最終話 新しい未来

 獅子拷たちとのやりとりを、俺は全て録画していた。

 携帯を胸に入れ、そして相手に色んなことを話させながら戦っていたというわけだ。


 獅子拷も自分の力のことを喋り、全てを証明するだけの材料はそろっていあt。

 俺は匿名でデータをネット上にアップし、それは瞬く間に広がっていく。

 

 結果――

 獅子拷たちの悪事を、世界が知ることになる。


 毎日のようにニュースが流れていた。

 獅子拷たちが死んでしまったこと、そして邪悪な存在だったことに戸惑いさえを覚えているようだ。


 俺はそれらを確認し、そして元の世界に戻ることに。


「俺はこの時代の人間じゃない。元の時間に戻ろう。そうすることが正しいことだと思うから」


 【セーブポイント】を起動し、元の時代に戻ることができるセーブを呼び起こす。

 視界がグニャっと歪み――俺は時間を超えた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「ちょっとあなた、起きて」

「……え?」


 俺は自室のベッドで眠っていたようだ。

 だが知らないベッド、知らない場所。

 そして知らない女性に起こされることになる。


 俺を覗き込む女性。

 綺麗なその人のことには見覚えがあった。


「……陣内?」

「陣内って……何言ってるの。私たちはもう結婚してて、今は私も功刀でしょ」

「…………」


 随分未来が変わってしまったようだ。

 失っていた腕は残ったまま。

 そして俺はどうやら、陣内と結婚をしたようだ。


 彼女は歳を取ってはいるが、だが幸せそうな顔をしている。

 俺が幸せにできたのか……しかし、彼女との記憶が全く無く、俺は戸惑っていた。


「ごめん……記憶喪失になったみたいだ」

「記憶喪失!? え、冗談だよね?」

「冗談じゃなく、高校時代のことは覚えているけど、それ以降のことが分からないんだ」

「…………」


 陣内は唖然とした後、クスクスと笑い出した。

 そして俺の隣に座り、こちらの手を握り締める。


「あなたの言っていた通りね」

「……え?」

「自分が過去から戻ってくる。その時は俺の全てを話してくれって」


 陣内――俺は万里香と呼んでいるらしい。

 彼女はこれまでのことを語り出した。


 獅子拷のことが明るみに出た後、世界中が混乱に陥ったようだ。

 どうやら獅子拷の能力が世界のバランスを取っており、彼がいなくなったことによって混沌が訪れた。

 俺は『魔王』の能力に何度も頼ろうとしたが、自分の力でバランスを正すことを決意する。


 長い孤独な戦いが始まり、世界中を飛び回ったようだ。

 その間、万里香が俺のサポートをしてくれ、いつの間にか惹かれ合った二人は結婚をしたとのこと。

 それからも戦いの日々が続き、そしてとうとう混沌の原因を突き止め、俺は最大の敵と激闘を広げ世界を救った。


 戦いが終わってからは穏やかな毎日。

 俺と万里香は大きなマンションで生活をし、子供は何と5人もいるらしい。

 ハンターとして大活躍していたので金には困っておらず、むしろ大富豪と呼んでも過言ではないとのことだ。


「腕もあるし、本当に未来が変わったんだな……」

「じゃあここからはあなたの話を聞かせて」

「俺の話って……何の話?」

「未来が変わる前の話。あなたがどんな未来から来たのか、それを話してもらう約束だから」

「そんな約束してたのか……そうだな」


 俺はポツポツと自分の話をし始めた。

 万里香が獅子拷と結婚していたこと。

 獅子拷がハンターの頂点として活動していたこと。

 俺は右腕を失い、引きこもり生活をしていたこと。

 自分が記憶している限りのことを彼女に話し、万里香は納得したのか何度も頷いていた。


「私が獅子拷くんと……きっと騙されてたんだろうね」

「どうだろう。二人に何があったのかは知らないし、もしかしたら獅子拷は君に対しては誠実だったのかも知れない」

「どっちにしても、私はあなたと一緒になれて良かったと思うし、あなた以上に渡しを幸せにしてくれる人はいないと思ってる」

「そんな大袈裟な」

「大袈裟じゃないよ。本当に幸せなんだから。じゃあまずはそのことを知ってもらうところから始めようか。お互い知らない世界から来た者同士みたいなものだし、お互いのことをもっと話し合おう」


 俺は絶望の未来を変え、彼女は希望に満ちた未来を生きている。

 互いを知らない夫婦で、でも万里香は俺と別れるつもりもないようだ。

 そして俺もこの世界のことを何も知らないはずなのに、万里香に対しての想いは体が記憶している。


 これから俺たちは新しい未来を生きていく。

 お互いを理解し合い、家族として生きていく。


 闇に飲み込まれた未来から光に満ちた未来へ。

 俺は変えることができたんだ。

 これから続いていく未来を想い、そして目の前にいる愛しい人を見て、胸をときめかせた。


 おわり

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弱男おっさんのやり直し~特殊能力【セーブポイント】で過去に戻り【ジョブツリー】で最強に~ 大田 明 @224224ta

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