第12話 見習い道士は誉められる

「おお、一人倒したぞ」

「今だ! そいつらを囲め!」


 試験官達が集まってきて、外道士達を囲んだ。


「キョンシーどもを操っているのはコイツらだ。コイツらさえ倒せば、キョンシーも止まる!」


 さすが試験官を勤めるだけの道士達、ちゃんと勝ち筋は考えてある。


 私達が劣勢なのは、キョンシーの数によるもの。

 正面からぶつかったんじゃ、勝ち目がない。

 だけど操っているの術者を倒せば、キョンシーも使い物にならなくなる。

 狙うならキョンシーではなく術者。

 そのはずなんだけど……。


「……ねえハオラン、なんだか妙じゃない?」

「ええ、俺もそう思います」


 さっきも言ったけど、キョンシー達からは生きた人間の気を感じられないの。

 外道士の中の誰かが操っているのなら、キョンシーの中に少なからず生きた人間の気があるはずなのに。


 さっきハオランと契約して、改めて思った。

 やっぱり何かがおかしい。

 考えてみたら、キョンシーを操ってるのが外道士なら、隠れて戦わせてればいいのに。

 まるで自分達の存在を見せつけるように、彼らは私たちの前に現れている。


 もっと広い目で、周りを見よう。

 先入観に捕らわれないで、しっかりと。

 たった今契約したばかりの私とハオランなら、気の流れに敏感になってる。

 おかしな所はないか、よく見るんだ……。


「──はっ! シャオメイ様あれ!」

「うん、私も感じたわ!」


 ハオランも私も、そろって同じ方を見る。

 間違いない、アレだ!


 道士達の意識が完全に外道士達に行っている今、きっとアレに気づいたのは私とハオランだけ。

 私は外道士を無視して、暴れているキョンシー軍団の方に御札をかざした。


「雷帝召来!」


 放たれた渾身の雷。

 広範囲に届くのではなく、一点だけを狙った小規模の、だけどその分威力増し増しの強力な術だ。

 暴れまわっている中の、一体のキョンシーめがけて雷は飛んでいく。

 が……。


「……障壁」


 狙っていたキョンシーが手をかざした瞬間、真っ黒な気の壁が雷を防いだ。


 失敗した!?

 けど通常のキョンシーはこんな、気の壁なんて作ることはない。

 ということは、やっぱり私達の読みは当たっていたんだ。


 するとそのキョンシーは、ゆっくりと私達を見る。


「我を狙ってくるとハ。小娘、やるではないカ」


 今ハッキリと喋った!

 周りにいた人達もこれに気づいて、キョンシーに注目する。

 術を使って、喋るキョンシー。

 いったい何者……。


「ば、バカな……」


 初老の試験官の男性が、驚いたように声を漏らした。

 震える手で、件のキョンシーを指差しながら叫ぶ。


「なぜお前がここにいる、ドウアン!」


 ドウアンですって?

 それって外道士達の長だったって言う、あのドウアン!?

 けど聞いた話だと、国に反旗を翻して死んだはず。

 外道士達だって、それを否定しなかったのに……まさか!?


「……アナタ、キョンシーとして、蘇ったの?」

「クク……聡明な小娘ダ。左様、我がナはドウアン。外法の術によりキョンシーとしテ、黄泉の国より舞い戻りし者ダ」


 ……やっぱり。

 気を探った時、彼だけ他のキョンシーよりも、大きな気をまとっていたの。

 上手く隠していて気を付けなきゃわからなかったけど、一度気づいたらその大きさは明らかに異質だった。

 ドウアンは他の道士には目もくれずに、私を見据える。


「小娘ヨ、よく我に気づいたナ」

「……暴れているキョンシーからは、生きた人間の気が感じられなかったわ。けど、術で操られているのは確か。だったら生きた人間じゃなくて、死んだ人間が操ってるんじゃないかって思ったのよ。普通ならそんなことあり得ないけど、外道士の術ならそれも可能かもしれないし」

「それで我が、キョンシーの中にいルとわかったのカ。賢いじゃないカ。我はもしもの時のことを考えテ、生前自らの体に術を施しタ。もしも命を落とすようなことがあってモ、自我と記憶を持ったキョンシーとして蘇るようにナ」


 クククと笑うドウアン。

 突拍子もない考えだったけど、当たってたみたい。

 死んでも自我と記憶を持ったキョンシーになって戻ってくるなんて、どんな反則技よ。

 ハオランだって、生前の記憶はほとんど残ってないってのに。


「他の外道士達を囮にして、お前は隠れてキョンシーを操っていたというわけか」


 ハオランが言う。

 言葉にしてみると、極めて単純な作戦。

 私たちがいなくても、いずれは誰かこのからくりに気づいただろう。


 だけど先に外道士達を相手に戦って、気づいた時には気も体力も消耗していたら、詰んでいたかも。

 きっとそういう狙いだったのだろう。

 早く気づけてよかった。


「さて、我らの邪魔をした小娘ヨ。名をなんと言ウ?」

「道士見習いのシャオメイよ!」

「ちょ、シャオメイ様。あのような相手に素性を言うのは……」


 慌てた様子のハオラン。

 そういえばそうだった。


 けど言っちゃったもんは仕方ないし、素性を知られようがここで取っ捕まえたら大丈夫でしょ。

 するとドウアンは、笑いながらパンパンと手を叩く。


「シャオメイ。術もなかなカ、それにこちらの手を見破ったのも見事ダ。誉めて使わス」

「……ありがとう。アナタに誉められても、嬉しくないけどね」

「そう言うな。見破った褒美ダ。どうダ、我々と一緒に来ないカ?」

「…………はい?」

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