第34話 先輩
「はぁ……マジでヤバいかも」
校舎の一番奥、静寂に包まれた図書室。その一角で俺は頭を抱えていた。 机に広げた問題集と、ペンのインクのにじんだノート。どこからどう解いても、答えにたどり着かない。
……というか、そもそもどこから手をつければいいかもわからない。
(夏希に監視されると集中できないし……家だと誘惑多すぎるし……)
結局、たどり着いたのはここだった。 放課後の図書室。人の気配も少なくて、静かで、1人で勉強するにはもってこいの場所。 ……のはずだった。
「そこ、式の展開ミスしてるよ」
「……へっ?」
後ろから聞こえた声に、思わず背筋が跳ねた。 驚いて振り返ると、そこには――見知らぬ女子生徒が立っていた。
白いカーディガンに膝丈のスカート。腰まで届く黒髪をふんわりまとめ、丸縁の眼鏡をかけた彼女は、どこか儚げな雰囲気をまとっていた。
「あ……えっと……誰……?」
「あ、ごめん。驚いたよね。私は三谷原 灯。図書委員なんだ」
ふわりと笑って彼女は名乗った。
「君はあんまり見ない顔だね、図書室にはあんまり来ないの?」
「そうですね、、今日初めて勉強しに来たくらいですから」
「ああ、そうなんですか」
俺が戸惑っている間にも、彼女の視線はノートの上をなぞっていた。
「この問題、ここで符号間違えてるから、そっから先が全部ずれちゃってるの。ほら、こうやって」
すらすらと、別の紙に正しい解き方を書いていく。 その流れるような筆運びと、わかりやすい説明に思わず感心してしまった。
「……すごい。めちゃくちゃわかりやすいです」
「よかった。人に教えるの、苦手だからちょっと不安だったんだけど」
「え、全然そんなふうに見えないですけど……」
「そう? ありがとう」
彼女はにこっと微笑んだ。 なんだろう、この感じ――優しくて、ちょっとおっとりしてて…… (……どこか、中学の頃の夏希に似てるかも)
「よかったら、テスト期間中だけでも勉強見てあげようか?」
「えっ、いいんですか?」
「うん。……きみ、かなり苦戦してるみたいだし」
「否定できないですね」
「ふふっ」
彼女の笑い声は、図書室の静けさにやさしく溶けていった。
「じゃあ、テスト期間中だけ、ここに来た時は私に頼ってよ」
「いやいや、先輩にも悪いですし、それにあんまり知らない後輩にするもんじゃないですよ」
「そうだったね、君の名前を聞いてなかった」
(この人天然なのか、、?)
「俺の名前は綾井冬馬です」
「わかった冬馬君ね、じゃあ、もし、勉強が捗らない時があったら、ぜひここにおいで、私が手伝うよ」
そう言われて俺はそのご好意を頼ることにした。
それから俺は放課後の図書館に行くことが増えた。
「ねえ、冬馬、最近図書館によく行ってるけど、何してるの?」
「いや、最近先輩に勉強教えてもらってるんだよね」
「へ〜先輩にか〜それって男子?」
「いや、女子の先輩だな」
「へっ、、へ〜、僕も今日ついていっていいかな?」
「えっ別にいいけど、、陽菜って頭よかったよな」
「そうだけど、行ってみたいの」
そう言って俺は放課後に図書室に陽菜を連れて向かった。
君と描くを超えて ソウタ @Youta922
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