なんかトラックに轢かれて異世界転生したら、世界を変える英雄になれそうです。
ZuRien
異世界転生
・10年前、日本某所
少年は進学する高校のことで、家族と少し揉めていた。
いつもであれば――まぁお前のことだから――と言って、両親の方から折れて話が終わるが、もう時期が時期なので、そんなことも言っていられない。
両親は、本気で少年を説得しようとした。
負けじと、少年も両親を説得しにかかる。
両者とも自分の言い分を通そうとするばかりで、とても建設的な話し合いとは言えなかった。
「もういい!僕は家を出る!」
ダイニングテーブルに、両の手のひらを勢い良く叩きつけると、少年は家の階段を駆け上がった。
少年は憤っていた。
「もうこんな家はうんざりだ!」
そして、3度目の家出を決意した。
少年は家出の用意をすべく一度自室に戻り、カバンに着替えと財布、半年前両親に頼み込んで契約したスマホを放り込む。
用意を済ませて、自室のドアを開く。
大いなる自由への一歩だ。
「お兄ちゃん?」
その一歩を、少年の妹が呆れた様子で眺めていた。
「お兄ちゃんまた家出するの?」
「そうだとも妹よ。お兄ちゃんは今から家出をする。追いかけてくるんじゃないぞ」
「家出って、人の家で一日泊まるだけでしょ?」
少年には家出をするとき、決まって行くところがある。
幼馴染の家だ。
幼馴染と少年は、お互い小さい頃から一緒で、半ば家族みたいな関係になっている。
「……そうだけどさ」
「ほらね、あんまり迷惑かけちゃダメだよ?」
「うるさいな」
少年はそう言って、階段を降りる。
「いってらっしゃーい」
妹は無邪気に言った。
少年は妹の声を耳から耳へ流しながら階段を降り、リビングから玄関へ向かう。
靴を履き、勢い良く玄関のドアを開く。
少年は、ついに家を出た。
そこからはいつもの道のりをたどるだけだ。
角を曲がり、大きな通りに出た後は、まっすぐ南に突っ切る。
そうすると見えてくる交差点を左に曲がれば、幼馴染の家だ。
少年はその道筋に従って、幼馴染の家に向かう。
しばらく歩いていると、交差点が見えてきた。
「あ……」
よく見ると、交差点には少年の幼馴染がいた。
赤信号を待っているようだ。
少年の足が少し早まる。
幼馴染はスマホを見ていて、まだ少年に気づいていない。
電柱3本分ほどあった2人の間隔が、じわじわ縮んでいく。
しかし、幼馴染に迫っていたのは少年だけではなかった。
交差点の向こう側から、トラックが走って来ていた。
少年はそれを見た瞬間、初めて“嫌な予感”を感じた。
このままじゃいけない。
無性に、そう思った。
少年は一目散に幼馴染の所へ向かう。
トラックが迫る。そのスピードは、最初よりも幾分速かった。
少年が信号を見る。赤色だ。
幼馴染が道路を渡り始める。
少年の足が、これまでにないくらい加速する。
そして少年は3本目の電柱に追いつき、幼馴染を捉えた。
向こうは、まだ少年に気付いていない。
それもそのはずだ。
幼馴染はイヤホンをしていた。
少年はすぐさま声をかけたが、幼馴染は気づかない。
もう、トラックはすぐそばまで近づいていた。
少年は覚悟を決めて、幼馴染の元へ駆け出した。
その覚悟が功を奏し、少年は幼馴染に追いつき、そのまま向かい側の歩道に突き飛ばした。
幼馴染の背中は、信じられないくらい簡単に離れていった。
「ドンッ」
それは一瞬だった。
少年とトラックが衝突した。
少年は、幼馴染の無事も確認できないまま、意識を失った。
・10年前 ティノラディス王国 禁足地
「あれ……」
少年が目を覚ます。
「俺、確かトラックに轢かれて……」
トラックに激突したはずの少年の体は、傷一つついていなかった。
少年は自分の体の無事を確認し、あたりを見回す。
「どこだよここ」
少年が目覚めたのは、初めて眺める草原だった。
近くに民家らしいものは見当たらない。
完全に一人だ。
少年はこの唐突に降りかかった現在に困惑した。
しかし、
一先ず助かったこの命に、少し安心していた。
「……よし」
少年は立ち上がり、この草原を歩き始めた。
歩いて、歩いて、歩いた。
変わり映えのない草原を歩き続ける少年の心は、次第に疲弊していった。
しばらく歩いていると、川を見つけた。
少年のすり減った精神に、この発見は正に神の恵みであった。
近くに寄ると、その川の透き通ったせせらぎが、よく分かった。
手で流れを掬って、顔まで近づける。
水のように透き通ったそれを、少年はこぼさないように啜った。
「――! げほっ、げほっ、なんだこれ、ホントに水かよ……」
少年はそれを啜った途端にむせてしまった。
どうやら少年の体に、ここの”みづ”は合わなかったようだ。
少年は、なんとかその苦しみを押さえ込んで再び立ち上がり、歩みを進めた。
体力は削られたが、喉は潤せた。
やがて辺りは暗くなり、空に星々がきらめき始めた。
幸い晴れていたので、少年は完全な暗闇に呑まれることなく、歩くことができた。
ぐぅ~~~~~~。
少年の腹が鳴る。
ひたすら歩き続けた少年の体力は、すでに限界を迎えていた。
もし、家出を決意していなかったら、今頃なにを食べていたのだろう。
もし、幼馴染を助けるのがあと一歩早ければ、何をして遊んだだろう。
もし、あの時むきにならず、自分をぐっとこらえていたら、どうだったろう。
少年の頭を、後悔が襲う。幼馴染、妹、母、父、姉――大切だと思った、大切にしなきゃいけなかった人たちの顔が、1人ずつ浮かんでくる。
真っ暗闇の中、少年は独りをかみしめた。
それでも構わず星は回り続けた。
やがて、夜が明ける。
少年は、あれから寝付くことが出来なかった。
あまりに辺りが開けているせいで、
一度足を止めると、ほとんど何も聞こえなくなるのだ。
そのためか、少年は辺りが明るくなり始めた頃には、もう歩き始めていた。
もう、体力は残っていない。
少年は足を引きずるようにして、歩いた。
歩いて、歩いて、歩いた。
――バタン。
少年は、充電を切らしたスマホのようにその場に伏した。
・10年前 ティノラディス王国 アル―リア領
少年が再び目を覚ますと、そこには天井があった。
自分の家かと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
ベッドから体を起こすと、足元で誰かが寝ていた。
「――うわぁ!!」
思わず、声を出してしまった。
その声に気付いたのか、足元の人物がゆっくり顔を上げる。
「……あぁ、起きか。おはよう少年。ようこそ我が家へ……ふぁ~あ……あ、腕あがんねぇや」
あくびをする彼は、気だるげに少年を歓迎した。
少年は直感的に、彼が自分をここまで運んでくれたのだと感じた。
「あの? あなたは……」彼は少年の顔を見る。
「そうだねぇ、ここの人たちには、管理人さんと呼ばれているかな」
「管理人さん……」
「禁足地で倒れている君を偶然みかけてね、ここまで連れて来たのさ」
「……そうだったんですか」
「つかぬ事を伺うけど、君はここの人間じゃないだろう」
少年はドキッとしたが、正直に答えることにした。
「……はい。ここはどこなんですか?」
「ここは、ティノラディス王国アル―リア領。禁足地との境界にある、辺境の地だ。」
「ティノラディス? 初めて聞きました」
「ほう……じゃあやはり……」
管理人さんが顎を触りながら、そっと視線をずらす。
「君、“転生者”だね」
「転生……って、転生!!」
「そうだとも、君は遠い異国の地からこの世界にやってきた転生者だ。この世界にティノラディス王国の名前を知らない人間はいない。なぜなら、この世界に存在する国家は、もうティノラディスしか残っていないからねぇ。やはり、親父たちは間違っていなかった!! 伝承の通りだ。」
管理人さんの言葉は早く、とても聞き取れなかったが、興奮していることだけは伝わった。
「でも、なんで転生なんて……僕は死んだはずなのに」
「そうだねぇ、私も言い伝えを聞いただけだから、ほんとのところは分からないがね、要するに君は選ばれたんだよ。」
「選ばれた?」
「『禁忌の川の向こうから、一人の英雄がやって来る。選ばれし英雄の到来がこの世界を変えるだろう』って伝承が、私の家系に代々言い伝えられていてね、君はその英雄ってわけさ」
「英雄……」
少年は、ワクワクした。
もし英雄になれるなら、なってみたい。
少年には、この世界の英雄というのがよくわからなかったが、元の世界でのしがらみは、もううんざりだった。
「あの?」
「なんだい?」
「……その英雄になるためには、何をすればいいですか?」
管理人さんは、目を見開いた。
そしてゆっくりと、その口を開いた。
「……英雄になってくれるのかい?」
「はい!!」
「では、君に伝承の続きを話そう」
そう言って管理人さんは、少年の旅の道を教えてくれた。
・5年前 ティノラディス王国ルドマータ領
少年は、管理人さんの伝承に従い、ルドマータ領にあると言われる“聖剣”を探していた。
命と引き換えに、とてつもない力をその身に宿すと言われる聖剣。
アルーリア領からの道中の4年間で、少年のこの世界での人脈も増えてきた。
さらに、少年は簡単な魔法をいくつか覚えていた。
“みづ”を浄化する魔法や、空腹感を埋める魔法などを覚えていたため、この世界を生き抜くのには困らなかった。
また、少年は色々なことを知った。
昔、魔王なるものの登場でこの世界の均衡が崩れ、人の暮らせる土地がこのティノラディスだけになってしまったこと。
魔王の勢力が強すぎて、人間は貧しい生活を強いられていること。
少年の旅は、単純な興味から始まった。
しかし、今では自分の正義のために、旅をしているのだ。その様子は正に、栄光を掴み取る勇者のようだった。
「リーダー、ちょっと来てください」
道中で出会った、仲間の一人が、少年に声をかける。
「どうしたのー?」
「見たことのない洞窟を見つけました!」
「……行ってみよう」
少年とその一行は、その洞窟へと進む。
洞窟はそこまで奥には続いておらず、すぐ行き止まりに当たった。
しかし、そこには少年たちの探し求めたものが、確かにあった。
「これ……もしかして」
「あぁ間違いない、伝承の聖剣だ!」
少年たちは、ついに聖剣を発見した。
「リーダー」
「あぁ、まずは僕が抜いてみるよ」
少年は持ち手に手を添えて、その聖剣を引き抜いた。
あっ――と、情けない声が漏れる。
意外にあっけなく、伝承の聖剣は抜けてしまった。
「これが……管理人さんの言ってた」
「やりましたね、リーダー」
「うん」
準備は整った。
少年たちは魔王を倒すべく、魔王城へと旅立つのだった。
・1週間前 魔王城 玉座
少年たちは5年間の旅の末、ついに魔王の玉座にまでたどり着いた。
「魔王様!奴らがもう玉座の前まで迫っています……」
「――通せ」
「は、はい!」
ギィィ――と、玉座の門が開く。
少年と、魔王が対峙する。
「貴様が、噂の……」
「……魔王」
「ん……その剣は……はは!これはまた数奇な運命に導かれたものだな!」
そう言って少年を見るなり、魔王は笑い始めた。
「なにがおかしいんだ」
「いや、貴様もご苦労なことだなと」
少年が剣を抜く。
すると、魔王も剣を取り、戦闘態勢に入った。
「この聖剣に誓って、僕がお前を倒す!!」
「ふん!なら見せてみろ、貴様の剣技」
――少年と魔王の剣がこすれ合う。
少年の仲間も、少年のサポートに徹している。
魔王は一人、少年はチーム。
その少年たちの力は、魔王の想像を超えていた。
長きに渡る攻防の末、少年は魔王の一瞬の油断をついて、その脇腹を貫いた。
「ぐはっ……っく」
「これでとどめだ」
うずくまる魔王の背中に、少年は聖剣を突き立てた。
「げはぁっ……はぁ」
少年たちの勝利だ。
これで、人間も少しは豊かに暮らせるだろう。
「き……きさま……」魔王が、その最期に、少年に語りかける。
「もう二度と、剣を振るうなよ……」
「あぁ、もうこの剣を振るうことはないだろうな」
「そう……か」
魔王が事切れた。
少年が魔王のもとを後にする。
――グシャ
鈍い音が、玉座に響く。
少年は自分のみぞおちに違和感を覚えて、顔を下ろす。
そこには、先ほどまで自分が握っていた聖剣の切っ先が、赤黒く光っていた。
「やりましたね。リーダー」
「……どうして、」
聖剣を握っていたのは、5年前、聖剣を見つけた仲間だった。
「この時をずっと待ってた……」
どうやら、少年はずっと一人だったようだ。
最初から、仲間なんていなかったのだ。
少年に、裏切った仲間の言葉を聞く余裕はなかった。
そして少年も、しばらく経たないうちに、事切れた。
・1週間前 日本某所 とある病院
少年が目を覚ますと、そこは病院であった。
あたりを見渡せば、そこが異世界などではないことが、容易に理解できた。
「あ!先生!目を覚まされましたよ!」
女性の甲高い声が響く。
ほどなくして、白衣の男性が現れた。
「ほう、これは――」
「奇跡ですよ先生!」
「本当に目覚めていたとは」
少年はなにがなんだかわからなかった。
後で聞いた話によると、どうやら少年はトラックに轢かれた後、幼馴染の通報で病院に運ばれ、手術を受けたらしい。
手術は最善を尽くしたものであったが、それでも意識は戻らなかった。
それから10年間、少年は寝たきりだったのだ。
「あの……家族は、どうしてますか?」
少年は最初に、それを病院の人に尋ねた。
「ご家族ですか?そうですね……」
とにかく、今は家族に会いたかった。
10年前、喧嘩別れしてしまった両親、妹、幼馴染、誰でもよかった。
ただ、少年は独りが怖かったのだ。
「毎日面会なさっていたんですけど、5年前にピタっと来られなくなってしまって、」
「そうですか」
少年はそれからというもの、実家に帰ってみたりしたが、家の表札が変わっており、すでに自分の家ではなくなっていた。
また、幼馴染の家にも行ってみたが、こちらもすでに違う家族の家になっていた。
少年は再び独りの夜を迎えた。
これからどうやって、生きればよいのだろう。
少年の頭をそんな考えばかりが回り続けていた。
なんかトラックに轢かれて異世界転生したら、世界を変える英雄になれそうです。 ZuRien @Zu_Rien
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