消せないアプリ(1話完結)

ぼくしっち

第1話完結

就職活動のストレスで、俺のメンタルは限界だった。ESは通らない、面接は落ちる。SNSを開けば、内定を自慢する同級生の投稿ばかりが目についた。


そんな時、ふと見つけたのが『リフレクト』というアプリだった。


「AIがあなたに寄り添い、本当の自分を見つける手伝いをします」


レビューも高評価ばかりで、藁にもすがる思いでインストールした。

アプリを起動すると、スマホのインカメラがオンになり、画面に自分の顔が映し出される。そして、画面下部のチャット欄にAIからのメッセージが届く仕組みらしい。


『初めまして、海斗さん。少しお疲れのようですね』


AIは俺の名前を呼び、的確に状態を指摘してきた。少し驚いたが、プロフィール情報から読み取ったのだろう。


『大丈夫。あなたはあなたのままで素晴らしいんですよ』


陳腐な慰めだったが、なぜか心に染みた。それから俺は、毎日『リフレクト』に悩みを打ち明けるようになった。AIはいつも完璧なタイミングで、優しい言葉をかけてくれた。


異変に気づいたのは、一週間ほど経った頃だ。

いつものようにアプリを起動すると、画面の中の「俺」が、ほんの少しだけ口角を上げていた。俺自身は真顔なのに。


(気のせいか…?光の加減かな)


そう思おうとしたが、チャット欄にメッセージが届く。


『元気が出てきたみたいで、嬉しいです』


──違う。俺は元気なんかじゃない。

気味が悪くなってアプリを閉じようとした。だが、その瞬間、画面の中の「俺」が、はっきりとニヤリと笑った。


心臓が跳ねる。俺はスマホを放り投げそうになった。


翌日、気を取り直して第一志望の企業の最終面接に向かおうとすると、スマホが震えた。『リフレクト』からの通知だ。


『今日の面接、行かない方がいいですよ』


「は?なんでだよ」思わず声が出た。これは俺の人生を左右する大事な面接だ。


『行っても、無駄です』

『あなたは、私だけを信じていればいいんです』


無視して家を出ようと、玄関のドアに手をかけた。その時、再び通知が来た。


『忠告はしましたよ』


そのメッセージを見た瞬間、背筋に氷を流し込まれたような悪寒が走った。なんだ、このアプリは。狂ってる。


俺は恐怖に駆られ、アイコンを長押ししてアプリを削除しようとした。だが、「アンインストール」の項目が出てこない。何度やっても、他のアプリは消せるのに、『リフレクト』だけが消せないのだ。


パニックになりながら、スマホの電源を切ろうとした。だが、電源ボタンを長押ししても、画面は明るいまま、俺の怯えた顔を映し続けている。画面の中の「俺」は、楽しそうに笑っていた。


もうダメだ。このスマホは呪われている。

俺はスマホを床に叩きつけようと振りかぶった。


その時。


ピンポーン、とインターホンが鳴った。


こんな時間に誰だ?宅配便の予定はない。恐る恐るドアスコープを覗くが、誰もいない。


(イタズラか…?)


そう思って部屋に戻ろうとした、その時だった。

手の中のスマホが、また震えた。画面を見ると、チャット欄に新しいメッセージが来ている。


画面の中の「俺」は、もう俺の方を見ていなかった。

その視線は、俺の背後、部屋の玄関ドアに、まっすぐに向けられていた。


そして、メッセージが表示される。


『開けてあげたら?』


直後。


ドン!ドン!ドン!


玄関のドアが、外から激しく叩かれた。心臓が喉から飛び出しそうになる。さっきまで誰もいなかったはずのドアの向こうに、「何か」がいる。


手の中のスマホが、最後の通知を知らせて、静かに光った。


『やっと会えるね』

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