第13話 見習い道士はよくやった

 敵からの思わぬ申し出に、言葉を失う。

 だけどドウアンは、構わず続けてくる。


「お前は見かけによらず賢イ。それに術者としての筋もいイ。お前なラ、我と共に来るに値すル」


 遠回しに、アホそうな見た目って言いたいのかな?

 けど、突っ込むべきはそこじゃない。

 私に、仲間になれって言ってるの? こんな外道連中と?


「我々は外道士等と呼ばれているガ、そもそも道士の扱いがおかしいとは思わぬカ? 優れた力を持っていながラ、やれ秩序のため決まりのためなどと言っテ、その力を使うことを制限されていル。こんな世を壊しテ、自由を手にしようじゃないカ。そうすれバ、お前の望むもの全てが手に入ル」


 鋭い目を向けながら、誘ってくるドウアン。

 確かに彼の言う通り、道士は強力な力を持っていながら、その使用は厳しく制限されている。

 やれ掟だ、やれ秩序だ。

 そんな風に口うるさく言われるのを、窮屈だって思ったことがないわけじゃない。


 だけど、だけどさあ……。


「アナタと一緒に行くですって? 冗談じゃないわよ!」


 鋭い眼光に臆することなく、キッパリと言い放つ。

 お母さんだってユイさんだって、そんな窮屈な中で道士としてやっていったんだ。

 私だって、道を踏み外したりなんてしない。

 そして何より……。


「アナタと一緒に行った先に、私の欲しいものはないわ。だから行かない!」

「ほウ。我が誘いを断っテ、何を欲しがル?」

「決まってるでしょ、好きな人よ!」

「フっ……なにかと思えばそんなものとはナ」

「そんなものとはなによ! アナタの価値観を、私に押し付けないで!」

「我を拒むカ。なら残念だガ……」


 御札をかざすドウアン……マズイ!

 私も瞬時に、御札をかざした。


「雷帝召来!」

「雷帝召来!」


 私とドウアン、二人の放った雷撃がぶつかり合う。

 負けない……私はまだ道士になれていないし、ハオランに好きって言ってない。

 こんなところで、負けてたまるもんかー!


 拮抗した力が、大気を震わせる。

 けど…………押しきられた!


「きゃあっ!?」

「シャオメイ様!」


 ふっ飛んだ私を、ハオランの力強い手が受け止める。

 へ、平気。ちょっとビリビリしてるだけだから。


 ハオランの腕に抱かれながらドウアンを見ると、向こうも無傷ではなかったみたいで、腕に焦げ跡ができている。


「見習いにしてはやるじゃないカ。術に迷いがなく素直ダ」


 素直?

 まさか苦手としてたことを、敵にほめられるなんて。


 けど残念ながら、私は今のでほとんどの気を使ってしまった。

 これ以上戦うのは難しい。

 けど……。


「よくやった。後は我々に任せろ」

「覚悟しろドウアン!」


 試験官の道士達が、ドウアンを取り囲む。

 ドウアンがどれほどの実力者だったかは知らないけど、試験官達も相当。

 まともにぶつかれば、勝機はある。

 向こうもそれが分かってるからこそ、大量のキョンシーを従えて、策を弄したんだ。

 いかに危険な外道士だろうと、これなら……。


 だけどドウアンはまるで興味がなさそうに、肩をすくめた。


「数でなんとかなると思われるのは癪だガ、これ以上戦っても仕方ないナ。お前達、引くゾ」

「え、ドウアン様?」


 これから激しい戦いが始まるかと思ったのに、まさかの撤退宣言。

 ドウアンは、困惑する仲間達に言う。


「そこの小娘のせいデ、思ったより早くカラクリがバレてしまったからナ。無理をして戦いを続けることはなイ。また策を練って出直せばいいサ」

「そういうことなら。皆の者、行くぞ!」


 外道士の一人が、合図を送る。

 道士達はもちろん逃がすまいと、距離を詰めようとしたけど。


 次の瞬間、ドウアンや外道士達が黒い煙に包まれた。


「うお、何だこれは?」

「ふはハ、いずれまた会おうじゃないカ、道士達ヨ!」


 不気味な笑い声を残して、煙に包まれるドウアン。

 そして煙が晴れた時には、ドウアンも他の外道士も、それにあんなにたくさんいたはずのキョンシー軍団も、いつの間にかキレイさっぱりいなくなっていた。


「くそ、逃げたぞ!」

「まだ近くにいるかもしれない。探せ!」


 道士達は慌ててドウアンの後を追おうとしてるけど、私はなんとなく見つからないだろうなって気がした。

 まあ見つかったところで、私にはもう戦うだけの力は残っていないんだけど。


「負けちゃったなあ……」

「何を言っているんですか。犠牲を出すことなく、外道士達を退けられたのです。立派でしたよ」


 満身創痍の私を、労ってくれるハオラン。

 ありがとう。

 だけどすっごく疲れたよ。


 もう立っているのもやっとで、ハオランにもたれかかる。


「シャオメイ様……いけない、すぐに医務室に運ばないと」

「ひゃあっ!?」


 ぐったりしていた私を、ハオランが横抱きにしてきた。

 ひゃ、ひゃう~っ!


「ハ、ハオラン。私は平気だから、下ろして~」

「暴れる元気もないのに、何を言っているのですか。このまま医務室に運びます。いいですね」

「……はい」


 実際気も体力もかなり消耗しているし、素直に従うことにする。

 それに抱かれているとハオランを間近で感じられて、心地よかった。


「ハオラン……私、ハオランがいてくれてよかった」

「俺もです……俺と契約してくださって、ありがとうございます、主様」


 お互いの目を見て、二人して微笑み合う。

 試験が中止になっちゃった事や、逃げた外道士の事が気にならないわけじゃないけど、それよりも今は……。


 冷たいはずなのに不思議と暖かい気がするハオランの腕の中で、私は大好きな彼のことを、深く感じていた。

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