修学旅行⑥かなの友達
「シッポあった!」
本当に見つけやがった。
そして全員で俺を見んな。
帰りの空港。
野球部は結局集う。
かなはその真ん中で楽しそうにしていた。
「3年1年に土産買ったのか?」
「白恋3つあるっす」
「かな運営には?」
「これ」
や、じゃがりこは無しだろ。
「白恋でいいだろ
かな、お前もいる?大貴」
「いらない!
もう白恋飽きた!」
尻尾を熱心に選ぶ。
「そうだ
かな、酒は買ったけど
お母さんお菓子食うよな?」
「白恋はいらない」
白恋にしよ。
北海道といえばこれだろ。
「決めた!これにする!」
かなが得意げにかざしたふさふさの尻尾はクリーム色。
そして
「俺黒〜」
「俺これ〜」
「白銀かっけ〜な」
なぜお前らまで選ぶのか。
尻尾をこいつらみんなで野球バッグに付けて歩いてるの想像したら…
「まぁいっか」
「お会計8400円でーす」
俺は一体この修学旅行でいくら使ったのか。
手当じゃ賄えない。
「今付けよ!リュック!」
「いいね〜」
「かな貸して、ファスナーでいい?」
「隆二貸して、やってあげる」
うん、まぁいっか。
楽しそうにしやがって。
かなだけじゃなく、全員。
集合に向かう後ろ姿に、尻尾が揺れる。
飛行機の中でも、帰りのバスでも、かなは後藤や涼太に寄りかかって眠っていた。
疲れたんだろうな。
眠れなかっただろうし。
「かな、送る?」
「紗江ちゃん来てくれるから大丈夫!」
「うちのママ」
涼太が説明を足す。
「ん、じゃあゆっくり休めよ」
練習は早めに切り上げ、職員室で少しだけ仕事を片付けてから帰った。
車は無事に青藍の駐車場に停まっていた。
「車サンキュー、これ報酬だ」
「どういたしまして」
車を取りに行ってくれた大貴への土産は酒とつまみ。
吉田先生にも同じものを買った。
「白恋も入ってるからかなと食えよ。
あいつ怒るぞ
もぉ白恋飽きた!って怒ってた」
「あ…うん」
「嶺くんお疲れ〜、ビール?」
「たけちゃん、特大ジョッキで」
「禁酒3泊だもんな、お疲れ」
修学旅行→練習→かわむらで大貴と待ち合わせ
って流れだった。
「1日目は飲んだ」
「「は?」」
「あんなご馳走を前に我慢できるか」
たけちゃんが笑いながらジャッキを置く。
「かなも連れてくればよかった?
涼太の親が迎えに来るって言ってたけど」
「や…」
「大貴にも土産買っただろうし」
「嶺くん、禁句」
ゴクゴクゴク
え、なにが?
「毎夜ここで泣いてらっしゃる」
「泣いてはないです」
「なんで?」
「かなちゃんから聞いてないの?」
別に何も言ってなかったと思う。
「ふられた」
「は?」
えーーーーー……っと
「は?」
なんで?
「ふられたって…は?なんで?」
「わからない、理由は。
ほかにいい人ができたとか?」
「そんなわけ…」
「理由はいいんだ。
連絡が取れないのが答えだろうし」
「大貴、みさきがいる」
「……ん?みさき?なに急に」
やっぱ話してねぇな。
「みさきは春から青藍にいる。
かなと友達になってる。原因それだ」
それしか考えられない。
俺は間違っていた。
心配しなくても大貴はかなが好きだとか、みさきよりかなのほうが可愛いとか、そんなことじゃなかったんだかなの中では。
大貴は友達の好きな人。
「ちょ…は?え…待って…なに?」
さすがに混乱してる。
「ごめん、わざわざ言わなくてもいいかと思った。
変に波風たってもな〜って考えたけど
波風立ってたわ、ごめん」
「みさきが青藍…え?友達ってなに…」
「かな最近嬉しそうにメールしたりしてなかった?」
「してた」
「それみさき」
「……ちょ…えぇ?」
「つまみ適当でいい?」
「あれ食いたい
ささみチーズ春巻き」
「今日ないっす
春巻きの皮買うの忘れた」
「んじゃ適当で」
大貴はおそらく頭の中をフル回転で整理してる。
意識はここにいない。
「そのみさきって子なに?元カノかなんか?」
「そ、婚約してたのに別れた元カノ」
「そんな子いたんだ」
「まぁ見た目は美人よ、清楚系で」
「かなちゃんとタイプ違うじゃん」
「見た目はそんなだけど浮気もされたし
なんというか心がない」
「え、なのに婚約までしたのか?」
「いや、でもそうでもないか。
年取ったのか、かなを本当に大事に思ったのか」
大貴が顔を上げる。
「かなやっぱり寝れなくて
みさきが部屋で一緒に寝てやってた」
「え…」
「楽しそうにしてた、2人とも」
「そっか」
「あいつも多少は優しくなったかもな」
「うん、わかったけど
なんで婚約破棄になったか知りたい」
たけちゃんが大貴の前にもろきゅうを置く。
「まぁ…細々した積み重ねと、なんというか」
「聞いてる限り悪い女なんですけど」
「たけちゃん、チキン南蛮食いたい」
「はいさー」
「価値観の違いというか」
俺も詳しくは聞いてないけど、決定打は、みさきが大貴の家に挨拶に行った時だ。
本物の家族じゃないと口に出してしまったらしい。
緊張して疲れて眠りに落ちそうになりながらそう言ったと。
そういう意識の中で口に出したのは本音だろう。
大貴にとっては聞き捨てならないと思う。
若い頃のみさきは、思ったことを口に出してしまうところが確かにあった。
大貴にはそれが素直で可愛いと写っていたのかもしれない。
大貴自身は、思ったことをさらけ出すタイプではないから。
結婚を考えたほどの彼女の価値観を受け入れるより、血は繋がっていない家族を取ったと大貴は言った。
「明日みさきに連絡してみる…」
「もう連絡とるのやめたんだろ」
「でも…」
「かなに連絡しろよ」
「今は受け入れてくれないと思う」
「確かに」
それでも大貴はなんとかするんだと思う。
大事なんだ、かなのことが。
『血が繋がってないだけでしょ』
俺が笑いながらそれを話したら、大貴は笑わなかった。
だけど3テンポくらい遅れて、大貴は笑った。
心の底から安堵を漏らすように。
「あ、淳一くんおはよ
修学旅行お疲れ様でした」
次の朝、職員玄関でみさきに会った。
「なに?ため息ついちゃって」アハハ
みさきは室内用のスニーカーに履き替える。
「お前はそうだったな」
「何が?」
「友達より好きな人を取るタイプ」
「……」
「かなは友達を取るタイプだ」
口を出すつもりは微塵もなかったのに。
一瞬呆気に取られたみさきの顔から笑みが消え、そして涙を流した。
「ちょ…」
出勤時間の職員玄関だぞ!
「決心ついたとこだったのに…!」
「なにが」
「大貴のこと…諦める…」グスン
「なんだ、決めてたんだ」
「無理なんだもん…」
「無理だと思うぞ」
「かなちゃんが…苦しんでるの…」
「そっか、ならよかった」
「大貴には連絡しないから…
淳一くんから…伝えて…」
「かなに、ちゃんと友達が出来てよかった」
② yuki @yukisb
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