い話を聞くことにした。

「...屋上まで来る必要あった?」

「さすがの私にも恥ずかしいって感情はありますので...」

 そして佐紀は言葉を続ける。

「ごめんなさい!」

 深々と頭を下げる佐紀に大地は驚く。何か言われるとは思っていたが謝罪だとは予想しておらず大地は思わずたじろいでしまう。

「な、なんで謝るの?」

 恐る恐る質問する大地に佐紀は頭を下げたまま回答する。

「私のせいで貴方の学校生活が...」

「そんなもの元から無いから大丈夫だよ...」

 これは大地の本心から来るものだった。中3の時から包帯をするようになり、平穏な学校生活などは送れていない。

「でも!」

「別に気にしてないから大丈夫だって...」

「というか、僕にかまってないで自分の時間を大切にしなよ」

「それじゃあ、また今度」

 大地はやんわりと自分に関わらないように伝えながら屋上を去る。残された佐紀は何とも言えないような気持ちを抱えながら大地の後を追う。

「待って!」

「あのさぁ...僕かまわないでって言ったよね?」

「君が僕に謝りたいのはわかったし、学校で噂がたてられることについてもなんとも思ってないって言ったよね?」

「まだ話したいことがあるんです!」

「何?」

「私と友達に――」

「あれ?今井さん?」

「どうしました?!」

 クラスメイトに一瞬佐紀の意識が向いた瞬間に大地は走り出していた。元々運動ができる大地は階段を下り目当ての部室へと走る。今の大地にとって唯一才能があると認識しているものはその身体能力だ。常人のそれを遥かにというと少々誇張するがかなり上回っている。おそらくこの学校で大地に勝てる人は存在しないと本人は自負している。

「ちょっと!如月さん!」

 そんな大地にとって佐紀の視界から消えることは容易だった。

「如月の奴がどうかしたの?」

「い、いえ」

「それよりも如月さんってどんな人柄なんですか?」

「あ~、ね」

 佐紀は一旦大地のことを追うのはあきらめまずは情報取集することにした。

「まぁ今井さんなら大丈夫か」

「?」

「私、あいつと中学時代一緒だったのよ」

「そうなんですか?」

「如月は中学時代はすごく明るくてね」

「みんなから頼りにされてたしあんな風に避けられるなんてことはなかったんだけど」

「左腕が今の状態になってから変わったんだ」

「今までの明るさはどこへやら」

「ずっと暗くてみんな心配してたんだけど高校になってからは周りの目もあって誰も気に賭けられてなかったんだ...」

「だから今井さんが気にかけてあげてくれてるみたいでうれしいよ」

「如月さんは昔は明るいお方だったんですね」

 佐紀にとって大地はずっと一人でいる根暗な人間のように映っていた。

 しかしその認識が変わったことを自分の中で再認識し、これからもかかわろうと考えていた時だった。

「そうだ、あいつがよくいくところを教えてあげるよ」

「ほんとですか?!」

「変人しかいないけど...まあ大丈夫でしょ?」

「が、頑張ります!」

「それはね――」

 佐紀が大地のことについて色々聞かれている一方、大地の方はというと逃げ切った後に部室へと足を運んでいた。

 大地にとって部室というのは他人の目を一切気にしなくて済むある種の憩いの場であり、仲間のいる唯一の場でもある。

「いやさぁ!マジで今井さんなんなの?!」

「あ~、美人って噂の転校生か」

「なんだ?お前もう誑し込んでるのか?」

「からかわんでほしいが?!」

「おいおい、先輩にそんな態度はないだろ?」

 少々男勝りな黒髪ロングの女子生徒、柊木 ひいらぎ かえで。彼女は今大地が所属している部活である解決部の部長である高校2年生だ。

「先輩って言ったってたかだか1つ上だしお前のせいで面倒な仕事放り込まれたりしたんだが?!」

「まぁまぁ大地、落ち着けって」

「文孝ぁ!」

 そして同じ部活にもう一人、大地の数少ない友人の加藤 文孝かとう ふみたか。彼ら三人は中学時代も全く同じ部活を作り様々な悩み事や事件を解決してきた。

 ある時は猫探し、ある時は盗品を取り返したり、ある時は痴話げんかの仲裁に入ったり。彼らが解決できなかった事件はほぼない。

「ったく、不正の証拠取りに行かされた時は死ぬかと思ったぞ」

「しょうがないだろう?頼まれてしまったんだから」

「だからってさぁ!」

「生きてて銃弾避ける経験するとは思わなかったぞ!」

「そういやお前銃弾避けてたな」

「お前体育さぼってるけど本当は運動神経いいもんな」

 そう言われ、大地は少し照れくさくなる。大地は身体能力だけでなく反射神経も高いため銃弾は目視でよけられる。そのためよく依頼を解決するために忍び込んだところの警備員などからは化け物だと呼ばれていた。

「というか、いい加減前線復帰してくれないか?大地」

「いくら部長のお前の頼みでも無理だ」

「どうしてさ」

 大地はたった1度だけミスをしたことがある。しかしそのミスが彼にとってもっとも大きな傷跡となり今も癒えぬままその才能はほこりをかぶっている。

「もう、表に立つのは嫌だ」

「あんな思い、したくない」

「ったく、それで”二代目”をやらされてる俺の気持ちはどうなるんだって話なんだが?」

「あと、お前の身体能力に合わせて色々造ったせいで部費も相当かかってるんだ」

「もし戻ってくる気になったら言え」

「全力でサポートしてやる」

 こんなにサポートしてくれる仲間はいない、と思っているがそれでも前に立とうとする気が起きない自分に嫌気がさしている大地に対して、一つ呼ぶ声があった。

「...今井さん」

 そこには先ほど振り切ったと大地が思い込んでいた佐紀が立っていた。

「まさかまだ謝りたいとか言わないだろうね」

「いえ...貴方の元?同級生に色々聞きました」

「それで?」

「私は、やっぱり貴方と仲良くしたいです」

「僕は仲良くする気はないんだけどね」

(そういやこいつって俺達とそれ以外で一人称も口調も変わりますよね)

(そうだな、というか転校生きれいすぎないか?文孝)

(わかります...普通にアイドルとかやってそうですよね)

 小声で会話する二人を置いてどうにかして大地は佐紀を遠ざけようとするが食い下がられてしまう。

「まぁまぁ、え~と」

「今井佐紀です」

「佐紀お嬢」

「お嬢?」

「こいつがいつもいる部室、見たくねぇですかい?」

「色々あるぞ」

「おい!何招き入れてんだよ!」

 普段と違うしゃべり方の文孝に若干困惑しつつもそのノリにのっかり先に部室を案内する楓。それに対して止めようとする大地だがどんどんと進めれれてしまい止めるタイミングを見失ってしまう。

「この錨みたいなのは?」

「あぁ~それは大地がまだ部活をちゃんとやってた頃の装備品っす」

「通称”ロケットアンカー”!」

「装備品」

「高いところに上るときにこの錨を射出してひっかけて巻き上げてのぼるんす」

「ただ大地の体に合わせて設計したせいで今じゃほこりをかぶってるがな」

「俺が使ってるのがこっちの鞭型のワイヤーっすね」

「こっちは”アンカーウィップ”っていうんす」

「見た目に反してこっちの方が重いもの持ち上げられたりするんす」

「文孝!お前しゃべり方どうした!」

「あんたにはいわれたくないっすよ!」

「はぁ...ったく」

 ため息をつき半ば止めることは諦め二人が余計なことを言わないように努めることにしたが奮戦むなしく大地にとって恥ずかしい意味での黒歴史をさらされることになる。

「そんでこれが”初代”のマスクっす」

「髑髏?」

「文孝!それはマジで話すな!本当に!頼むから!」

 大地は依頼解決をする上で身分がばれては大変なのでバイザー付きのマスクをつけて作業に取り掛かっていた。しかし若気の至りかなぜか中心に髑髏をあしらったパーツをつけるという致命的なミスを犯してしまった。そのせいで一部の連中からは”スカル”と呼ばれていた。しかし高校生となった今ではそんなもの恥ずかしさの塊でしかないので一番避けてほしい話題だった。

「これは大地がデザインしたマスクでな?」

「当時、中二病真っ盛りだったあいつはかっこいいからといいこんなものをつけてなぁ」

「そのせいで一部の奴らからはスカルなんて言う異名が付けられてたんす」

「かっこいい!」

「なんで教えてくれなかったんですか!」

「もう二度とその話したくないからに決まってるでしょ...」

「かっこいいのに...」

「お嬢はセンスがありやすね」

「というか文孝、お前のその三下みたいなしゃべりかた本当にどうにかしてくれ」

「いいだろ?こういうしゃべり方してみたかったんだよ」

「勘弁してくれ...」

 そうして小一時間説明され羞恥心で胸がいっぱいになる大地だった...

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化け物と恐れられる俺、事件解決する。 吉良常狐 @starinthelove

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