えんたくまじょかいぎ!

あまがさ

第1夜 【この夏、涼しい魔女ルック】

 魔女――古くは薬学や化学に詳しい知識人をそう呼び、尊んでいた。


 だが次第に世界のうねりによって歪み、悪として淫蕩や埒外の行為に耽る忌むべき存在へと変わった彼女たち。


 そんな魔女たちに今再び、変化の時がやってきていた。


 今宵も魔女たちによる円卓会議が始まる――。


「というわけでぇ、今日の議題を発表しまぁす」


 間延びした声でにこにことホワイトボードの前に進み出たマルグリットは、手にしたレーザー式指示棒を魔法の杖のように振った。


「なーんかマルグリット司会だと、毎回仕事してる気分になるんだけど」


 長い黒髪を指でいじりながら、アインがぼやいた。


「あたしは会社ってか学校の講義かなあ…」


 頬杖をつきながら隣に座ったリリィベルが頷く。



 円卓……というと語弊がある、円形にした会議机を前に、その会議は某市民会館の一角で毎週金曜夜7時半から行われていた。


「そこ!私語しない!」


 マルグリットに指摘され、ひそひそと話していたふたりはビクッと肩を震わせた。


「はいはい、いいからちゃっちゃとはじめてよ。ここ8時までなんだから」


 そう本日最後の参加者である溝口安子(本名)が続きを促す。


「こほん。……そうね。では本日の議題は、こちらです」


 【この夏、魔女の正装を涼しく着こなすには】


 ホワイトボードにはそう、でかでかと書かれていた。



「それでは、こちらの資料をご覧ください」


「うげ」


 アインがカエルが潰れたような声をあげた。


 手渡されたコピー用紙の束には【第○回円卓魔女会議】と書かれている。


「勘弁してよー……。金曜夜になってまで仕事したくないよ〜」


「アイン……魔女と仕事の両立も大変だね……」


 べったりとつくえにつっぷしたアインの頭にに「飲む?」とエナジードリンクを乗せながらリリィベルが憐れみの視線をよこす。


「リリィは就活どうなの?」


「きかないでよ〜〜わすれたいの!」


「大変ねえ」


「えー、資料にあるように、現在日本での夏の平均気温は上昇の一途を辿り、魔女として黒いワンピースを正装にしている我々の死亡リスクが――」


 盛り上がる三人をよそにつらつらと喋り続けるマルグリット。


「というわけで、今夜の議題はどのように涼しく魔女の正装を着こなすか?ということになります」


 マルグリットがくるっと振り返ると、3人は最初から真剣に聞いていましたという表情でうんうんと頷いた。


「そうねえ。薄着っても限界あるしねえ」


「シースルーミニスカワンピにサンダルの魔女……ある意味斬新かも」


「いやあ、現実はこうでしょ」


 安子はごそごそとカバンから何かをとりだすと、着替えはじめた。


「そっ、それは……!!」


 安子の姿は、全身黒づくめの溶接工のようだった。


「「「夏場のお母さんルック!!」」」


「そう。焼けるというか、紫外線正直痛いからこれが一番楽」


 安子はそう言って日傘をぽん、と開いた。


「うええ…さすがにそれは魔女らしくないよう」


「じゃ、じゃあ魔女ハットをかぶれば?」


 リリィベルが安子に自分の魔女帽子を被せる。


「余計不審者度が増したんじゃないかしら」


 マルグリットの言葉にアインが同意する。


「遭遇したら都市伝説になりそう」


 

「じゃあ、はい!氷魔法で自分の周りだけ雪を降らすのは?」


 リリィベルの言葉にアインがじとっとした視線をよこす。


「それ一目で魔女バレするじゃん。どうすんの?近所の子供たちに『帰ったら雪だるま魔女の家前に集合な!』って待ち合わせ場所にされたら」


「やだ――――!!!!」


「やーい新待ち合わせスポット!」


「ぎいい!じゃあアインは!?意見ないの!?」


「えー……魔女バレしないでひんやりかあ……。あ!ジャックフロストやケルピーを呼び出して――」


「アイン、ニュース見てないのかしら? こないだジャックフロストが魔法ハラスメントされたって魔女相手に集団訴訟した話」


「えっ、まじで?」


「魔女ハラスメント講習、うけなおしなさいね」


 にっこりと笑顔の圧をかけるマルグリットに、アインは小さくなる。


「でも困ったわねえ。どうにもいい案が――」「あ」


 黒づくめのまま黙っていた安子が声を上げた。


「ちょっと会議中にスマホの使用は」


「ユ○クロでエ○リ○ムの黒ワンピがセールやってる」


「「「……それだ!!」」」



今宵も魔女たちの会議は踊る……


 

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