【12-2】杉村啓司からの取材記録・承前(2) 2025年5月7日(水)

「幽霊の<廉井徳夫>が、生身の人間を刺し殺した言うんですか?

それってまた、<2ちゃんねる>の書き込みやったんですか?」


「いや、それがなあ。今度は噂の出所が、黒板に残ってたいたずら書きやってん。

誰かが僕らの教室の黒板に、そんなこと書いたらしいねん」


「黒板に。それは明らかに悪戯っぽいですよね。

花山さんの事件の時のことを憶えてた誰かが、書き込んだんちゃいますか?」


「あんたもそう思うやろ?僕らもそう思ってな。

そんなことしそうな奴言うたら、若山しかおらんやろうと考えたんや。

花山の幽霊話のこともあったし、正志と僕で若山を問い詰めたんやけど、あいつ頑として自分やない言うねん。

半泣きなりながら言いよったから、あながち嘘でもなさそうやってんなあ。

それにもしかしたら、先にどっかで噂を聞いた奴が、後から黒板に書いたということも考えられると思い直して、それまでになったんや」


「誰が黒板に書いたかは兎も角、<廉井徳夫>に関する噂自体はあったんですね?」


「せやねん。一年前の噂は皆忘れかけとったんやけど、二回目やからなあ。

あっという間に、学校中に広がったんとちゃうかなあ」


「二回目ということもあって、広がるのも早かったんでしょうねえ。

それが定着して、僕らの頃まで語り継がれた訳ですか。

荒唐無稽や言うて、馬鹿に出来ませんよねえ。

しかしその噂を流した人には、どんな意図があったんですかね。

何となく苅田さんや高木さんの、無実を主張してるように聞こえるんですけど」


「確かに、そういう風に取れんこともないよな」


「それで三番目の事件でも、<廉井徳夫>の噂が流れたんですね?」


「せやねん。三番目の事件というのはな、糸谷いとやいう教師に関することやねんけどな」


「糸谷先生ですか?僕らの時には、その先生もういなかったような気がしますわ」


「そらそうやわ。何でか言うと、糸谷は僕らが三年の時に事故で亡くなってんから」


「亡くなったんですか?」


「糸谷言うんは僕らが三年の時の国語の先生やってんけど、夏休みの終わり頃に夜、道を歩いてて崩れた瓦礫の下敷きになったんや」


「あ、その事故のこと憶えてますわ。

それ、うちの実家の近くで起きた事故やと思います。

あの事故で亡くなったんが、糸谷先生やったんですね」


「そうなんや。運が悪い言うたらそれまでなんやけど、偶々道歩いてたとこに瓦礫が崩れて来るなんか、誰も思えへんやん。

あれは震災の時に崩れた家の残骸が積み上げられて、そのまま放置されてたんやろ?

震災から7年経っても、まだそんな場所が所々に残ってたからなあ」


「そうですねえ。僕はその頃小六でしたけど、親からあそこの道は通ったらあかんて、口を酸っぱくして言われてましたわ。

それで、その糸谷先生の事故の後、また<廉井徳夫>の噂が流れたんですか?

まさか糸谷先生も、<廉井徳夫>に殺されたという噂やったんですか?」


「ところが今回は、前の二回と違っててな。

はっきりとは憶えてへんねんけど、<廉井徳夫>は糸井と一緒に死んだみたいな話やったと思うわ」


「幽霊の<廉井徳夫>が死んだですか?

それはまた、前の噂とえらい違いですね。

しかも糸井先生と一緒に死んだて、意味が解りませんね。

それでその噂の出元は分かってるんですか?」


「いやそれが、その噂がどこから湧き出たんか、はっきりせえへんねん。

一年、二年、三年と連続して事件が起きたから、誰かが前の噂に便乗して広めたんかも知れんわ」


「成程。それはあり得ますねえ。

それにしても、何で突然<廉井徳夫>の存在を消すような内容になったんでしょうね。

その辺不思議ですねえ」


「そやなあ。僕らにもその辺はよう分らんねんけどねえ。

ところで最初に訊き忘れてんけど、紀藤は何で今頃になって<廉井徳夫>のこと調べようとし始めたん?」


「実は先日<廉井徳夫>を名乗る人物から、突然紀藤さん宛に伝言メッセージが届いたらしいんですよ。

それで中学時代のことを思い出して、どうしても気になるから調べようとしてはるみたいなんです」


「え?廉井から紀藤に伝言があったって?そらないわ。

今まで説明したように、廉井徳夫は架空の人物やもん。

あいつ誰かに、おちょくられれたんとちゃうやろか?

でもそうすると、紀藤をおちょくったんは廉井徳夫の幽霊話を知ってる、東中とんちゅうの人間いうことになるなあ。

誰やろう?もしかして若山かな。

あいつやったら、やりかねん気もするけど、今頃になって紀藤にちょっかい出す意味も分からんしなあ」


「若山さんは今、何してはるんですか?」


「確かあいつ、ホテルに勤めてるんとちゃうかなあ。

一昨年の同窓会で、そんなこと言うとったで。

三宮の駅の近くにある、全国チェーンのビジネスホテルやったと思うわ。

確かSSホテルやったかなあ」


「そうですか。ところで中学時代の紀藤さんは、どんな方やったんですか?」


「中学生時代の紀藤なあ。

あいつは大人しかった印象しか、残ってないなあ。

体は大きかったけどな。

中一で170超えてたんとちゃうかな。

紀藤とは中一の時同じ班やったから、偶に一緒に遊んだこともあったわ。

中二まではクラスが同じやったから、多少付き合いはあったけど、中三の時は別のクラスになって付き合いは殆どなくなったなあ。

あいつ確か私学受験したやろ。

せやから中三の時は僕らと遊んでる暇、なかったんとちゃうかなあ」


「そうなんですね。

ところで杉村さん。外山さんや杉村さん以外で、<廉井徳夫>の話聞けそうな方って、いらっしゃいませんかね?」


「うーん、そうやなあ。この近所やったら、森本があの頃のこと、よう知ってるんとちゃうかなあ」


「森本さんですか?それって杉村さんらとどういう関係の方なんですか?」


森本優香もりもとゆうかは中一の時に僕らと同じ班やってん。

花山とは小学校からの友達で、滅茶めっちゃ仲良かったんよ。

今は結婚して、確か立花姓になってるんちゃうかったかなあ。

何やったら連絡して見よか?」


「是非お願いします」

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