第2話『メリー·クリスマス ミスターローレンス』
地下広場に降りてみた。
ひっろい!
そして、エスカレーターを降りた右側にそれはあった。
ストリートピアノ。
ヤンチャそうな中学生くらいの男の子3人組が無理くり、鍵盤を叩いていた。
男の子たちと目が合う。
「あっ! お姉さん、弾きますよね!」
ホラ、も〜、ハイと3人組撤収。
ど〜ぞと席を譲られた。
そんな気なかったんだけどな。
しかたない。
天才ピアノ少女アカネの片鱗を見せてやるか!
黒いグランドピアノはヤマハ製。
白いペイントで楽譜のラインが描かれていて、『思い出ピアノ』と書かれている。
ピアノの前に座る。
男の子たちの視線を感じる。
ジャン、ジャン、ジャ〜ン♪
起立、気をつけ、礼を弾いてみると、その通り動いてくれた。
お! ノリがいいな!!
お姉さん、そんな子好きだぞ♡
では、まずは指慣らし。
『猫踏んじゃった』
まずは一通り、通常スピード。
そして、チョッパヤモードへ。
狂気のスピードでネコさんを踏みまくる。
弾き終えると、拍手喝采をいただいた。白いキャップの子は指笛で称えてくれた。
気分がノッてきた。
じゃ、もう一曲。
梅雨の晴れ間。この季節にはまるでそぐわない。そこがいいかなとこの曲をチョイス。
坂本龍一作曲。
『メリー·クリスマス ミスターローレンス』
静かな旋律を繊細に繊細に弾き始める。
そして、主旋律へ。
ピアノコンクールで行き詰まってたころ、ピアノを弾くのをやめて、ただ譜面と向き合った。
譜面を書いた作者、その時代背景。その曲の歴史を調べた。
すると、その曲の意味を理解できた。譜面を演奏するんじゃない。
その曲が語りたいことを理解して表現するんだ。
それに気づいたら、結果を出せた。
今弾いているこの曲。
映画のメインテーマとして書き下ろされた曲。
第二次世界大戦をテーマにした戦争映画でありながら、戦闘シーンは一切登場しない。
また回想シーン以外の出演者はすべて男性という異色の映画。
でも、戦争という行為。
それによって偏った人の思いが描かれていてた。
曲の終盤。
激しくじゃない。
慈しむように、慈しむように力強く弾く。
そして、最後は罪を忘れた人の優しさ、無邪気さを思い、そっとそっと指をそえる。
静かに、そして大勢の人の拍手。
それが徐々に大きくなっていく。
はっとして、辺りを見渡すとわたしの周りには大群衆がいた。
1番前で拍手喝采してくれるのはあの男の子たち。
割れんばかりの拍手の渦に巻き込まれた。
いつの間に、こんな集まっていたの!
はっず!!!
メッチャメチャ、はずかし。
あ、ども。
わたしは一礼して、その場から逃走した。
第3話へ続く🧳♪
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