「私」の体験談をお聞きください

第1話

はじめまして。

私の話に興味を持って下さりありがとうございます。これからお話しさせていただくのは私が今まで生きてきた中で体験した話です。

といっても長生きした方が語るような歴史のあるもの、民俗学やオカルトの知識が深い方が語るような背筋が凍るような話ではございません。小説サイトでホラーを検索するような怖い話が大好きで仕方がないかたからすれば「なんだ、たいしたことはないじゃないか」とがっかりするような話、オチのない話でございます。

ここまで聞いていただいただけでも大変ありがたいことですのでここでこの場を離れ別の恐ろしい話をする方、書かれている方の小説を読みに行かれてもかまいません。

....

本当によろしいのですか?

っ、ありがとうございます。

なんと優しい方なのでしょうか。私が話す体験談を聞いて下さるなんて。これほど嬉しいことはありません。大抵は前置きであっさりとどこかへ行かれるので。いえ、決してその方達を責めるわけではないのですが、なんと言いますか毎回緊張しながらこの場にいるので話せないとなると心のどこかで安堵とまた話せなかったという残念な気持ちがぶつかり頭の中でぐるぐると言葉にできないもやができるのです。

あ、申し訳ない。余計なことを話しました。

ではではぜひ話させていただきたいと思います。

まずは私が小さい頃から、、、



俺はこの男の話を聞かなければ良かった

以前SNSで見たオカルト好きが時折集まって自慢の怖い話や奇妙な話を語り合う会を開いているというグループがあり、興味があれば誰でも参加できるということで早速申請を行った。するとすぐに参加可能になりその日から毎日のように様々な話を聞いていた。身の毛のよだつような恐ろしい話や奇妙な話は刺激のない現実を忘れられる貴重な時間であった。

この日もどんな話が聞けるだろうかと心を躍らせ「まもなく開始します」とコメントしているアカウントを見て回っているとあるアカウントが目に入った。

『「私」の体験談をお聞きください』

このグループは実際に起きた出来事等をアレンジしたり組み合わせたりした創作を語ることが目的だが体験談を語るのか。

確かに怖い話のジャンルとして有名であり、別に禁止事項として体験談を語ってはいけないことにはなっていない。だが場違いというか浮いているような気がしてならない。アイコンも眼鏡をかけた長髪の男が真顔で真正面を向いていて不気味である。興味を持ち参加を入力するとすでに5人ほど待機していてどんな話をするのだろうかといったことをコメントしていると「開始します」とコメントがあり語り手と思われる男が話し始めた。

男の言葉は話しなれていないことと緊張からかたどたどしさが感じられ、これには期待できないと次々と抜けていき最後に俺だけが残る。

俺も抜けて別のところに行こうかと考えていると、聞こうとしていると捉えたのか嬉しそうな声で感謝といままで話を聞いてもらえなかったと言った。流石にここで退出するのは可哀想だと良心が痛み最後まで聞いてやろうと退出するのはやめ「聞かせていただきます」とコメントした。

男は小さい頃から不思議なものが見えたこと、何かが見えてしまいここには行きたくないと親を困らせた等のよくあることを語り、最初に言っていたよう通りネットで検索すればもっと怖い話や奇妙な話はいくらでもあるようなものであった。だんだん飽きてきてウトウトとし始めたころ最後の話をさせていただきますという声が聞こえ、最後くらいはきちんと聞いてやろうと眠気を我慢し後でダメ出ししてやろうという気持ちで「期待してます」とコメントした。


これは私が高校生の頃の話です。

夜に集まって仲間内で怖い話をしようということで私の家に集まりテーブルを囲んで語り合いました。順番に幽霊の話やUFOがいて不思議なことが起きたといった話しをして私の番になり昔聞いた話を語りました。

「私が小さい頃に親から聞いた話です。親戚が亡くなり葬式をした後親族が集まる機会も少ないし写真を撮ろうということになったそうです。

葬式直後で悲しい気持ちであった皆も送り届けたあとは笑おうということで全員笑顔で写真を撮りました。その後現像した写真を見ようと集まれる人だけで集まり見てみると最初に見た叔母が悲鳴を上げました。なんだといいみなで写真をみると皆笑顔で写っている中で叔父だけが苦悶の顔をしていました。何かに首を絞められていたのです。その手はこの世のものとは思えず誰かが悪魔の手だといいこの写真はお焚き上げして処分しました。それから叔父は亡くなったそうです。原因は不明とのことでした。悪魔に連れて行かれたのでしょうか。」

語った後皆は一言も喋らず、顔を見て回ると怖そうな顔をしていて満足しました。

その時ふと奥の方にある窓を見てしまったのです。何かが窓からこちらを見ていました。

真っ白な顔で貼り付くように見ていたのです。

あまりの恐怖で固まってしまいました。

ですが気づかれてはいけないと思い必死で声を抑え窓を向かないようにしました。しばらくそうしていると他の人も話し終えそろそろお開きにするかという声で我にかえりました。

窓の方をみるとすでに何かはいなくなっていました。何か見なかったかと聞くとなんだそれと自分で怖い話して怖くなったんじゃないかと笑われました。それ以降は特に怖い出来事はなく普段と変わらない日々を送りました。

一年後、再び怖い話をしようということになりました。この頃にはすっかり何かのことは忘れていて皆を怖がらせることができたという成功体験だけを覚えていたため再び同じ話をしてしまうのです。

今度は家のブレーカーが落ちました。

突然の出来事に皆恐怖に包まれ私はショックで動くことができませんでした。

誰かがブレーカーを上げたのでしょう。家に再び明かりがつきました。誰かがいなくなっているということはありませんでした。増えていることもありませんでした。

何かとはなんだったのでしょうか。

この話はしてはいけないのでしょうか。

また何か起きるのでしょうか。

これで私の体験した話は終わりです。

ここまで話を聞いてくださりおつかれさまでした。


そこで男は退出した。

俺は聞いてまあまあ怖かったな、慣れてないにしては上出来だったしと思いつつその日は寝た。その日以降毎日グループを確認したが男のアカウントは見つからなかった。そして何かの視線を感じるような気がしてならない。

あの話に出てきた何かが俺を見ているのだろうか。あの男は誰かに押し付けたかったのだろうかそう思いながら「私」は開始ボタンを押す。


『「私」の体験談をお聞きください』



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