第4話:ハロワの闇~職を紹介する職員の真実~

 ハローワーク。それは厚生労働省が国民に安定した雇用機会を確保することに基づき、国が設置する行政機関である。しかし、ハロワ求人の闇はとても深い。今回はハロワの求人と職員の闇にまつわる物語。


 私の名前は、山田颯太。大学を卒業し、半年前まで職を転々とするジョブホッパーだった。今は26歳。実家に引きこもりながら、失業保険を受給しながら生活している。

 「んー、そろそろ職を見つけないと失業保険の受給期間が終わってしまう」

 そう言い聞かせて私は、家から最も近いハロワに行った。

 私の担当は私ぐらいか少し年上っぽい職員であった。

 「本日はどうなさいましたか?」

 私は職員に今の世の中の状況と自分の理由を説明した。

 「世の中人手不足と聞いて、半年間のホームステイで温めた経験を、発揮しにまいりました。」

 職員は優しい口調で私に問いかけた。

 「ホームステイですか、立派な経歴をお持ちですね。どちらにホームステイされていたんですか。」

 「…実家です。」

 私がそういうと職員の表情は硬くなり、ほんの一瞬だけ苛立ちの色が滲んだように思えた。

 (なんだよ、ただのニートじゃねーか。ここに来るのはろくでもない奴ばかりだ。まともな経歴がないと、紹介する求人に困るんだよ。)

 職員は硬くなっていた表情を戻し、普通の表情で私に求人を紹介した。

 「それではこちらの求人はいかがですか?」

私は目をキラキラ光らせながら求人を見た。

 「雇用形態:正社員、基本給:174,356円、昇給賞与あり…だけど前年実績なし、か…」

 私は不安そうに職員を見上げた。

 「休日数はどうなっているんですか?週休3日ならギリ耐えられるんですが…」

 職員は、パソコン画面をこちらに見せた。

 「こちらでございます。」

 「53日!?153日の間違いじゃないですか?」

 職員は淡々とした声で言った。

 「いいえ、53日です。」

 私はほかに求人票に書いてある内容を確認した。

 「休日:日曜のみで週休2日制なし、退職金は…5年以上の勤続でありなのか」

 「こちらの求人、いかがですか?」

 私は苛立ちを隠せず、声を荒げて職員に言った。

 「いかがですか、じゃないですよ。人に勧めたらダメな求人です。」

 「もしこの会社で働くんだったら、刑務所に入ったほうがマシですよ。」

 職員は深いため息をついた。

 「地方ではこのような求人がざらにあります。だって資格とか経歴とかろくにないんでしょ?」

 私は食い下がった。

 「資格とか経歴がどうとかの問題ではないんです。この求人、最低賃金守れています?」

 私がそう言うと職員は、電卓を出し計算した。

 「…計算するとギリギリセーフです。」

 「休日出勤やサビ残を含めたら割るやつですね。犯罪ですよ。」

 その瞬間、職員の表情はこわばり、心の声がこちらにひしひしと伝わってきた。

 (確かに言われてみれば…マジでやばい求人だな。生活保護の方がまだマシだな…)

 職員は表情を戻し、また別の求人を紹介した。

 「承知しました。こちらはいかがですか。」

 「頼みますよ。生活保護の方がマシだと思う求人はやめてください。」

 「こちら、とび職の求人となっております。」

 「最近では、17時に帰宅する職人さんもいるみたいですよ。」

 「基本給:292,800円、昇給賞与はなし…だが年収は余裕で300万を超える。」

 「休日数はどうなんですか?」

 職員は、パソコンの画面をこちらに見せた。

 「こちらでございます。」

 「72日!?肉体労働で休み72日って経営者は鬼ですか?デビルマンにでもなって悪魔の力を身につけたんですか?」

 「おまけに退職金もなし。」

 「昇給、賞与、退職金なし。ブラック企業のトリプル役満じゃないですか!」

 「こんなの、藤井聡太に詰められているのと同じくらい、逃げ場のない圧力を感じます。」

 そう言うと職員は再びパソコンを操作し、別の求人を紹介した。

 「こちらはいかがですか?」

 「基本給:187,776円、昇給賞与は一応あり…か。」

 私は不安そうな感じで職員に質問した。

 「休日数はいかがですか?」

 職員はパソコンをこちらに向けた。

 「年間休日52日となっております。」

 私は驚きを隠せず、声を漏らした。

 「52日!?1年のうち313日も働くの!?しかも休憩時間90分だから最低賃金をクリアしている…」

 「いかがですか?」

 私は今日一番の苛立ちで職員に言い放った。

 「今日はもういいです!」

 そう言って私は家に帰宅した。

 「なんだよ、こんなのブラック企業の売り場じゃねーか、よく他人にワークをハローしてるな。」と怒りを交えながら鼻で笑った。

 何としても仕事に就きたい私は、次の日もハローワークに行った。

 「本日はどうなさいましたか?」

 昨日と同じ職員であった。

 「何が何でもいいので仕事を紹介してください。」

 そう言うと職員は、表情を変えずパソコンを操作し、求人を出した。

 「承知しました。それではこちらの求人はいかがですか?」

 「基本給:350,000円、昇給賞与あり…!」

 「休日数はいかがですか?さすがに粉微塵になっていませんよね?」

 職員はパソコンをこちらに向け直した。

 「年休125日、有給10日、残業は月10時間のアフター5となっております。」

 昨日とは違う求人を見せられた私は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

 「ハロワにも優良企業があったんですね。こちらの会社を受けさせてください。」

 「承知しました。それでは、こちらの紹介状をお持ちになって面接へ行ってください。」

 その後、私は採用をもらい、半年ぶりに社会に出ることができた。

 「今日からこの会社で一緒に働くことになった山田君だ。契約社員としてのスタートだが、3年後の正社員登用に向けて頑張ってくれ。」

 私は何か聞き間違いがあったような気がした。

 「あれ?契約社員って聞こえたのは気のせいかな?」

 私は不安になり、上司に確認をした。

 「すみません。求人票には正社員と書いてあったんですが…」

 「あれは嘘だ。とりあえず3年後に向けて頑張ってくれ」

 「入社初日に3年後に向けて頑張れって…ウルトラマンに3分後に頑張れって言ってるのと同じじゃないですか。」

 入社して2週間がたった

 (毎日毎日残業している気がする。何が月10時間だよ、実際は月100時間じゃないか!)

 終業前、上司がみんなに向かって言った。

 「明日、みんな出勤な。」

 (明日出勤って土曜日じゃねーか。年休125日も嘘じゃねーか。)

 さらに2週間後、念願の給料日であった。

 「入社していきなり100時間残業したからな、時給1,500円だったら150,000円、1,000円でも100,000円のバフがかかる。これは社会に出た甲斐があっただろ!」

 私は、ワクワクしながらネット通帳を確認した。

 「165,000円!?どういうこと!?350,000円スタートじゃないの!?」

 翌日、私は上司に確認を取った。

 「すみません。給料が165,000円しか振り込まれていませんでした。」

 上司は少し面倒くさそうに言った。

 「契約社員の間は時給制になっているんだよ。」

 「それでは残業代はどうなっているんですか?私、先月100時間残業しました。」

 「残業代はあらかじめ固定残業代として含まれている。」

 「ほら、ここを見ろ。」

 そう言いながら、上司は求人票のコピーを突きつけた。

 そこに書いてあったのは――固定残業代45時間分込みで350,000円、固定残業代を除くと約300,000円となっていた。

 「すみません。毎週土曜日出勤なんですけど、いつになったら土曜日が休みになるんですか?」

 「うちには土曜日という概念は存在しないな。これがうちのカレンダーだ。」

 そこには、今の時代では考えられないカレンダーが載っていた。

 「月月火水木金日。」

 「しっかり土曜日がなくなっている…」

 さらに上司は追い打ちをかけるように言った。

 「ちなみに日曜日が振替出勤の場合はこうなる。」

 「月月火水木金金。」

 (休みは週1を死守している。今時週休1日、年間休日48日の会社なんてブラック企業以上の存在だろ…!)

 その後、私は条件が違うとの理由で数か月で退職した。

 数日後、私はハローワークに向かった。

 その途中、私は怒りを交えながら呟いた。

 (どうして経歴詐称は捕まるのに、求人詐欺は許されるんだよ!求人詐欺も何かしらの形で処分されるべきだぞ!)

 「本日はどうなさいましたか?」

 窓口に立っていたのは、前とは違う、40歳ぐらいの職員であった。

 「どうしたじゃないですよ!ここで紹介してもらった求人がとんでもないブラック企業だったんです!少し黒いどころじゃなく、混じりっ気のない漆黒のブラックでした。あなたたちはいいですね、公務員で安定した給料があって、私なんか…」

 思わず不満をぶちまけた瞬間、職員は口を開いた。

 「…非正規」

 呆然としたまま見つめる私に、職員は続けた。

 「前線で職を紹介している職員はほとんどが非正規です。手取り14万の死なぬ程度にギリギリで飼われている派遣社員です。」

「ワークにハローできないのに、他人にハローワークでワークにハローさせています。」

 職員の言葉に私は驚きを隠せなかった。さらに職員は続けて言った。

 「私たち職員にはノルマが存在します。それを達成しなかったら地方へ左遷されてしまいます。」

 職員の言葉には、怒りと悲しみが混ざっていた。

 「どうしてノルマ達成しなかったら左遷されるんですか?」

 私が問いかけると、職員は小さくため息をついた。

 「職員は、国から『有効求人倍率を上げろ』って言われているんです。だからブラック企業でも関係なく求人票を出すように、頭を下げています。つまり、私たちは国と企業に弱みをニギニギコハクンチョスされているんです。要するに、弱みを握られているこということですよ。」

 職員の闇を聞いた私は、職員に謝った。

 「先ほどはあなたたちのことを何も知らず、公務員だからうらやましいと思ってすみませんでした。」

 職員は優しく私に言った。

 「いいんですよ。世の中のほとんどの人は、公務員ってそんなに楽だと思っているんです。だからあなたは悪くないんです。」

 職員は静かに続けた。

 「私はあなたと比べて人生は長くありません。どうか頑張って職を見つけてください。」

 私はその言葉に心を打たれ、深く頷いた。

 「ありがとうございます。早く職を見つけれるように頑張ります。」

 私はもう一度ゼロからスタートを切ろうと決意した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代社会の闇~消え去った春~ 高鶴千尋 @atl22kpl1tk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ