第4章:眠る街を越えて
気づけば、自分はまた違う場所に立っていた。
地元を離れ、これまでの交友関係が自然と途切れたとき、
自分という輪郭もどこか薄れていた。
新しい街、新しい制服、新しい空気。
すべてがまっさらで、怖さも寂しさもあったけれど――
それよりも先に感じたのは、**「自由」**だった。
誰も自分を知らない場所で、
自分は誰にでもなれるような気がした。
それは初めて、自分の手で選べる人生の分岐点だった。
そのときに出会ったのが、これまでの自分とは少し違うタイプの友人たち。
少しだけやんちゃで、だけど不思議と気が合って、笑いのツボも、沈黙の心地よさも、なにもかもが自然だった。
放課後、夜の街に集まって、くだらない話をして、気づけば自然と、彼らといる時間が一番居心地のいいものになっていた。
ある日、僕たちはバイクで街を走った。
誰もいない交差点、眠った家々の明かり、遠くに揺れる信号の灯。
風を切る音とエンジンの振動が、胸の奥を震わせた。
街灯の下をすり抜けながら走るその感覚は、
まるでこの宇宙を駆ける彗星のようだった。
目的地なんてなかった。
ただ走って、夜を割って、どこか知らない場所へ向かっていた。
それだけのことが、どうしようもなく楽しかった。
誰とも言葉を交わさずとも、横に並んで走る仲間の存在が
まるで並走する小さな舟のように思えた。
バラバラの存在だったはずの人間たちが、
まるで同じリズムで漂っているような、不思議な感覚。
そのとき、自分の中にあった“他者との隔たり”が、少しだけ薄くなっているのを感じた。
孤独じゃなかったわけじゃない。
でも、あの夜の風の中では、
それすら幻想だったんじゃないかと思えるほどだった。
そして、忘れられない夜がある。
友達の家に泊まり、ひとつ屋根の下で眠った。
狭い布団を分け合って、意味もない話をだらだら続けて、気づけば朝になっていた。
笑い声と静けさが交互にやってきて、
眠る前のほんの数分、誰もしゃべらなくなったその空白が、なぜかいちばん、心に残っている。
また別の日には、思いつきで遠くへ出かけた。
行ったことのない街、初めて乗る電車、知らない看板の並ぶ駅前。
目的なんてなかった。
でも、行き先のない旅ほど、心を解き放つものはなかった。
他人と同じ時間を過ごすだけで、
こんなにも心がやわらぐんだって、
そのとき初めて、ちゃんとわかった気がした。
あの頃、自分は誰かと世界を分かち合えるということを知った。
静かな夜の街でも、知らない遠くの駅でも、
誰かのそばにいるだけで、“自分はここにいていい”と思えた。
たぶんあれが、孤独から一歩だけ抜け出した夜だったんだと思う。
そして――
あの頃できた友人たちとは、今でもつながっている。
環境も仕事も違って、会う機会は減ったけれど、
どこか同じ空の下にいるような、そんな距離感のまま、今も続いている。
多くの人とは舟が別れていったけれど、
彼らとはいまだに同じ銀河のどこかにいる。
そう思えるだけで、自分という存在が少しだけ確かになる。
あの頃、自由という名前の星を見つけた。
その光はいまでも、胸のどこかに残っている。
この旅路に、名も知らぬ乗客たちと シロツメ @shirotsume
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