【08】神戸市立北ノ台中学校教諭木村貴裕からの取材記録 2025年5月13日(火)
以下は神戸日日新聞社会部記者
木村教諭は平成8年から平成16年まで、神戸市立東中学校において、数学教師として勤務していた。
尚、録音に関しては、神戸日日新聞社の取材規定に則り、事前に取材対象者からその旨了解を得ている。
***
「木村先生。改めてお時間頂きありがとうございます」
「五十嵐君やったな。
悪いなあ。
流石に20年以上前となると、生徒の名前も憶え切られへんわ」
「気にせんといて下さい。
全然目立たん生徒やったから、先生が憶えてはらへんのも当然ですわ」
「そう言うてもらうと、気い楽なんやけどな。
それで今日は東中時代の話を聞きたい言うことなんやけど、どんな話なんかな?」
「先生にとっては嫌な思い出やと思うんですけど、25年前に学校で亡くなった、
先生が花山さんのご遺体を発見されたとか」
「花山沙織。ああ、憶えてるよ。
30年近く教師やってるけど、あの事件だけは忘れられへんわ。
せやけど、何で今頃になって新聞記者さんがあの事件のこと調べてんのん?」
「実は東中の先輩やった
その中で花山さんの事件が浮かんできて、当時のことをご存じの方に話を訊いて回ってるんですわ。
先生、紀藤さんのことは憶えてはりますか?」
「ああ、紀藤君な。彼のことは憶えてるで。
僕は彼が中一の時から三年間数学の授業持ってたんや。
よう出来る子やったな。
それだけやなくて、実は彼の父親の
せやから彼のことは、よう憶えてんねん」
「へえ、そうなんですね。えらい奇遇ですね。
それで、その紀藤さんの頼みで色々訊いて回ってるんですけど、憶えてはる範囲で結構ですんで、お話して頂けませんかねえ」
「成程なあ。紀藤君が何であの頃のこと知りたがってんのか分からんけど、僕が憶えてることでええんやったら、話したげるわ」
「ありがとうございます。
そしたら先ず先生が、花山さんのご遺体を発見されて時の状況について、教えて頂けますか?」
「僕が花本沙織の遺体を発見したんわ、宿直明けの朝6時に、校内の見回りしてた時やったんや。
校舎の二階に上がったら、一年三組の教室の、廊下側の窓が開いてたんが見えてん。
前日の夜9時に見回りした時は閉まってたから、変やなあ思って近寄ってみたんよ。
そしたら窓枠にロープが掛かってて、不審に思って教室の中見たら、三組の花山が首吊っててん。
正直腰抜かしそうになったわ。
最初は花山って分からんかってん。
首吊ったら、あんなに人相変わるもんなんやなあ。
可愛らしい子やったのに、見る影もなかったわ。
取り敢えず下ろしたらなあかんと思って、窓枠に
花山の体重に引っ張られて、結び目がガチガチに締まってたから往生したわ。
早よ外したらなあかん思て、必死やってんで。ほんま。
花山を床に下ろして呼び掛けたけど、ピクリともせえへんかったから、こらもうあかんなと思うてな。
急いで宿直室に戻って、救急車を呼んだんや。
勿論校長や教頭にも連絡したわ。
せやけど、人が来るのん待ってる間は辛かったなあ。
せめて傍にいたろ思て教室に戻ったんやけど、どうしても花山の死に顔は見れんかったわ」
「それは大変でしたねえ。
僕やったら動揺して、何してええか分からんかったと思いますわ」
「勿論僕も動揺したで。けど、生徒のことやったからなあ」
「ところで先生。あの時代は教室の鍵って、開けっ放しやったんですか?
今は結構学校のセキュリティも、厳しなってると思うんですけど」
「いや。あの頃も放課後生徒が全員下校した後に、先生方が分担して施錠して廻ってたで。
特に花山の事件があった日は夏休みやから、日中も全部の教室が施錠されてた筈やねん」
「そしたら何で、一年三組の鍵だけ開いてたですかね?」
「それがなあ。あの日は花山とか紀藤君の班が、夏休みの班の宿題をやる言うて、日中教室を使ってたみたいなんや。
後から確認したら、教室の鍵はボックスに戻ってたから、掛け忘れて帰ったんやろうなあ。
或いは花山が夜教室に入るために、わざと開けっ放しで帰ったか」
「成程。そこは微妙なとこですね。
先生。せやけど教室の鍵は兎も角、校門は夜間施錠されてましたよねえ」
「勿論されてたで。せやけどなあ…」
「?」
「花山が亡くなった当時、学校のセキュリティ管理は、そこまで厳しなかってん。
厳しなったんは、次の年に大阪で<池田小事件>があった後やねん。
君もあの事件のことは知ってるやろ?」
「あの事件のことは、はっきり憶えてますわ。
僕もあの時小学生やったから、うちの学校にもあんな怖い人来たらどうしようって、内心ビビってましたもん」
「せやろな。あの事件は衝撃的やったわ。
僕ら教師は、あんな奴が来たらどう対処しようかって、職員会議で侃々諤々してたもんな。
市立中学なんか学校予算も知れてるし、防犯カメラとかオートロックとか、すぐには設置でけへんから、校長とか教頭とかは僕ら以上に頭悩ましてたと思うで。
昼間も校門は閉じて、南京錠で施錠するくらいが関の山やったもんなあ。
それで話し戻すけど、花山の事件があった頃は学校もそこまで不審者の侵入を警戒してなかったから、裏門の鍵も外から手え廻して簡単に開けられたんよ。
さすがに花山の事件後には、南京錠掛けて開けれんようにしたけどな」
「成程。夜間の侵入は簡単やった訳ですね。納得しましたわ。
ところで先生。花山さんの事件の時、警察から何か訊かれませんでしたか?
一時期警察では、事件性を疑ってた気配があるんですけど」
「事件性?そやなあ。
ある生徒が警察に、事情聴かれてたらしいからなあ。
でも結局、事件にはならんかったんちゃうかなあ」
「事情聴かれたんは
「そんな名前の子やったかな。
せやけどよう知ってんなあ。流石記者さんやなあ」
「苅田さん、その後学校に出て来んと、自宅に引き籠ってしもたみたいですねえ」
「確かあの子は花山と付き合ってて、あの日ポケベルで花山を呼び出したんちゃうか言うて、周りに疑われてしもたんや。
誰かが変な噂流したんやろうと思うけど、可愛そうなことしたで。
庇ってやれんと、教師として忸怩たるもんがあるわ」
「確かにお気の毒ですよねえ。
当時仲良かった方と、今でも音信不通らしいですわ」
「そうかあ。もう20年以上も経ってるのになあ」
「それで先生は、警察から何か特別なこと訊かれませんでしたか?」
「特別かどうかは分からんねんけど、僕が訊かれたんは、ロープに着いてた血の痕のことやってん」
「血痕ですか?ロープに血が着いてたんですか?」
「ああ。けどあれは僕の血やで」
「先生の?」
「せやねん。花山下ろす時に、ロープで
その時は必死やったから気づかんかったけど、後で痛いなあ思て見たら、
それを言うたら、警察も納得してたで」
「そうなんですね。他には何か訊かれませんでしたか?」
「後は今君に訊かれたのと、同じようなことやったと思うよ」
「そうですか。分かりました。
そしたら今日は、これくらいにさせてもらいますわ。
お時間とってもろて、ありがとうございました」
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