暴力推奨バイオレンスパーク

ちびまるフォイ

暴力中毒は抜けられない

「だーーかーーら!!

 さっきからなんで遅れたかを聞いてるんだって!!」


「そ、それは電車が詰まってまして……」


「それは知ってるんだよ!!

 あんたじゃ話にならない! 上司を呼べよ!!」


電車遅延を駅員に話していると、周囲に人が集まってきた。


「あれ……カスハラじゃない?」

「うわぁ……本当にやる人いるんだ……」

「駅員さん可哀想……」


「ちがっ……! カスハラじゃない!!

 俺はただこの若い駅員に指導してただけだ!!」


駅員もこの追い風を察したのか被害者顔を決め込んでやがる。

ああ、もうムカつくぜ。


「ちっ!! もういい!!!」


近くのゴミ箱を蹴飛ばした。

この一連の所作は後日ネットにアップされた。

カスハラおじさんとしてトレンドにまで晒し上げられる。


「クソ! クソ! クソ!!

 毎日毎日ムカつくぜ!! なんでこんなに生きづらいんだ!!」


パチンコも、ゲームも、ギャンブルも何もかも。

最近は自重・自粛・抑制……ガマンばかりだ。


イライラを発散させる場所が日に日に失われている気がする。


「ああもう、むしゃくしゃする……。ん? これは……?」


招待状がポストに届いていた。

半信半疑で人里離れたへきちにあるテーマパークへと向かった。


マスコットキャラが楽しそうに開園を告げた。


「みんな! ここは暴力推奨のバイオレンスパーク!

 キャストおよびマスコットへの暴力はぜーーんぶOKだよ!

 ただし、ゲストには暴力を振るわないでね! 捕まるよ!」


「マジかよ……」


テーマパークに入ると、そこかしこでマスコットが殴られていた。

するとキャストがニヤニヤしながらやってくる。


「こんにちは!」


「あ、ああ……。こんにちは。本当に暴力ってふるっていいんですか?」


「もちろん。それが目当てで来たんでしょう?」


「そりゃそうですけど」


「肉体的な暴力。誹謗中傷。悪口などなど。

 このテーマパークにおいてはすべて問題ございません!」


じゃあ遠慮なく、と手を出す気には慣れなかった。

それをわかったのかキャストは、ニコリと笑い俺の服を指さした。


「それにしてもクッソだせぇ服ですねぇ。

 いつの時代ですかぁ? 30年前のおしゃれって感じッスねぇ!」


「んだとぉ!!!」


思わず手が出た。

拳がキャストの頬を思い切り殴り抜けた。


「は、ははは。いいんだよな? 殴って……いいんだよな!?」


倒れたキャストをマウントポジションで何度も殴る。

鼻血が出ようが、歯が欠けようがしったことか。


「俺の!! なにが!! ダサイって!!?」


ボコボコにしてキャストが立ち上がれなくなるのを見るとスッキリ爽快。

自分をバカにするとこうなるんだぞ、という謎の優越感に満たされる。


「バイオレンスパーク、悪くないかも……!」


ここでの楽しみ方がわかった気がした。


テーマパークには様々なシチュエーションやアトラクションがあり

そこかしこでゲストは暴力を振るって快感をわかちあっていた。


結局、閉園まで暴力にひたるとその日は久しぶりに快眠を貪れた。


「ストレスが発散できると、こんなにも毎日幸せなんだなぁ……むにゃむにゃ」


翌日からは再び日常へと戻った。

真夏の熱線に晒されて会社に行くと部長がキレていた。


「〇〇君、遅刻かね!!」


「実は電車が遅れまして……。本当に困ります」


「電車が遅れたなら早く家を出ればいいだろう!?

 まったく、営業成績も低いくせに言い訳ばかり達者だな!!」


説教をたれる部長の顔を見て、ここがパーク内だったらと思う。


まずはこう……顔の横を殴って。

倒れるまで膝蹴りをお腹にいれて。

倒れたら何度も何度も踏みつけてやるのに。


「聞いとるのかね!?」


「ふえ!? あ、あ、はい!!」


「君を雇っている私の気になってみたまえ。

 まったく……本当にとんだお荷物だよ!!」


「てめぇが無能だから、こっちが本来の能力発揮できねぇんだよハゲ。あっ」


頭の半分がテーマパークのことを考えていたのがまずかった。

普段なら喉奥にしまうべきセリフをが口から出てしまった。


部長はゆでだこのように怒り狂い、

自分のストレス値も過去に類を見ないほど急上昇。


ストレスを受けていることだけでなく、

それを表面化させないように抑えるストレスもまた大きい。


仕事が終わるとまっすぐにテーマパークへと向かった。


「ああムカつく! ムカつく!! なんでもいい!!

 早く誰かをぶちのめして、なにもかも壊してしまいたい!!!」


襲い来る暴力中毒の症状が足を早める。

やっとこさテーマパークに到着したが、なんと門は閉まっていた。


門の前には貼り紙だけがある。



『バイオレンスパークは、改築・改良工事のため一時休園しています』



「きゅ、休園……?」


門の前でひざから崩れ落ちた。

それじゃ自分はこのストレスを、怒りを抱えなくちゃいけないのか。

そんなのムリに決まっている。


ここまで来た道を戻るというのなら、

今抱えている暴力衝動がどこで爆発するかわからない。


電車で向かいに座っている人の顔が気に食わないだけで手が出てしまうかも。

そうなったら自分の人生は社会的に終わる。


「ここを動いたら俺は犯罪者になっちまう。

 だったらここで待つしか無い……」


唯一思いついたのはそれしかなかった。

休園が告げられた門の前にレジャーシートを引いて開園を待つ。


ストレスを思うまま発散できない、というストレス。

こんなに待っているのにいつまでも開園しないストレス。


イライラが常に頭を占有している。

それでも我慢できたのはリニューアル後への期待感。


「これだけ溜め込んだイライラも、

 きっとリニューアル後の新パークで一気に発散できるはず。

 いったい何ができるんだろう」


新しい暴力アトラクションか。

それとも新しい暴力スタジオか。


誰よりも先に、誰よりも多く楽しんでやる。


そしてついにその時は訪れた。

門の前にキャストが集まってくる。


「暴力にとりつかれたみなさま!

 長らくお待たせしました! バイオレンスパーク。

 リニューアルオープンです!!」


門が開かれる。

開園を待っていたゲストたちが一気になだれ込んだ。


門を開けたキャストへ飛びかかるように暴力が振るわれる。

もうみんな辛抱たまらない状態だったのだろう。


しかし自分の目的は違う。


「さあ、何が新しくなったんだ! どこが追加されたんだ!?」


パンフレットを手にとって新要素を確認する。

追加されたのは居酒屋"武勇伝"が1店舗追加されただけだった。


「え……? こ、これだけ……?」


なんて期待ハズレのアップデート。

これだけ期待させて、これだけ待たせてこんなしょぼいなんて。


「ふざけやがって!! ムカつくーー!!」


イライラしたので近くのキャストを呼び止めて暴力を振るう。

すると、腕のバンドに +10pt と表示された。


「なんだ……? ポイントが増えた……?」


「リニューアル後の新要素です。

 これまではただ暴力を振るうだけでしたが、

 暴力に応じてポイントが付与されるようになりました」


「へ?」


「そしてポイントは集計され、パーク内のランキングに掲示されます」


自分はまだ10ptなので最下位すれすれの順位だった。


「さあ、どんどん暴力をふるって、ポイントを集めましょう!」


「は、ははは! あははは! 楽しい! 楽しいぞ、これ!!」


何度も何度も殴る。

もう意識を失っても殴って踏みつける。

ポイントが増えると褒められているように感じる。


パーク内のランキングボードを見た。

自分のランキングはジャンプアップして上位に食い込む。


「ぜったいに1位になってやる!!」


集計終了時刻まで、パーク内で暴れまわった。


キャストやマスコットを見つけしだい暴力。

パーク内のあらゆるものを破壊してもOK。

ポイントが増やす行動を常にやり続けた。


集計が終わると本日のパーク内バイオレンスランキングは1位だった。


「やった!! やったぁ!! 暴力1位だぁ!!」


夢中になって暴力をふるい続けたので体はボロボロ。

疲れ切った体は自然と新設された居酒屋へと歩いていた。


そこには上位を競ったランカー達が、さながら占有のように酒を飲み交わしている。


「俺なんか、キャストを壁に押し付けて何度も殴ってやった!」


「オレはパレードに乗り込んでマスコットをボコボコにしてやったよ!!」


なんて最高な空間なんだろう。

こんな居心地のいい場所を用意してもらえて最高だ。


自分も輪の中に入って、今日の成果を声高に自慢した。


「僕はあの頑丈そうなキャストをやっつけたんだ!!

 ちょっと本気を出したらこんなもんだよ!

 子供の頃は空手やってたのが生きたなぁ! わっはっは!!!」


ああ、なんて気分がいいんだろう。


その日は閉園まで居酒屋"武勇伝"でひたすらに自慢をしまくった。

なにせ自分は暴力ランキング1位。

誰よりも強いんだ。

強いってことはすごいことなんだ。


自分はすごい人間なんだ。


「ふひ……ふへへ……。暴力って……サイコー……」


あまりに居心地の良さに酔いつぶれてしまった。



この快感を知ったら、もう自分は普通の社会には戻れないと悟った。


だって明日も誰かに暴力ふるいたくてたまらないもの…………。

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