夏デート、迷走中

カイ

結論は日常に帰る

 とある休日の昼下がり。

 昼食を食べ終えたあと、ソファーに座った俺の太ももを後輩が枕として占拠するという、典型的な自堕落スタイルで過ごしていた時のことだ。

 付けっぱなしにしていたテレビに映るキャスターが話したことが全てのきっかけだった。


『街にいるカップル百組に聞いてみました! 夏は海派? 山派?』


「私海派」

「俺山派」


 俺と後輩、同時に呟いて見事に激突。

 後輩は上目遣いで俺に問いかける。


「先輩ホワイ?」

「昔海で溺れかけてな」


 まだ子供の頃の話だ。海で遊んでいた時にうっかり掴んでいた浮き輪を離してしまったのだ。あれ以来、海には積極的に行きたくなくなった。泳げないしな。


「すいません」

「そこまで深刻じゃないから大丈夫だ。ただ苦手なのは確かだ」

「でも初デートは海に連れてってくれたのに」

「あれは海に入ってないじゃん。海辺歩くのは良いけど泳ぐのは無理。

 夏の海で泳がないのは地獄だろ?」

「地獄っすね」


 今度は俺が尋ねてみる。


「おまえは?」

「実は昔、家族でキャンプに行った時に山で蜂に刺されてですね」

「マジか。そりゃ災難だったな」

「オマケにヒルにもやられて泣いて下山したんっすよ」

「そりゃ山は無理だな。スマン」

「うっす。山に行かなければ問題ないっす」


 しかし思わぬ問題が発覚したな。


「ってか、そうなると、俺達夏にどこにも行けないじゃないか」

「遊び場所無いっすね。どーしましょーか?」


 お互いに唸って考える。そして、これはイマイチかなと思いついたことを口に出してみた。


「川でキャンプとか?」

「それって山寄りでは?」

「俺の感覚では海寄りだった」

「えー絶対に山っすよ」

「そうかね?」

「そうっす」


 川は山らしい。山なのか………水あるのに。


「となると………やばいな。全然思いつかん」

「海と山行けないって、とんでもないハンデなんっすね」

「だな。日本って狭いんだな」

「っすね」


 おのれ日本国土。俺達をどこにも行かせないとは卑怯なり。

 その後も頭をフル回転させたが、情けないことに出てきた答えはこれだった。


「………クーラーの効いた部屋とか?」

「いきなりなんすか」

「なんも思いつかなくて」

「そこはほら………あ、テーマパークとか!」


 良いこと思いついた! とばかりにパッと顔を輝かせた。

 しかし、それに対しては物申したい。


「俺はむしろ、オフシーズンで行ってゆったり楽しみたいな。この夏の炎天下で行列に並ぶのは避けたい」

「………オフシーズンのほうが良いっすね」

「だろ?」

「っす」


 よくよく考えたら熱すぎるから夏に大型連休があるのだ。外で遊ぶのは適さない気がしてきた。


「………やっぱりクーラーの効いた部屋か?」

「甲斐性のない彼氏っすね」

「なら他の意見は?」

「あー………プールとか?」


 そう言えばそれも定番だな。

 だけど、俺としては泳げないこともそうだが、もう一つ避けたいことがある。


「………泳げないし、水着を人に見せるのもやだ」

「足がつくプールで歩くだけで良いし、水着でそんな恥ずかしがることなくないっすか?」


 あー! もー! こんな事言いたくねぇ!


「………お前を誰かに見せたくないんだよ」

「………っす」


 二人して顔を赤くして蹲る。

 あーもう。あーもう。


 だが結論は出たのでまとめよう。

 わざとらしく咳払いをして後輩に告げる。


「というわけで部屋でクーラーな」

「かいしょーなしーおーぼーせきにんとれー」


 酷い言い草だが、だいたい俺のせいなので仕方ない。


「わかった。可能な限りもてなそう。さしあたって夕飯は何が良い?」

「うーん………パスタ」

「あいよ」


 後輩の頭を俺の太ももから持ち上げて立ち上がる。

 「私のまくらー」という抗議の声が聞こえてきたが無視して戸棚を開ける。

 そこで備蓄を確認したのだが。


「パスタ切らしたな」


 見事にパスタだけ無かった。ご飯と素麺はあるのに。


「買い出し行ってくるわ」

「わかりました。準備します」


 よっこいしょっと後輩が立ち上がった。


「俺一人でも良いぞ?」

「デートくらいはしたいじゃないっすか」


 甲斐性なしですまないねぇ。


「………まあ、そうか。手を繋ぐか?」

「っす!」


 外は炎天下。雨が降っていたのか、じっとりと嫌な湿気に包まれていた。

 互いに熱いねー、熱いっすねー、なんて蒸し暑さに文句を言い合いながらも、手を離さず歩く俺たちはもう重症だなと思った。

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夏デート、迷走中 カイ @kai_20059

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