エピローグ
一条先輩が、料理番組を録るから出演してくれと言ってきました。
私は乗り気でなかったのですが、一緒にオファーを出されたみよりちゃんがオッケーしてしまったので、私も一緒に出演することになってしまいました。
そんなわけで、料理番組、『みそピー5分クッキング』を、今、民家の台所を借りて撮影しています。カメラマンは一条先輩。千波ちゃんはアシスタントディレクターとして、カメラの横でカンペを持っています。
そして、あのお馴染みの音楽が流れ出します。そう、キ〇ーピー3分クッキングのテーマ曲まんまです。とりあえず、私とみよりちゃんは、その音楽に合わせて踊ってみました。
音楽が鳴りやみました。これからスタートです。
みよりちゃんとお辞儀をして、始まりの挨拶を言います。何事も始めが肝心と言いますしね、きっちり決めないと……。
「皆さんこんにちは。みそピーごふっ」
噛んじゃった。
みよりちゃんが、「何やってんのさ見城さん」と小声で囁いてきます。
みよりちゃんは、私の失態を覆い隠す様に挨拶をし直します。
「皆さんこんにちは。みそっ」
みよりちゃんも噛んでるじゃないですか。
「みそっ、みそっぷ、みそっぽ……クッキングの時間です!」
最後めんどくさくなってぶん投げちゃったし。
「今日ご紹介する料理は、冷やし中華とすりおろしりんごです」
みそピーってタイトルに入ってるのにみそピー要素が一つもないのは何故なのでしょうか。
「えーと、まずは冷やし中華を作って……って、見城さん。わし、作り方知らないんだけど」
「奇遇ですね。私もまったく知りません」
「とりあえず、よくわかんないから中華を冷やしとこ」
こんな料理下手二人が料理番組をやっていいのでしょうか。
「それで、中華を冷やすってどうすればいいんですか?」
「中華っぽい料理を冷やせばいいんだよ」
そう言って、みよりちゃんは冷蔵庫の中(ここは民家なので勝手に冷蔵庫を漁っていることになります)を見て、中華っぽい料理を探りました。
「見城さん。なんか、作り置きの餃子と麻婆豆腐があったよ」
「よし、それを混ぜましょう」
とりあえず私たちは、ボウルの中にその二つを入れて、泡立て器で混ぜます。
「見城さん。思ったんだけどさ。これっていずれ温まっていくよね? なんか冷やすものが必要なんよ」
みよりちゃんがそういうので、私は冷蔵庫や冷凍庫の中を漁り、氷を探します。しかし、この家は氷を作っていないようで、入っている冷たいものは棒アイスのガ〇ガリ君のみ。
「これしかありませんでした」
みよりちゃんに見せると、
「よし、それしかないんだから仕方ない。見城さん、ガリガ〇君をわしが今混ぜてる中華料理の中に入れて」
「はい」
指示通り、混ぜられて泡立っている(何しろ泡立て器で混ぜたので)麻婆豆腐と餃子に、棒アイスを投入します。
「ちなみにこのアイス、ピザ味でした」
「うわ、なかなかにすごいもの持ってるねこの家」
たまにガリ〇リ君ってわけわからない味が出ますよね。
みよりちゃんは、棒アイスと共に中華料理を混ぜています。私はやることがないので、とりあえずもう片方の料理、すりおろしりんごを作ることにします。
この民家にある果物かごからりんごを取って、すりおろし器ですりおろします。そこまでは簡単な作業だったのですが、私はりんごをすりおろしている最中、あることに気づいてしまいます。
そういえば、子どものころ、すりおろしたりんごに蜂蜜をかけてレンジで温めるとおいしかったなあ、と。
せっかく思い立ったので、実行することにしました。
まず、台所から蜂蜜を探します。
が、どの棚を漁ろうが蜂蜜は見つかりません。代わりに見つかったのは『ギーオイル』とやら。よくわかりませんが、甘いものに違いないでしょう。
私は、すりおろしたりんごにギーオイルをかけました。
そして、レンジに入れて加熱し始めます。
「みよりちゃん。そちらの出来はどうですか?」
みよりちゃんが混ぜている中華料理とアイスの様子を見ます。
「なんか、すごいことになってるんよ……」
彼女の言う通り、ボウルの中では麻婆豆腐と餃子とガ〇ガリ君(ピザ味)が悲鳴をあげそうになるぐらいの色になりながら、泡だらけになっていました。
「泡立てすぎですよ、みよりちゃん」
「そ、そうかな? まあ、確かに泡立てすぎてあちこちに飛び散っちゃったけど」
確かに周りを見てみると、台所は冷やし中華(笑)の汁で汚れていました。
「わあ、みよりちゃん料理下手すぎじゃないですか」
「そんなこと言ってるけどさ見城さん。なんか、見城さんが使ってるレンジ、煙が出てるんよ」
慌ててレンジを見てみると、確かに煙が登っていました。
「い、いったいこれは……」
一瞬でいろんなことに考えを巡らせた末、絶対ギーオイルに問題があったに違いない、という結論に至ります。
もう一度ギーオイルの入っていた瓶を取り出して、ラベルに書かれている注意書きに目を通しました。
『加熱すると煙が出ることがあります』
もっと大きく書いて下さいよ。
大事なことなんですから。
「ど、どどど、どうしましょう」
思わずパニックになってしまう私。
「とりあえずレンジ止めて見城さん」
「は、はいっ」
みよりちゃんに言われて慌ててレンジを止めましたが、煙は収まりません。
「ちょ、本当にどうしましょう。ここ、他人んちの台所ですよね?」
やっぱりパニックに陥っていると、台所近くの階段から人が下りてくるのが見えました。
「……何やってるの、見城さんたち」
下りてきたのは霧でした。
「え、ここ霧の家だったんですか?」
「そうだよ、表札見ればわかると思うけど」
「そ、そうですよね……で、霧! なんかレンジから煙が上ってるんです」
「本当だ……一体何したのさ!」
霧は青ざめました。
「しかも台所やけに汚れてるし……」
またさらに、みよりちゃんが泡立てすぎて汚した台所を見て、ため息を吐きます。
「わしなんもやってないもん、ホントだもん」
みよりちゃんは口笛を吹いてしらばっくれました。
「みよりちゃんずるいですよ! この汚れに関してはみよりちゃんが犯人のくせに」
私が反論すると、霧は今までに見たことないくらい疲れた表情で、
「もう、とりあえず二人ともうちの台所一生出禁ね」
まあ、妥当なところですね。
なんて思っていたら、カンペに『残り一分』と書かれていました。
「「い、一分?」」
みよりちゃんと顔を合わせます。
「これってあれなんよね? 出来上がったものが用意されていて、『こちらになります』とか言う感じなんよね?」
みよりちゃんが訊くと、カメラを持っている一条先輩が、
「いいや。我の番組はリアルを追求していてな。そういう視聴者騙しをしないんだ」
「でもこのままだと放送事故まっしぐらですよ!」
「それもそれで味があるだろう」
「料理番組なだけにってわけですか」
「「……」」
一気に場が静まり返りました。失言をしてしまった。
沈黙を破ったのは、千波ちゃんの、
「残り十秒なのだ」
という声。
「十秒ですってどうしましょうどうしましょう!」
焦る私。
「もう、これでいいんよ」
諦めるみよりちゃん。
「とりあえずうちの台所をめちゃくちゃにしないで……」
泣きそうになっている霧。
「これはいい番組になるな」
訳知り顔でうんうん頷く一条先輩。
「5、4、3……」
カウントする千波ちゃん。
その末、千波ちゃんはカメラの前に出て、こう言って番組を締めました。
「次回もお楽しみに、なのだ!」
次回なんてあってたまりますか。
真面目系ロリコンJC見城さんの愉快な日常~今日もアホな友人やストーカー男の娘に振り回されてます!~ 苺伊千衛 @moyorinomogiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます