最初は買収される予定でしたが、今はこの家と世界を再設計しています

@Zero_ReiXova

第1話 提案書と婚姻届け

東京・丸の内。ガラス張りの会議室に、一人の女がいた。


桐島碧羽。地方国立大出身、現在24歳。

無名の個人開発者でありながら、

1つのアプリをきっかけに財閥の中枢へと足を踏み入れた女。


彼女が開発したのは、業務プロセスを自動可視化するアルゴリズム付きの

軽量クラウドアプリ。「Silica(シリカ)」。

地方中小企業向けにリリースされ、SNSで話題になった。

そして、それを“見つけた”のが芹沢グループだった。


「契約書は持参しています」


芹沢グループ第3事業部の会議室。

重厚なテーブルの向かいに座るのは、彼。


芹沢奏──財閥の三男。海外MBA取得後、家族政治から距離を取り、 自ら新規事業開発部を立ち上げた異端児。


奏は資料を閉じ、微笑んだ。

「買収は、しないことにしました」


碧羽は瞬きひとつせず、その顔を見返す。

「……どういう意味ですか?」


「正確に言えば、買収じゃない形で組みたい」

「つまり?」

「結婚しませんか、桐島さん」


一瞬、空気が硬直した。


「冗談でしょう?」

「本気ですよ」


奏は静かに言う。

「“Silica”の設計思想に惚れました。そして、それを作ったあなたにも。企業としてではなく、一人の人間として共闘したい。けれど、うちの家は外部パートナーを簡単には受け入れない。だから──家族になってください」


碧羽は冷静にグラスの水をひと口飲む。心臓は驚くほど静かだった。

「名目は“政略結婚”で、中身は“合弁事業”ですか」

「分かっていただけて光栄です」


碧羽は目を細める。


──この男、最初からそのつもりで会議に臨んでいた。


つまり、自分が仕掛けられた側。

だが。

「いいでしょう。あなたが私を“利用”するなら、私も“使わせてもらいます」


微笑みの裏で、戦略の駒が動き出した。

彼女の狙いはただひとつ。


芹沢家を──内側から再設計すること。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最初は買収される予定でしたが、今はこの家と世界を再設計しています @Zero_ReiXova

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る