第11話 見習い道士は契約する
苦しいのか、顔を歪ませるハオラン。
彼のこんな顔、私は見たことがなかった。
「ハオラン、しっかりして!」
「シャオメイ……様……」
ハオランの中にあったお母さんの気が、薄れていく。
そんな、お母さんの契約が破られるなんて!
いや、無理もないかも。
お母さんはもう何年も前に死んでいるんだもの。
いくら凄腕の道士だったとしても、ハオランと結んだ契約が弱くなっていて不思議はない。
どうしよう。このままじゃ、ハオランまで凶暴化しちゃう!
「ええい、この外道ども! お前達怯むな、コイツらさえ倒せば、キョンシーどもも止まるはずだ!」
「そうとも! 我々に続け!」
試験官達が前に立って、受験者がそれに続く。
戦いが再開されたけど、私はハオランにつきっきり。
このまま本当にハオランが凶暴化したら、他のキョンシーみたいに倒すしかない。
けど、そんなのは絶対にイヤ!
何か方法はないの?
するとその時、試験官の道士が私の横に立った。
「やむを得ん。そのキョンシー、今のうちに滅させてもらう」
「止めて! ハオランは私の家族なの!」
「だがこのままだと……コイツの契約者はいないのか? 契約をし直せば、外法に耐えうるかもしれん」
そうは言っても、契約者であるお母さんはもう亡くなってる。
このままハオランが操られるのを、指を加えて見ているしかないの?
ううん、それなら……。
「ハオラン!」
「シャオ……」
「ミーファンが娘、シャオメイが命ずる! 盟約の元、我と契りを結べ!」
印を結んで、御札を構える。
かつてお母さんがハオランを使役した時に使った、契約の術。
お母さんはもういないけど、だったら今度は私が、ハオランと契約すればいいんだ!
「お前、ソイツと契約する気か!?」
試験官が驚きの声を上げる。
無理もないよね。本当は一人前の道士でないと、キョンシーとの契約は結んじゃいけない決まりになっているんだもの。
けど今は緊急事態。お叱りも罰も後でちゃんと受ける。だから今は……。
「我そなたに、ハオランの名を与えん!」
契りを交わして、結ばれた契約の儀。
私の気が、ハオランに送り込まれる。
これで外道士の気をはねのけて私の契約キョンシーにすることができたら、ハオランは操られずにすむはず。
だけど……。
「うぁぁぁぁぁぁっ!」
「ハオラン!? そんな、どうしてダメなの!?」
ハオランは依然として、苦しそうに顔を歪ませている。
それを見た外道士の女性が、勝ち誇ったように笑う。
「あははははっ! 半人前のお嬢ちゃんでは、私の術は防げなかったみたいね!」
──っ!
悔しいことに、上手くいかなかった原因は私と彼女との実力の差。
ハオランに送り込まれたはずの私の気は、外道士の女性の気によって弾かれたんだ。
ハオランがこんなに苦しんでいるのに、何もできないなんて……。
愕然としているとハオランの口がパクパクと動く。
「シャオメイ……様……」
「ハオラン、大丈夫!?」
「俺を……滅してください。意識があるうちに、早く……」
「──っ!」
確かにこのままじゃ、ハオランは操られてしまう。
自分の意思なんて関係なしに誰かを襲い、傷つけでもしたら、たぶんそれは消えるよりも辛い。
そうなるくらいなら、いっそここで滅した方がいいのかもしれない。
だけど……だけどそんなの!
「イ……イヤにきまってるでしょーがー!」
「シャオメイ……様……」
「ハオランを滅したりなんてしない! 操られて誰かを襲わせもしない! コイツらをやっつけて、いっしょに家に帰るんだから!」
「はははっ、愚かなお嬢ちゃんねえ。そんなことできるわけ……」
「うるさい!」
外道士の女の笑い声をさえぎる。
ムチャを言ってるってわかってるけど、これが私の素直な気持ちなんだ!
それにまだ、手が全て尽きたわけじゃない。
ハオランと契約を結べないのは、気を送るのを邪魔されているから。
けどそれなら、別の方法で送ればいい。
昔お母さんが教えてくれたあの方法なら、もしかしたら……。
「絶対に諦めない……大好きな人を、諦めてたまるもんかー!」
私は正面からハオランの首の後ろに両手を回して、彼を抱き締める。
そのまま頭を押さえて……口づけを交わした。
「むぐっ!?」
(──冷たい)
死体特有の冷たさが、唇を通して伝わってくる。
生まれてはじめての口づけは、甘さも酸っぱさもない死の味。
だけどこれでいい。私はそんなハオランを、愛しているんだ。
私は唇から気を、ハオランの体内に送り込む。
「まさか、直接気を送っているの!?」
そう、その通り!
外道士の女性が気づいたけど、もう止まらない。
ハオランを侵食していた黒い気を、今度は私の気がはねのけていく。
今度こそ、契約を結ぶ。
ハオラン、私の契約キョンシーになって!
念じた瞬間、ハオランの中で私の気が弾けた!
「ハオラン!」
口づけを止めて、ハオランを見る。
彼はパチパチと瞬きをした後、ゆっくり私を見つめ返す。
「ハオラン、大丈夫? 気分悪くない?」
「はい……っ! シャオメイ様危ない!」
「えっ……きゃあっ!?」
ハオランに抱き寄せられて、今まで私の頭があった場所を、炎の玉が通り抜けていく。
外道士の女性が、術を放ったんだ。
「小娘が、私の術を防いだって? だったら、そこのキョンシーもろとも地獄に……ひぃっ!」
女が言い終わらないうちに、ハオランが駆けた。
それはまるで、風が吹き抜けたよう。
一気に距離を詰めたハオランは、外道士の女性の腹に掌底を打ち込んだ!
「せいやっ!」
「がっ!?」
それは一瞬の出来事。
外道士の女性は白目をむいて、ガクンと崩れ落ちる。
ハオランは力強く立ったまま、意識を失った彼女を見下ろした。
「シャオメイ様に……俺の主様に手を出すな」
威風堂々としたその姿に、こんな状況だというのに胸がドキドキしてくる。
今更だけど私、ハオランの主になったんだよね。
本当、大変な時に不謹慎なんだけどさ。
ハオランと特別な繋がりができたことが、嬉しくてたまらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます