雨の日の帰り道

春川楓

第1話

朝から降っていた雨は、学校が終わる時間になってもやむことはなかった。


どうしよう…傘、持ってきてないのに。


今朝、家を出る時は晴れていたので、傘を持ってくるのを忘れてしまった。


折りたたみ傘も持っていない。


「加賀見《かがみ》?どうかした?」


聞き覚えのある声がして、私は後ろを振り向いた。


美術部の先輩の間宮まみや先輩だ。


「あ、もしかして傘忘れたのか?」


「はい…」


私は小さい声で答えた。


「待っててもやみそうにないし、一緒に入ってく?」


「え⁉︎」


思っても見ない提案に私は思わず大きい声が出てしまった。


私は慌てて口を塞ぎ、誰かに聞かれてないか周りを見渡した。


周りには何人かの生徒がいた。


幸い、こちらを気にしている人はいなかった。


安心して胸を撫で下ろした。


「大丈夫?」


先輩がどうしたのかというように聞いてきた。


「いえ、なんでもありません」


「そう?じゃあ、早く入って」


結局、断りきれずに傘に入ることになった。



「しっかしすごい雨だよなー。梅雨だから仕方ないけど」


先輩の肩が、私の肩に触れそうになる。


私が少し離れようとすると、


「もっとこっち寄らないと濡れるぞ」


先輩に肩を抱き寄せられた。


距離が一気に近くなった。


心臓がうるさくなった。


「加賀見、ここから先のバス停に乗るんだよな?」


「え、はい。そうです」


緊張で焦ってしまった。


「だったらもうすぐ来るぞ。走った方がいいな」


先輩はそういうと、私の手を掴んで走り出した。


ちょうどバス停のところにバスが止まっていた。


なんとか間に合ってバスに乗り込んだ。


「じゃあまた明日」


先輩はそういうと、歩いて行ってしまった。


私の手には、まだ先輩の手の温もりが残っていた。

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雨の日の帰り道 春川楓 @harukawa200

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