第5話

第5章:夢よりも、現実を選ぶ


光輝は最後の選択を迫られていた。


「もう奈緒子を操るために夢を使いたくない。ただ、想いを伝えたい。それだけなんだ」


サタニャンは表情を崩さず、こう言った。


「じゃあ、“感情への直接干渉なし”の裏モードがある。記憶だけを共有する静かな夢だニャ。その代償は、君の寿命3年分」


光輝は頷く。


「構わない。奈緒子に負担をかけないなら、それでいい」


最後の夢は、特別な演出も奇跡もなかった。


春の朝、未来の話をする2人。子どもの名前、行きたい国、年老いたときのこと。


「私はもう……長くはない。でも、この夢には、何十年分の幸せがある」


「光輝くん、ありがとう。……私が消えても、あなたは生きて。ずっと、生きていてね」


──それは、静かで温かな永遠の夢だった。


翌朝、光輝は坂道で奈緒子に告げる。


「山崎さん。もうズルはしない。夢じゃない。これが、俺の本当の気持ちだ」


奈緒子は、涙を浮かべながら微笑んだ。


「……夢じゃないんだよね?」


「うん。現実だよ」


夕陽の中、2人の影が重なる。光輝のポケットに入っていた水晶は、そっと砕けて、消えた。



エピローグ


光輝の寿命は、60歳までになった。だが、それは「奈緒子との想い出」が詰まった、誰よりも濃密な人生だった。


夢に頼る恋ではなく、想いで繋がる恋。


それは、誰よりも“本物”の恋だった。

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ドリームマスターの危ない恋 奈良まさや @masaya7174

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