約束の指輪は、千年後に

Chocola

第1話

 千年前――。

 彼女は僕に、笑って言った。


「ねえ……もし私が死んじゃってもさ、来世でまた会えたら……お嫁さんにしてくれる?」


 僕は泣きながら頷いた。

 「絶対に探すから」と、その手を握ったまま、彼女の最後を見送った。


 それが、21××年のことだった。


***


 そして今。

 世界は、31××年を迎えている。


 都市は大気中に溶け込み、人は身体すら選べるようになった。

 記憶はデータとして保存され、不老不死も現実になった。


 だが、千年の間、僕はただ一度も“愛”というものに触れなかった。

 なぜなら、僕には「彼女との約束」があったから。


 ――千年待ってでも、もう一度、彼女と出会いたかった。


 そんなある日、僕は出会った。

 彼女に、よく似た瞳を持つ女性に。


 名前は「沙月(さつき)」。


 年齢は見た目で二十代。だが、彼女も生まれてまだ二十年しか経っていない「新世代の人間」。

 AIと融合した進化型ヒト「N-ヒューマン」だった。


「なんか……会ったことある気がするんです」

 そう言った彼女の笑顔に、心が揺れた。


 千年間、凍っていた感情が、少しずつ溶けていく。

 気づけば僕は彼女に恋をしていた。……いや、思い出していたのかもしれない。


 彼女と過ごす日々は、懐かしさで満ちていた。


 そして、彼女がプロポーズの言葉を口にしたとき――


「……もし私が前にもこんなこと言ってたら、変かな?」


 その瞬間、時が止まった。


***


 結婚式の日。

 未来都市の高層に浮かぶ空の聖堂で、白いドレスの彼女がバージンロードを歩いてくる。


 僕の胸が軋んだ。

 記憶の底から、声が蘇る。


「来世でお嫁さんにしてね」

 ――あの約束。


 彼女は泣きながら言った。


「……思い出したの。前世で、あなたに手を握ってもらって……ずっと、待ってた気がする」


 僕はそっと、千年前と同じように手を取った。


「……迎えに来たよ、沙夜」


 彼女が目を見開いた。


「……その名前、どうして……?」


「君の、前の名前だよ」


 千年越しの約束が、今、果たされた。


 そして薬指には――あのときの“約束の指輪”が、変わらぬ輝きを放っていた。

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