【12-1】杉村啓司からの取材記録・承前(1) 2025年5月7日(水)

以下は神戸日日新聞社会部記者五十嵐慎哉いがらししんやによる、杉村啓司すぎむらけいじ氏への取材時の録音記録である。

尚、録音に関しては、神戸日日新聞社の取材規定に則り、事前に取材対象者からその旨了解を得ている。


***

「花山さんの事件の後も二回、廉井徳夫の幽霊話が出た言うんは、いつ頃の話なんですか?」


「次に出たんは、僕らが中二の時やねん」


「花山さんの事件の、一年後いうことですね。

ちょっと間が開いてますね。

その時も何か事件があったんですか?」


「事件自体は確かに一年後なんやけど、その切っ掛けになったことが、僕らが中一の時にあってな。

そこから順を追って話すわ」


「お願いします」


「あんたの時もそうやったかも知れんけど、東中とんちゅうの体育祭って、10月にあったやん。

二学期入って、授業も落ち着いてきた頃に練習始まって。

今は点数競わせんたり、順番つけんかったりするそうやけど、僕らの頃はクラス対抗やったからなあ。

中には冷めてる奴もおったけど、大概の奴は張り切ってたわ。

中学入って初めての体育祭やったからね。

それで体育祭の練習が始まった頃に、一年の間で変な噂が流れてん。

その噂言うんが、花山の幽霊が教室から僕らの練習見てるとかいう、ほんまにしょうもない話やってん」


「花山さんの幽霊ですか。

ああ、でもそれらしい幽霊話は僕らの頃にも、体育祭の練習が始まったら流れてましたね。

あれは花山さんの話が元やったんですね」


「ああ、あんたの頃まで残っとったんか。

中学生やから、面白がって語り継ぐんやろうなあ。

せやけど僕らの時は、その噂聞いて洒落にならんかったわ。

花山があんな風に亡くなって間もない頃やったから、ちょっと生々し過ぎるやろ」


「そうですね。悪ふざけにしても行き過ぎてますよねえ」


「あんたもそう思うやろ。

僕らはその噂聞いて、ほんまに腹立ったんや。

花山とも苅田とも仲良かったからな。

苅田はその頃になると、周りの目を気にして、学校出て来んようになってたしな。

でも他の連中は違ってた。

噂に乗っかって、話し盛って、面白おかしく広める奴らが出て来たんや。

腹立ったで、ほんま。

それで元凶いうか、噂の元を作った奴を辿っていってん」


「見つかったんですか?」


「ああ、割と簡単に見つかったで。

本人も隠すつもりなかったみたいやしな。

元凶はまたしても若山やってん」


「若山さんて、この写真を撮った人ですよね?

花山さんの事件の時に<2ちゃんねる>の書き込みの噂を流した」


「そうやねん。僕らが問い詰めたら、若山の奴、悪びれもせんと認めよったわ。

ちょっとした冗談や言うてな」


「…」


「さすがに正志も僕も起こったわ。

けど高木はもっと怒ってん」


「高木さんですか」


「この写真のこいつや。

高木翔言う奴やねんけど、苅田とは同じ小学校出身で、ずっと仲良かってん。

せやから若山の態度見て、俺ら以上に腹立てたんやろうな。

いきなり殴りかかって、ちょっと怪我させてもうたんや」


「そうなんですね。でもそれやと、大事になったんちゃいますのん?」


「せやねん。若山の怪我は大したことなかってんけど、あいつの親がえらい騒ぎよってな。

傷害で警察に訴えるとか言い出しよってん。

当時僕らまだ13歳やったから、刑事事件の対象やなかってんけど、あまりに若山の親が強硬に出てきよったから、学校も困ったんやろうなあ。

結局高木は停学になったんや」


「え?中学生の停学や退学処分は、法律で禁止されてるでしょう?」


「その通りなんやけどな。

<自宅謹慎>という名目で、体のいい停学処分にされてん。

おかげで体育祭にも出れずや。

あいつ結構張り切っとったのになあ」


「気の毒ですねえ。それでそのことが切っ掛けで、二年生の時にどんな事件が起こったんですか?」


「ああ、それやね。

実は高木は停学処分の後、徐々にぐれていったというか、学校の中の不良仲間と付き合うようになっていってん」


「不良仲間ですか?」


「せやねん。あいつの小学校時代の同級生に、その時既に不良グループに入ってる奴がおってな。

そいつに誘われたみたいやねん。

高木は、根は悪い奴やなかってんけど、ちょっといきったとこがあったからなあ。

それに若山のことで、学校の処分にも腹立ったんやろうなあ。

ちょっと拗ねてもうてな。

僕や正志からも段々と離れて行ってしもうたんや。

それだけやったら、何にもなかってんけどな。

不良言うても所詮は東中生とんちゅうせいやから、そこまで悪いことはせんかったやろうし。

けど運が悪いことに、二年になって最悪の教師に当たってしもうてん」


「最悪の教師ですか」


「せやねん。中二の時の英語教師が薄永うすえいうおばはんでな、こいつが最悪やってん。

何しろヒステリックやし、依怙贔屓が無茶苦茶激しかってん。

勉強出来る子には優しいんやけど、出来ん奴はぼろくそやねん。

勉強出来ても、可愛らしい女子には当たりきつかったなあ。


高木は元々勉強苦手やってんけど、英語は特にあかんかってん。

おまけに不良グループに入ってたから、学校から眼え付けられとったしな。

薄永のおばはんにとっては、格好の餌食やったんやろなあ。

授業中にわざと難しい問題当てて、答えられへんかったらボロクソ言いよんねん。

皆の前でさらもんにしよったんや。


まあ高木だけやなくて、そんなんされとった奴は結構おったけどな。

そんな同級生の姿見てたら可哀そうで、ほんまに溜まらんかったわ。

高木も相当悔しかったんやろうなあ。

ある日とうとう爆発してしもたんや」


「爆発ですか」


「せやねん。高木のあほ、薄永のおばはん待ち伏せして、刺してもうたんや」


「ああ、その話は聞いたことあります。

事件いうのは、そのことやったんですね。

確かその教師は、亡くなったんですよね」


「あいつはほんまに運が悪かったわ。

前の年に少年法が改正されたやろ?」


「ああ、そうですね。2000年改正で、14歳以上が刑事罰の対象になったんでしたよね。

高木さんは事件の時には、もう14歳になってはったんですか?」


「あいつは5月生まれで、事件起こしたんが6月やったから、14歳になとったなあ。

せやから警察に逮捕されて、拘留されてしもたんや。

こんなこと言うたら何やけど、少年法改正がなかったら、罰せられへんかったんや」


「それについては、僕としては答えようがないんですけど。

それで高木さんは、その後どうなったんですか?」


「少年院に入ったいう話やねん。

噂によると、本人はやってないって主張したみたいやけど、家庭裁判所では通らんかったようやね」


「そうですか。もしかしたら冤罪かも知れんということですね。

でも本人が無罪を主張してるのに、有罪になったということは、何か決定的な証拠でも出て来たんですかねえ」


「当時の報道やと、凶器のナイフが現場に落ちてて、それが高木のもんやと特定された言うことやってん。

指紋でも着いてたんやろな」


「成程。でもあの時、結構大騒ぎになりましたよね。

僕はまだ小学生でしたけど、はっきり憶えてますもん」


「大変やったで。

学校の周りにマスコミが押し寄せて、生徒からコメント採ろうとして大騒ぎやってん。

えらい迷惑やったわ。

あ、あんたもマスコミやったな」


「気にせんといて下さい。

僕ら、色々言われるの、慣れてますから」


「やっぱり色々言われるんや。大変な仕事やなあ。

まあそれは兎も角、あの時の騒ぎは尋常やなかってん。

何しろあの何年か前に、同じ神戸で<酒鬼薔薇さかきばら>の事件があったやろ」


「<児童連続殺傷事件>ですね」


「せや。あの事件があって、まだ何年も経ってない頃やったから、また少年の凶悪事件が起きたいうて、物凄い騒ぎになってん。

マスコミの取材が怖あて、学校に出て来れんようになった子もおったくらいやねん。

騒ぎは暫く続いたなあ」


「そうですかあ。その時の中三の人らは大変やったでしょうねえ。受験生やのに。

それで<廉井徳夫>は、この事件とどんな関係があったんですか?」


「ああ、ごめん、ごめん。前置きが長なってしもたね。

暫くしてマスコミの騒ぎが一段落した頃からやったかなあ。

また妙な噂が流れたんや」


「妙な噂ですか?」

「せやねん。薄永刺し殺したんは、<廉井徳夫>やいう噂やねん」

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