第6話 ありがとう

俺が寝ずの番をしていると、いつの間にか夜が明けた。


久しぶりに体を取り戻した俺にとっては全てが新鮮で時間が過ぎるのがあっと言う間であった。


さて、そろそろかな。


俺はゆっくりと立ち上がると凝り固まった体を伸ばしていく。


「んん・・・」


丁度その時、軽く声を上げながらクラリスが体を起こす。


「おはよう。クラリス」


俺は久しぶりに挨拶をする。


「・・・ああ。おはようモリス」


クラリスもゆっくりと立ち上がると挨拶を返してくれる。


・・・この感情は、


「悪いな。食事の一つでも用意出来れば良かったんだが何も持って無くてな」


俺は笑みを浮かべそうになるのを堪えながら別のことを言う。


「・・・気にするな」


クラリスは手ごろな石の上に座ると綺麗な金髪を後ろにやると蒼い瞳で俺の方を真っ直ぐに見て来る。


「・・・モリス、お前の事を教えてくれないか?」


・・・隠すようなことではないか。


俺は、正直にクラリスに話すことにした。


「そうだな。大したことじゃないが・・・」


俺は前置きをおいてから自分の事情を話し始めた。




「・・・なるほど。俄かには信じられないが、確かに辻褄が合うな」


俺の話を全て聞き終えた後、クラリスはそう言った。


「信じてくれるのか?」


俺は意外な反応に驚きながらクラリスに尋ねる。


「ああ。まさか、噂の『魔人』が人間だったとはな」


クラリスはゆっくりと立ち上がると俺に方に向かって歩き出す。


「・・・」


俺はなんて返したら分からず無言のまま近づいてくるクラリスをぼうっと眺める。


目の前に立ったクラリスは、右手を差し出すと、


「モリス。ありがとう」


俺に向かって礼を言って来た。


・・・心が温まるな。


俺はクラリスの手を握ると、


「・・・ああ。どういたしまして」


笑みを浮かべた。




「まさか、あれから5年も経っていたとはな・・・身長も伸びている訳だ」


クラリスの後ろに続いて歩きながら俺は道中教えて貰った衝撃の事実に驚きを隠せなかった。


今いる場所は俺が住んでいた村とはあり得ないくらい離れている場所だったらしい。


クラリスに俺の村のことを言うと、聞いたこともないと言っていたからだ。


「何というか・・・ご愁傷様としか言いようが無いな」


俺の呟きを会話だと判断してくれたのか、クラリスが暗い感じで相槌を打ってくる。


「ああ。悪い悪い。気にしなくていい。どうせあの時は死んでも良いと思ってたからな。生きてこうして歩けるだけでも儲けものだよ」


俺はクラリスの言葉にあっけらかんと返す。


「・・・そうか」


後ろ姿なので定かでは無いが、クラリスはふっと、笑ったような気がした。




「見えてきたぞ」


遠くに町が見える位置でクラリスは立ち止まる。


あれから歩いて数時間。いつの間にか太陽が真上に辿り着いていた。


「・・・凄いな。俺が住んでいた村とは段違いに大きい」


俺は遠目からでも分かる大きさに驚きを隠せない。


この辺りでいいか。


俺はクラリスに背を向けると、


「じゃあな」


ゆっくりと歩き出す。


俺の義理は無事に人が居る場所まで付きそうことだ。


ここまでくれば充分だろう。


「・・・待ってくれ」


クラリスは振り返ると俺を制止する。


その言葉に俺は足を止める。


「これからどうするつもりだ?」


クラリスが質問してくる。


「・・・特に予定は無いが気の向くままどこかに行くさ」


俺は正直に答える。


「・・・なら、一緒に来ないか?助けて貰った礼もしたいしな」


「・・・」


・・・まぁ、行く場所も無いし行って見るのも良いか。


その前に、


「・・・俺は常識も何も無いぞ」


「いいさ。これから学べば良い」


「・・・・・俺と行くとクラリスが迷惑を被るかもしれないぞ」


「ははは。大したことないさ」


「・・・・・・・・・分かった」


俺はクラリスの方に体を向けると、


「ありがとう。クラリス」


久しぶりの礼を言ったのであった。

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魔物に乗っ取られていた俺は自我を取り戻す。人生積んだと思ったら、その時培った経験で無双します。 千石 @gcik

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